はじめに
米村滋人
東京大学大学院法学政治学研究科
今日の医療・医学研究における医療データの利活用の重要性は,改めて述べるまでもない.かつては,症例報告や観察研究などを中心に,比較的小規模な研究利用のみが想定されていたが,今日では,大規模な情報集積により臨床医療から産業利用に至るまで,極めて広範な目的に医療データを利活用することが可能となっている.その種の利活用を実現するための第一歩がデータシェアリングであるが,医療データの大規模収集・保管を進めるには技術的・法制度的・社会的課題がなお多く存在するのが現実である.
技術的ないし実務的には,データの標準化やデータベースの管理方式,管理費用負担の問題が存在する.この種の問題は,すでに現存する大規模バイオバンク・データベースの運用上も問題となっており,現在の実務においてどのような解決が図られているかを知ることには大きな意味がある.また,法制度的ないし社会的には,医療情報のデータシェアリングが個人情報保護法などの既存法令との関係で許容されるかが最大の問題となることに加え,さまざまな制度設計上の工夫を行うことにより困難を克服できる可能性もあり,海外の事例を参考にしつつ新たな制度を構築することも検討されてよい.
以上のようなことを踏まえつつ,本特集では,まずこの分野の第一人者と目される山本隆一氏にデータシェアリングの意義と課題を包括的に論じていただいた後に,弁護士として個人情報・プライバシーの諸問題を専門とする板倉陽一郎氏に法的課題を解説していただき,さらに医療情報学・生体情報学の専門家で東北メディカル・メガバンク計画の運営にも関わる荻島創一氏に,今後のデータシェリングのあるべき展開につき議論していただく.そのうえで,弁護士の黒田佑輝氏に欧州を中心とする諸外国の法制度を,緒方健氏にデータシェアリングの重要な活用事例を紹介していただく.さらに,川嶋実苗氏にデータベース運用によるデータシェアリングの現状と課題につき,小山暢之氏らの諸氏には製薬企業の立場から医薬品開発におけるデータシェアリングの意義と課題につき,それぞれ解説していただく.最後に,適法性を確保した今後のデータシェアリングのシステム設計について藤田卓仙氏に検討していただく.
各界の専門家による最新の分析と提言を含む本特集が,データシェアリングの重要性を再確認しつつ,その実現・発展に向けた課題克服の一助となることを願ってやまない.
米村滋人
東京大学大学院法学政治学研究科
今日の医療・医学研究における医療データの利活用の重要性は,改めて述べるまでもない.かつては,症例報告や観察研究などを中心に,比較的小規模な研究利用のみが想定されていたが,今日では,大規模な情報集積により臨床医療から産業利用に至るまで,極めて広範な目的に医療データを利活用することが可能となっている.その種の利活用を実現するための第一歩がデータシェアリングであるが,医療データの大規模収集・保管を進めるには技術的・法制度的・社会的課題がなお多く存在するのが現実である.
技術的ないし実務的には,データの標準化やデータベースの管理方式,管理費用負担の問題が存在する.この種の問題は,すでに現存する大規模バイオバンク・データベースの運用上も問題となっており,現在の実務においてどのような解決が図られているかを知ることには大きな意味がある.また,法制度的ないし社会的には,医療情報のデータシェアリングが個人情報保護法などの既存法令との関係で許容されるかが最大の問題となることに加え,さまざまな制度設計上の工夫を行うことにより困難を克服できる可能性もあり,海外の事例を参考にしつつ新たな制度を構築することも検討されてよい.
以上のようなことを踏まえつつ,本特集では,まずこの分野の第一人者と目される山本隆一氏にデータシェアリングの意義と課題を包括的に論じていただいた後に,弁護士として個人情報・プライバシーの諸問題を専門とする板倉陽一郎氏に法的課題を解説していただき,さらに医療情報学・生体情報学の専門家で東北メディカル・メガバンク計画の運営にも関わる荻島創一氏に,今後のデータシェリングのあるべき展開につき議論していただく.そのうえで,弁護士の黒田佑輝氏に欧州を中心とする諸外国の法制度を,緒方健氏にデータシェアリングの重要な活用事例を紹介していただく.さらに,川嶋実苗氏にデータベース運用によるデータシェアリングの現状と課題につき,小山暢之氏らの諸氏には製薬企業の立場から医薬品開発におけるデータシェアリングの意義と課題につき,それぞれ解説していただく.最後に,適法性を確保した今後のデータシェアリングのシステム設計について藤田卓仙氏に検討していただく.
各界の専門家による最新の分析と提言を含む本特集が,データシェアリングの重要性を再確認しつつ,その実現・発展に向けた課題克服の一助となることを願ってやまない.
特集 データシェアリングと個人情報保護の課題
はじめに(米村滋人)
医療データシェアリングの意義(山本隆一)
医療情報をめぐる個人情報保護と情報利用の課題(板倉陽一郎)
ゲノム情報とデータシェアリングの意義(荻島創一)
欧州健康データ空間(EHDS)規則の概要(黒田佑輝)
医療データシェアリングの活用実例と今後の制度的方向性(緒方 健)
データベースを通じたデータシェアリングの現状と課題(川嶋実苗)
製薬企業における臨床試験データシェアリングの意義と課題(小山暢之・他)
ヘルスケア・データシェアリングの拡大に向けた法制度の課題と展望(藤田卓仙)
TOPICS
疫学 亜鉛欠乏症─日本人の血清亜鉛濃度の現状とその特徴(横川博英)
小児科学 胎便に含まれるヒト由来タンパク質の在胎週数によるプロファイル(設樂佳彦・渡辺栄一郎)
連載
細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望─臨床への展開(21)
脊髄損傷に対するヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞移植療法の新たな治療戦略(西條裕介・他)
ケースから学ぶ臨床倫理推論(12)
サイコオンコロジー(菅野康二)
イチから学び直す医療統計(4)
ランダム化とは(長島健悟・他)
FORUM
司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(7) 医療観察法医療の現状と課題─通院処遇(久保彩子)
次号の特集予告
はじめに(米村滋人)
医療データシェアリングの意義(山本隆一)
医療情報をめぐる個人情報保護と情報利用の課題(板倉陽一郎)
ゲノム情報とデータシェアリングの意義(荻島創一)
欧州健康データ空間(EHDS)規則の概要(黒田佑輝)
医療データシェアリングの活用実例と今後の制度的方向性(緒方 健)
データベースを通じたデータシェアリングの現状と課題(川嶋実苗)
製薬企業における臨床試験データシェアリングの意義と課題(小山暢之・他)
ヘルスケア・データシェアリングの拡大に向けた法制度の課題と展望(藤田卓仙)
TOPICS
疫学 亜鉛欠乏症─日本人の血清亜鉛濃度の現状とその特徴(横川博英)
小児科学 胎便に含まれるヒト由来タンパク質の在胎週数によるプロファイル(設樂佳彦・渡辺栄一郎)
連載
細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望─臨床への展開(21)
脊髄損傷に対するヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞移植療法の新たな治療戦略(西條裕介・他)
ケースから学ぶ臨床倫理推論(12)
サイコオンコロジー(菅野康二)
イチから学び直す医療統計(4)
ランダム化とは(長島健悟・他)
FORUM
司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(7) 医療観察法医療の現状と課題─通院処遇(久保彩子)
次号の特集予告














