やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 桐野洋平
 横浜市立大学大学院医学研究科幹細胞免疫制御内科学
 VEXAS(vacuoles,E1 enzyme,X-linked,autoinflammatory,somatic)症候群は,2020年にはじめて報告された新しい疾患概念である.本疾患は,加齢に伴い造血幹細胞に生じるUBA1遺伝子の後天的変異に起因する中高年男性の疾患であり,炎症性疾患と血液疾患の両方の要素を持つことが特徴である.
 臨床症状は極めて多彩であり,皮疹,肺病変,軟骨炎,骨髄異形成症候群などを呈し,リウマチ・膠原病内科,皮膚科,総合診療科,血液内科,呼吸器内科など,さまざまな診療科にて対応を要する場合が少なくない.しかし,現時点では診断基準は確立されておらず,また,UBA1遺伝子検査が保険適用外であることから,疑われる症例に遭遇しても診断することが困難である.
 加えて,治療法の確立が進んでいない点も本症候群の大きな課題である.現状,グルココルチコイド,免疫抑制剤,生物学的製剤などが経験的治療として使用されているものの,治療効果は多くの患者において限定的であり,治療を減量すると再発することが多く,長期間にわたり高用量のグルココルチコイドが必要となる症例がほとんどである.必然的に感染症,血栓症などの合併症を起こしやすい.また,VEXAS症候群と類似の症状を呈しつつもUBA1遺伝子検査陰性症例の扱いも課題である.
 このように,VEXAS症候群を含めた“後天性自己炎症性疾患”を取り巻く環境は依然として困難な状況にあるものの,わが国では,日本医療研究開発機構(AMED)や厚生労働省研究班の支援のもと,全国規模の前向きレジストリ研究が進行中であり,基礎研究や診断基盤の整備も着実に進められている.加えて,国際的にも診療ガイドラインの策定や治療薬開発に向けた機運が高まりをみせている.
 本特集では,VEXAS症候群の診療および研究に携わる第一線の諸先生方に,疫学,病態,臨床症状,遺伝子検査,治療法に関する最新知見を解説いただく.本特集が,本症候群の診療の一助となることを切に祈念する.
特集 知っておきたいVEXAS症候群─早期診断と治療
 はじめに(桐野洋平)
 VEXAS症候群の病態(東谷佳奈・桐野洋平)
 VEXAS症候群の遺伝学─現在の視点(三好雄二)
 VEXAS症候群の疫学とレジストリ研究(前田彩花)
 VEXAS症候群の皮膚症状(渡邊友也)
 VEXAS症候群の呼吸器病変と鑑別(田中和樹)
 VEXAS症候群における免疫不全と感染症リスク(清水俊匡)
 VEXAS症候群の血管病変と関節病変(小田修宏・六反田 諒)
 VEXAS症候群と鑑別すべき疾患(浅野智之)

TOPICS
 癌・腫瘍学 原発不明がんに対する治療の最新の話題(谷ア潤子)
 脳神経外科学 外科治療が適応となる認知症─特発性正常圧水頭症に対するシャント手術(細見晃一・貴島晴彦)

連載
自己指向性免疫学の新展開─生体防御における自己認識の功罪(30)
 自然免疫応答における自己・非自己RNAの認識(加藤一希)

細胞を用いた再生医療の現状と今後の展望─臨床への展開(16)
 歯根膜由来間葉系幹細胞シートを用いた歯周組織の再生(岩田隆紀)

ケースから学ぶ臨床倫理推論(7)
 自殺企図患者(金田浩由紀)

FORUM
 病院建築への誘い─医療者と病院建築のかかわりを考える 特別編―建築からみる周産期母子医療施設(亀谷佳保里)
 司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(2) 法的処遇の分岐点における精神科医の関わり(田口寿子)

 次号の特集予告