はじめに
小川 渉
神戸大学大学院医学研究科橋渡し科学分野代謝疾患部門
肥満症の診療は大きな変革の時代を迎えている.腹腔鏡下胃スリーブ状切除術は2014年にわが国ではじめて保険適用となったが,近年,実施施設数も増加し,年間1,000件程度の減量・代謝改善手術が行われている.また,肥満症治療薬としては,わが国ではウゴービ(R)(セマグルチド)が2024年2月に発売され,ゼップバウンド(R)(チルゼパチド)も2025年4月に発売が開始された.これら2剤は週1回型の注射製剤であるが,経口薬や月1回型注射製剤などをはじめ,さまざまな薬剤の臨床開発が進んでいる.GLP-1(glucagon-like peptide-1)およびその関連受容体に作用する肥満症治療薬は,10数%から20%を超える減量効果が報告されており,従来の肥満症治療薬とは格段に異なる減量効果が期待できる画期的新薬といえる.
肥満症治療薬については,体重の減少を主要評価とした試験だけでなく,MASLD(metabolic dysfunction associated steatotic liver disease)や睡眠時無呼吸症候群,運動器疾患など,さまざまな健康障害を主要評価とした臨床試験も進行している.現在は,2型糖尿病,脂質異常症,高血圧のいずれかの疾患を持つことが肥満症治療薬の適応基準となっているが,今後はより広範な健康障害に対する適応の拡大が期待される.肥満によって生じる健康障害は多様であり,肥満症は単なる代謝異常にとどまらず,心血管疾患,呼吸器疾患,運動器疾患,女性医学領域,さらにはメンタルヘルスや感染症に至るまで,さまざまな健康障害と関連する全身性の疾患として理解されつつある.
本特集では,肥満症の定義や治療法の最新動向に加え,肥満に関連するさまざまな疾患における治療戦略について,各領域の専門家にご執筆いただいた.また,新規治療薬の開発状況やデジタルセラピューティクス(DTx)の応用,リアルワールドデータの活用など,今後の肥満症診療に欠かせないトピックについても取り上げた.肥満症をめぐるパラダイムシフトを多角的に捉えることで,より深い理解と実践への橋渡しとなれば幸いである.
小川 渉
神戸大学大学院医学研究科橋渡し科学分野代謝疾患部門
肥満症の診療は大きな変革の時代を迎えている.腹腔鏡下胃スリーブ状切除術は2014年にわが国ではじめて保険適用となったが,近年,実施施設数も増加し,年間1,000件程度の減量・代謝改善手術が行われている.また,肥満症治療薬としては,わが国ではウゴービ(R)(セマグルチド)が2024年2月に発売され,ゼップバウンド(R)(チルゼパチド)も2025年4月に発売が開始された.これら2剤は週1回型の注射製剤であるが,経口薬や月1回型注射製剤などをはじめ,さまざまな薬剤の臨床開発が進んでいる.GLP-1(glucagon-like peptide-1)およびその関連受容体に作用する肥満症治療薬は,10数%から20%を超える減量効果が報告されており,従来の肥満症治療薬とは格段に異なる減量効果が期待できる画期的新薬といえる.
肥満症治療薬については,体重の減少を主要評価とした試験だけでなく,MASLD(metabolic dysfunction associated steatotic liver disease)や睡眠時無呼吸症候群,運動器疾患など,さまざまな健康障害を主要評価とした臨床試験も進行している.現在は,2型糖尿病,脂質異常症,高血圧のいずれかの疾患を持つことが肥満症治療薬の適応基準となっているが,今後はより広範な健康障害に対する適応の拡大が期待される.肥満によって生じる健康障害は多様であり,肥満症は単なる代謝異常にとどまらず,心血管疾患,呼吸器疾患,運動器疾患,女性医学領域,さらにはメンタルヘルスや感染症に至るまで,さまざまな健康障害と関連する全身性の疾患として理解されつつある.
