はじめに
―なぜ,いま便秘か
中島 淳
横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学教室
“便秘といえば女性の病気,生活の質(QOL)を低下させるが生命予後には関係ない”は過去の話
内科の教科書で慢性便秘症の項目をひも解くと,過敏性腸疾患とともに“QOLは低下させるが生命予後には影響しない“と記載されているが,実は状況は大きく変わってきている.便秘患者は60歳未満では確かに女性が多いが,患者の多くは60歳以上で,しかも高齢になれば性差があまりない,しかも超高齢社会の到来で患者数が著増している.泌尿器科や婦人科など内科のみならず,あらゆる診療科に患者が多くいる.しかも最近の大規模疫学研究では,便秘患者の生命予後が有意に悪いことが国内外の報告で明らかになっており“便秘は死ぬ病気”であることが明らかになった.その多くは心血管イベントである.高齢者の便秘は食事摂取量の低下を招き,フレイル・サルコペニアの悪循環につながる深刻な健康上の問題を引き起こし,まさに治療しなければならない病気になってきた.
あらゆる診療科で便秘患者を診なければならない
どの診療科でも便秘患者が多く,高齢者のみならず小児科ではかつては想像できなかった状況になり,大きな問題となっている.また整形外科でのオピオイドの使用量の増大によるオピオイド誘発性便秘の増加など,さまざまな薬剤性便秘患者が増えており,医療上の問題となっている.ここ10年で多くの便秘治療新薬が登場し,一体全体どう使えばよいのかという問題もでてきている.非専門の医師が便秘患者をみる際のガイドラインも2017年度にわが国ではじめて発刊され,大きな反響があり,2023年に改訂版が世にでることになった.
便秘の病態解明や診断,治療のさらなる向上が健康寿命を延ばす鍵となるであろう
最近の研究では便秘症は心血管イベントのみならず,慢性腎臓病の発症リスクを高めること,さらには認知症のリスクを高めることなどが明らかにされ,大変興味深い研究成果が世にでてきている.特に腸内細菌の便秘による変化がさまざまな疾患の発症と関わっているかもしれないというのは興味深い.
おわりに
本特集では,便秘の“いま”をわが国の第一線の研究者に解説いただいた.超高齢社会を本格的に迎え,今一度,便秘症の重要性を再認識する機会になれば幸いです.
―なぜ,いま便秘か
中島 淳
横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学教室
“便秘といえば女性の病気,生活の質(QOL)を低下させるが生命予後には関係ない”は過去の話
内科の教科書で慢性便秘症の項目をひも解くと,過敏性腸疾患とともに“QOLは低下させるが生命予後には影響しない“と記載されているが,実は状況は大きく変わってきている.便秘患者は60歳未満では確かに女性が多いが,患者の多くは60歳以上で,しかも高齢になれば性差があまりない,しかも超高齢社会の到来で患者数が著増している.泌尿器科や婦人科など内科のみならず,あらゆる診療科に患者が多くいる.しかも最近の大規模疫学研究では,便秘患者の生命予後が有意に悪いことが国内外の報告で明らかになっており“便秘は死ぬ病気”であることが明らかになった.その多くは心血管イベントである.高齢者の便秘は食事摂取量の低下を招き,フレイル・サルコペニアの悪循環につながる深刻な健康上の問題を引き起こし,まさに治療しなければならない病気になってきた.
あらゆる診療科で便秘患者を診なければならない
どの診療科でも便秘患者が多く,高齢者のみならず小児科ではかつては想像できなかった状況になり,大きな問題となっている.また整形外科でのオピオイドの使用量の増大によるオピオイド誘発性便秘の増加など,さまざまな薬剤性便秘患者が増えており,医療上の問題となっている.ここ10年で多くの便秘治療新薬が登場し,一体全体どう使えばよいのかという問題もでてきている.非専門の医師が便秘患者をみる際のガイドラインも2017年度にわが国ではじめて発刊され,大きな反響があり,2023年に改訂版が世にでることになった.
