やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 海老澤元宏
 国立病院機構相模原病院臨床研究センター
 日本アレルギー学会(Japanese Society of Allergology:JSA)では,2022年8月末に世界アレルギー機構(World Allergy Organization:WAO)の「アナフィラキシーガイダンス2020」をベースに,アナフィラキシーガイドラインを8年ぶりに改訂した.
 大きく変わった点の1つ目として,アナフィラキシーの診断基準が3つから2つに簡素化され,アレルゲンの曝露や曝露が疑われる場合には,単独の呼吸器症状(気管支攣縮・喉頭症状)でもアドレナリンの筋肉注射をためらわないでより積極的に行っていく方針が示された.なお,1つ目の診断基準「A.気道・呼吸」における“呼吸不全“(第1刷)が“重度の呼吸器症状”(第2刷)に変更されているので注意していただきたい.
 2つ目の改訂のポイントとして,2014年以降の8年間にほとんど皆無であった,わが国におけるアナフィラキシーのエビデンスが少しずつ集まり,それらの情報を加えた点である.JSA認定教育研修施設によびかけて1年間のアナフィラキシーの症例集積を行い,そのデータの解析,さらに医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical DevicesAgency:PMDA)の許可の下,医薬品副作用データベース(Japanese Adverse Drug EventReport database:JADER)における薬剤によるアナフィラキシーおよびショックの1万超の症例を解析した2論文を,2022年に『アレルギー』誌で報告した.それらのデータを引用し,ガイドラインにおいてわかりやすく示している.また,ハチ毒によるアナフィラキシーのデータ,エピペン(R)に関する有効性や誤注射のデータも,2005年発売後の全例調査時点のデータに加え論文を引用して示している.ガイドラインの外観はブルーを基調としたものから赤の表紙に変更され,会員には印刷媒体として第1刷が2022年8月末に配布された.JSAアナフィラキシー啓発サイトから誰でもPDF(第2刷)およびスライド版がダウンロード可能な状態になっているので,各方面の啓発活動に協力をお願いしたい.
 本企画のアナフィラキシーの特集として原因別のアナフィラキシーの詳細,場面別(学校,周術期)などに関して第一人者の先生方に執筆していただいた.この企画を通してアナフィラキシーへの対応が改善することを期待したい.
特集 アナフィラキシー up to date 2024
 はじめに(海老澤元宏)
 「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイント(近藤康人)
 アナフィラキシーの疫学(佐藤さくら)
 食物によるアナフィラキシー(福冨友馬)
 学校におけるアナフィラキシー対応(今井孝成)
 昆虫刺傷とアナフィラキシー(廣川尚慶・他)
 薬物によるアナフィラキシー(山口正雄)
 周術期のアナフィラキシー(高澤知規)

TOPICS
 麻酔科学 レミマゾラム─わが国からのエビデンス(中島芳樹)
 癌・腫瘍学 横紋筋肉腫の悪性度を決定する分子メカニズム(藤村篤史・富澤一仁)

連載
臨床医のための微生物学講座(6)
 侵襲性B群溶血性連鎖球菌感染症─高齢者〜新生児/乳児〜基礎疾患保有者における疾患のひとつとして(橋 孝)

緩和医療のアップデート(1)
 はじめに(関根龍一)
 在宅における緩和ケア(平原佐斗司)

FORUM
 世界の食生活(15) 食べるために生きる?─フランスにおける美食と健康の哲学(和田 萌)
 死を看取る─死因究明の場にて(7) 脳死(2)(大澤資樹)
 数理で理解する発がん(9) ランダムウォーク(中林 潤)

 次号の特集予告