本特集では,肥満症の定義や治療法の最新動向に加え,肥満に関連するさまざまな疾患における治療戦略について,各領域の専門家にご執筆いただいた.また,新規治療薬の開発状況やデジタルセラピューティクス(DTx)の応用,リアルワールドデータの活用など,今後の肥満症診療に欠かせないトピックについても取り上げた.肥満症をめぐるパラダイムシフトを多角的に捉えることで,より深い理解と実践への橋渡しとなれば幸いである.
はじめに(小川 渉)
総論
肥満症の概念と肥満症治療総論(廣田勇士)
肥満の成因─遺伝的要因の観点から(庄嶋伸浩・他)
肥満症薬物療法の現況(小幡佳也・下村伊一郎)
減量・代謝改善手術の現状(佐々木 章)
肥満関連疾患の治療戦略
肥満2型糖尿病に対する外科治療─減量・代謝改善手術(関 洋介・笠間和典)
肥満症と心不全─減量は新たな心不全の治療戦略となりうるか?(田中秀和)
肥満とMASLD/MASH(西村典久・他)
肥満関連腎臓病(ORG)の病態生理とその治療(田原稔久・他)
肥満症と呼吸器疾患(小川浩正)
運動器疾患への肥満/肥満症の影響と減量の効果(石橋英明)
肥満と女性ヘルスケア(岩佐 武・他)
高齢者の肥満・肥満症の管理(杉本 研)
肥満症は自己責任の病気ではない─心身両面から各患者を理解し,オーダーメードで治療を考える(林 果林)
感染症のリスクとしての肥満/肥満症(白川 純)
トピックス
開発中の肥満症治療薬(森野勝太郎)
肥満症診療におけるリアルワールドデータベースの構築と展望─J-ORBITの取り組み(西影星二・他)
女性のやせと低栄養の健康課題─女性の低体重/低栄養症候群(田村好史)
肥満症治療薬の適正な使用のために(小川 渉)
次号の特集予告
サイドメモ
セマグルチドとチルゼパチド
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(腹腔鏡下SG)
Obesity paradox
オベシティスティグマ
減量・代謝改善手術
抗肥満薬
肥満/肥満症に伴うホルモンや生理活性物質への抵抗性
総論
肥満症の概念と肥満症治療総論(廣田勇士)
肥満の成因─遺伝的要因の観点から(庄嶋伸浩・他)
肥満症薬物療法の現況(小幡佳也・下村伊一郎)
減量・代謝改善手術の現状(佐々木 章)
肥満関連疾患の治療戦略
肥満2型糖尿病に対する外科治療─減量・代謝改善手術(関 洋介・笠間和典)
肥満症と心不全─減量は新たな心不全の治療戦略となりうるか?(田中秀和)
肥満とMASLD/MASH(西村典久・他)
肥満関連腎臓病(ORG)の病態生理とその治療(田原稔久・他)
肥満症と呼吸器疾患(小川浩正)
運動器疾患への肥満/肥満症の影響と減量の効果(石橋英明)
肥満と女性ヘルスケア(岩佐 武・他)
高齢者の肥満・肥満症の管理(杉本 研)
肥満症は自己責任の病気ではない─心身両面から各患者を理解し,オーダーメードで治療を考える(林 果林)
感染症のリスクとしての肥満/肥満症(白川 純)
トピックス
開発中の肥満症治療薬(森野勝太郎)
肥満症診療におけるリアルワールドデータベースの構築と展望─J-ORBITの取り組み(西影星二・他)
女性のやせと低栄養の健康課題─女性の低体重/低栄養症候群(田村好史)
肥満症治療薬の適正な使用のために(小川 渉)
次号の特集予告
サイドメモ
セマグルチドとチルゼパチド
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(腹腔鏡下SG)
Obesity paradox
オベシティスティグマ
減量・代謝改善手術
抗肥満薬
肥満/肥満症に伴うホルモンや生理活性物質への抵抗性