便秘の病態解明や診断,治療のさらなる向上が健康寿命を延ばす鍵となるであろう
最近の研究では便秘症は心血管イベントのみならず,慢性腎臓病の発症リスクを高めること,さらには認知症のリスクを高めることなどが明らかにされ,大変興味深い研究成果が世にでてきている.特に腸内細菌の便秘による変化がさまざまな疾患の発症と関わっているかもしれないというのは興味深い.
おわりに
本特集では,便秘の“いま”をわが国の第一線の研究者に解説いただいた.超高齢社会を本格的に迎え,今一度,便秘症の重要性を再認識する機会になれば幸いです.
特集 便秘を科学する
はじめに─なぜ,いま便秘か(中島 淳)
便秘の病態分類に迫る─最新のガイドラインを踏まえて(三澤 昇)
慢性便秘症の病態メカニズムと検査モダリティ(安部達也)
慢性便秘症患者の便意と直腸知覚鈍麻(眞部紀明・春間 賢)
腸内細菌叢の力─慢性便秘症を解き明かす(内藤裕二・木智久)
外科医の視点─慢性便秘症の診断と治療の鍵(河原秀次郎)
精神科と便秘─精神科における便秘診療を解きほぐす(長尾知子・他)
オピオイド誘発性便秘の診断と治療(結束貴臣・他)
看護の力─エコーによる直腸便貯留の観察に基づく便秘ケア(松本 勝・真田弘美)
便秘薬の種類・特徴と使い方─患者満足度の高い薬の使い方(津田桃子)
TOPICS
免疫学 制御性T細胞のmPGES-1/PGE2-EP4受容体経路を介した血管新生(天野英樹・江島耕二)
臨床検査医学 臨床検査としての生理機能検査─特に標準12誘導心電図について(古川泰司)
連載
臨床医のための微生物学講座(13)
エンテロウイルス(コクサッキーウイルス,エコーウイルス,エンテロウイルス),コロナウイルス(幾P 樹・大宜見 力)
緩和医療のアップデート(8)
終末期の治療抵抗性の苦痛に対する鎮静─海外における適用の拡大と国内臨床でいま注意するべきこと(森田達也)
FORUM
死を看取る─死因究明の場にて(14) 死亡診断(6)(大澤資樹)
次号の特集予告
はじめに─なぜ,いま便秘か(中島 淳)
便秘の病態分類に迫る─最新のガイドラインを踏まえて(三澤 昇)
慢性便秘症の病態メカニズムと検査モダリティ(安部達也)
慢性便秘症患者の便意と直腸知覚鈍麻(眞部紀明・春間 賢)
腸内細菌叢の力─慢性便秘症を解き明かす(内藤裕二・木智久)
外科医の視点─慢性便秘症の診断と治療の鍵(河原秀次郎)
精神科と便秘─精神科における便秘診療を解きほぐす(長尾知子・他)
オピオイド誘発性便秘の診断と治療(結束貴臣・他)
看護の力─エコーによる直腸便貯留の観察に基づく便秘ケア(松本 勝・真田弘美)
便秘薬の種類・特徴と使い方─患者満足度の高い薬の使い方(津田桃子)
TOPICS
免疫学 制御性T細胞のmPGES-1/PGE2-EP4受容体経路を介した血管新生(天野英樹・江島耕二)
臨床検査医学 臨床検査としての生理機能検査─特に標準12誘導心電図について(古川泰司)
連載
臨床医のための微生物学講座(13)
エンテロウイルス(コクサッキーウイルス,エコーウイルス,エンテロウイルス),コロナウイルス(幾P 樹・大宜見 力)
緩和医療のアップデート(8)
終末期の治療抵抗性の苦痛に対する鎮静─海外における適用の拡大と国内臨床でいま注意するべきこと(森田達也)
FORUM
死を看取る─死因究明の場にて(14) 死亡診断(6)(大澤資樹)
次号の特集予告














