やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 佐藤淳子
 順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学
 糖尿病診療における食事療法の在り方は,この10年大きく変わった.“糖質制限vs.カロリー制限“の二項対立を認めた時期もあるものの,現在はこうした単純な構図にはおさまらない“個別化食事療法”の模索の時期と考えている.しかし,「個別化食事療法とはどういうものなのか」「どうやって実践したらよいのか」といった疑問にはまだ明確な答えが出ていない.すくなくとも実際の診療の現場では暗中模索の状況である.こうした状況を打破するための指針を得たいと思い,今回は6人(グループ)の先生方に原稿をお願いした.
 早くから“科学的根拠に基づく栄養学”を提唱され,DHQ(自記式食事歴法質問票)の開発などを手掛けてこられた佐々木敏先生は,この個別化食事療法に関する理論,そしてそれを実践するためのツールと技術について教えてくださった.カーボカウントの第一人者である川村智行先生は,カーボカウントという方法からみた糖質制限とカロリー制限について明確にしてくださった.多くの実践的な疫学研究をリードされている坂根直樹先生は,食事療法に対する反応は個人差が大きいことを明らかにし,機序計算モデルを使用した具体的な個別化食事療法の可能性を示された.石見佳子先生のグループは,諸外国の食事摂取基準と栄養表示,健康施策などについてまとめてくださった.食事療法の在り方を考える場合,世界に目を向けて各国の施策を知ることはとても重要である.橋徳江先生は,日本糖尿病学会の食事療法の歴史をたどり,実際の栄養指導がどのように行われているかを具体的に示して課題を明確にしてくださった.門脇聡先生のグループは,SGLT2阻害薬を使用している糖尿病患者が極端な糖質制限を行った際に起こりえる正常血糖ケトアシドーシスの症例を紹介し,食事療法の個別化が重要である一方で,薬物療法を行っている患者においては注意が必要であることを示した.
 本特集が今後の“個別化食事療法”を考えるための多くの指針を示していることは間違いない.ご協力いただいた先生方に心より感謝申し上げます.
特集 糖尿病の個別化食事療法を考える─糖質制限 vs. カロリー制限を超えて
 はじめに(佐藤淳子)
 糖尿病における食事療法の個別化─理論,ツール,そして技術(佐々木 敏)
 カーボカウントからみた糖質制限法とカロリー制限法(川村智行)
 プレジション・ニュートリション─糖尿病食事療法の個別化(坂根直樹)
 諸外国の食事摂取基準と栄養表示(石見佳子・他)
 日本糖尿病学会の食事療法(橋徳江)
 糖質制限と正常血糖ケトアシドーシス(euDKA)─SGLT2阻害薬を使用する際の注意点(門脇 聡・他)

TOPICS
 病理学 日本病理精度保証機構による外部精度評価(畑中佳奈子・鬼島 宏)
 神経内科学 脳内乳酸バイオセンサーLACCO(ラッコ)シリーズの開発(那須雄介)

連載
臨床医のための微生物学講座(21)
 マイコプラズマ(大石智洋)

緩和医療のアップデート(16)
 精神症状(不眠,抑うつ,不安)エビデンスアップデート─変遷:今や,第一選択は“非薬物”治療の時代へ,そしてDX(大谷弘行)

自己指向性免疫学の新展開─生体防御における自己認識の功罪(8)
 RNA修飾破綻による自己指向性免疫応答(吉永正憲)

FORUM
 死を看取る─死因究明の場にて(22) 死因究明の実践(5)(大澤資樹)
 数理で理解する発がん(14) ライト・フィッシャーモデル(中林 潤)
 書評『患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック』(日本形成外科学会編)(戸井雅和)

 次号の特集予告