やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 奥山隆平
 信州大学医学部皮膚科
 皮膚の診察には皮膚科医だけでなく,多くの医師が従事しており,診療中に「この皮疹は何であろう」と感じることは日常茶飯事であろう.実際のところ,一般診療の現場において皮膚疾患の症例数の占める割合は高く,多くの報告が20%を超えるとしている.皮膚疾患の診療で苦慮するのは多くの医師が経験することであるが,特に皮膚がんはQOLを大きく障害することから,診断と治療に慎重を期す必要があろう.
 しかし,皮膚がんといっても有棘細胞癌,基底細胞癌,悪性黒色種,乳房外パジェット病など,異なる性質の有するがんの集合体である.形状や性質はさまざまであり,治療も一様ではない.また,皮膚にはさまざまな良性腫瘍も生じる.色素細胞母斑(いわゆるホクロ)と脂漏性角化症(いわゆる老人性いぼ)などは極めてありふれた皮膚の良性腫瘍であり,日常診療でよく遭遇する.目の前の皮疹がホクロや老人性いぼといった良性腫瘍なのか,実は皮膚がんなのか判断に迫られる場合はまれでない.実際,診断に苦慮する場合も少なくなく,適切な対応をとることは決して容易でない.
 また,皮膚がんにはさまざまながんが存在する一方で,その発症には多くの場合,紫外線が密接に関わっている.われわれは太陽の光を浴びて暮らしているので,超高齢社会の到来に伴い皮膚がんの患者数が増加するのも当然である.罹患数で比較すると,2010年代には1980年代の2倍以上になっている.好むと好まざるとにかかわらず,医師は皮膚がんへの対応を求められる状況であり,その機会は今後ますます高まるであろう.
 そこで今回,皮膚がんに関して特集を企画させていただいた.皮膚がんにおける診療のツボを最近の進歩も含め,エキスパートの方に解説いただいた.読者の皆様の皮膚がんに対する理解のプラスになるとともに,日常診療に資することとなれば望外の喜びである.
特集 皮膚の悪性腫瘍─研究と診療の進歩
 はじめに(奥山隆平)
 メラノーマにおける研究と診療の進歩(猪爪隆史)
 有棘細胞癌の最新治療戦略(前川武雄)
 顔面基底細胞癌の診断と治療(野村 正・寺師浩人)
 乳房外パジェット病の臨床と研究の最前線(中村 瞳・他)
 皮膚血管肉腫の治療─現在と今後の展望(藤澤康弘)
 メルケル細胞癌の研究・臨床における進歩(中村元樹)
 皮膚T細胞リンパ腫に対する分子標的薬の進歩(宮垣朝光)

TOPICS
 循環器内科学 周産期心筋症の発症予防因子ZFP36L2(神津英至)
 小児科学 保育器内の早産児のアルコール曝露を軽減するための対策(藤山 聡・他)

連載
臨床医のための微生物学講座(12)
 ヒトのフサリウム症(村長保憲・亀井克彦)

緩和医療のアップデート(7)
 末期腎不全─透析の見合わせの現状と課題(足立誠司)

FORUM
 死を看取る─死因究明の場にて(13) 死亡診断(5)(大澤資樹)
 数理で理解する発がん(11) ハーディー・ワインベルグの法則(中林 潤)

 次号の特集予告