はじめに
矢野真吾
東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科
日本人の死因順位は,1981年より悪性新生物が1位を占め,1997年より心疾患が2位と続く.かつて,がんは進行性で予後の悪い疾患であったが,基礎研究および臨床研究の着実な成果により,がん患者の生命予後は大幅に改善してきた.がんの増殖メカニズムや免疫回避の機序が解明されつつあり,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が矢継ぎ早に登場した.従来の化学療法,手術療法,放射線療法のほかに,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を組み入れた治療を行うことにより,がんは治癒が期待できる疾患になってきている.一方,がん治療の進歩に伴い,心疾患を有する患者ががんに罹患する事例やがん患者が治療関連心血管毒性(cancer therapy-related cardiovascular toxicity:CTR-CVT)を発症する事例が増えてきており,腫瘍循環器学(Onco-Cardiology)の重要性が注目されている.
腫瘍循環器学は,がん治療を最適化するために循環器医とがん治療医が協働で行う学問で,CTR-CVTの適切な管理によりがん治療を完遂し,がん患者の予後と生活の質の改善することを目的にしている.わが国では2017年に日本腫瘍循環器学会が設立され,2019年にOnco-Cardiologyガイドラインの作成委員会が組閣された.今回の『Onco-cardiologyガイドライン』は,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に従って作成した.ガイドライン作成委員会で重要臨床課題10項目を抽出し,構成要素(PICO)を選出して16のクリニカルクエスチョン(CQ)を設定した.しかし,システマティックレビューではエビデンスの評価ができるCQは5つにとどまることが明らかになった.そして,11のCQはfuture research questionまたはbackground questionとし,CQと区別してステートメントと解説文を記載することになった.
今回のガイドラインの作成を通して,腫瘍循環器学は質・量ともにエビデンスが不足していることを改めて痛感した.一方,腫瘍循環器学は日々進歩しており,Onco-Cardiologyガイドラインは改訂を重ねていく必要がある.“Onco-Cardiologyガイドライン”を通じて,循環器医とがん治療医の連携がより円滑となり,がん患者の予後とQOLの改善の助けになることを期待する.
矢野真吾
東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科
日本人の死因順位は,1981年より悪性新生物が1位を占め,1997年より心疾患が2位と続く.かつて,がんは進行性で予後の悪い疾患であったが,基礎研究および臨床研究の着実な成果により,がん患者の生命予後は大幅に改善してきた.がんの増殖メカニズムや免疫回避の機序が解明されつつあり,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が矢継ぎ早に登場した.従来の化学療法,手術療法,放射線療法のほかに,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を組み入れた治療を行うことにより,がんは治癒が期待できる疾患になってきている.一方,がん治療の進歩に伴い,心疾患を有する患者ががんに罹患する事例やがん患者が治療関連心血管毒性(cancer therapy-related cardiovascular toxicity:CTR-CVT)を発症する事例が増えてきており,腫瘍循環器学(Onco-Cardiology)の重要性が注目されている.
腫瘍循環器学は,がん治療を最適化するために循環器医とがん治療医が協働で行う学問で,CTR-CVTの適切な管理によりがん治療を完遂し,がん患者の予後と生活の質の改善することを目的にしている.わが国では2017年に日本腫瘍循環器学会が設立され,2019年にOnco-Cardiologyガイドラインの作成委員会が組閣された.今回の『Onco-cardiologyガイドライン』は,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に従って作成した.ガイドライン作成委員会で重要臨床課題10項目を抽出し,構成要素(PICO)を選出して16のクリニカルクエスチョン(CQ)を設定した.しかし,システマティックレビューではエビデンスの評価ができるCQは5つにとどまることが明らかになった.そして,11のCQはfuture research questionまたはbackground questionとし,CQと区別してステートメントと解説文を記載することになった.
今回のガイドラインの作成を通して,腫瘍循環器学は質・量ともにエビデンスが不足していることを改めて痛感した.一方,腫瘍循環器学は日々進歩しており,Onco-Cardiologyガイドラインは改訂を重ねていく必要がある.“Onco-Cardiologyガイドライン”を通じて,循環器医とがん治療医の連携がより円滑となり,がん患者の予後とQOLの改善の助けになることを期待する.
特集 Onco-Cardiology─最新ガイドラインと今後の課題
はじめに(矢野真吾)
腫瘍循環器学の歩み─診療ガイドラインが示すエビデンス・ギャップと今後の課題(佐瀬一洋)
がん薬物療法施行中に発症する心機能障害を評価する検査の使い方は?(郡司匡弘)
心血管疾患のあるHER2陽性乳がん患者に対する薬物療法─抗HER2薬の投与は有用か?(柴田雅央・澤木正孝)
免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎の診断とスクリーニングの現在(庄司正昭)
がん薬物療法に伴う静脈血栓塞栓症の診断とマネジメント─凝固線溶系分子マーカーは有用か?(窓岩清治)
心毒性のあるがん薬物療法─Evidenceとexperienceをいかした患者中心の管理を考える(坂東泰子)
がん薬物療法における心保護薬の投与は有用か?(下村昭彦)
連載
医療システムの質・効率・公正─医療経済学の新たな展開(17)
医師の働き方改革における追加的健康確保措置(和田裕雄・他)
遺伝カウンセリング─その価値と今後(7)
非侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT)と遺伝カウンセリング(大江瑞恵)
TOPICS
救急・集中治療医学 餅による窒息リスクと応急手当:現状と将来の取り組み(MOCHI registry)(五十嵐 豊)
加齢医学 毎日の温泉習慣が高齢者の“うつ”の少なさに関連(山崎 聡)
FORUM
世界の食生活(6) オラン・アスリの食生活(信田敏宏)
米国の最先端がん研究治療─脳を中心に(中野伊知郎)
次号の特集予告
はじめに(矢野真吾)
腫瘍循環器学の歩み─診療ガイドラインが示すエビデンス・ギャップと今後の課題(佐瀬一洋)
がん薬物療法施行中に発症する心機能障害を評価する検査の使い方は?(郡司匡弘)
心血管疾患のあるHER2陽性乳がん患者に対する薬物療法─抗HER2薬の投与は有用か?(柴田雅央・澤木正孝)
免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎の診断とスクリーニングの現在(庄司正昭)
がん薬物療法に伴う静脈血栓塞栓症の診断とマネジメント─凝固線溶系分子マーカーは有用か?(窓岩清治)
心毒性のあるがん薬物療法─Evidenceとexperienceをいかした患者中心の管理を考える(坂東泰子)
がん薬物療法における心保護薬の投与は有用か?(下村昭彦)
連載
医療システムの質・効率・公正─医療経済学の新たな展開(17)
医師の働き方改革における追加的健康確保措置(和田裕雄・他)
遺伝カウンセリング─その価値と今後(7)
非侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT)と遺伝カウンセリング(大江瑞恵)
TOPICS
救急・集中治療医学 餅による窒息リスクと応急手当:現状と将来の取り組み(MOCHI registry)(五十嵐 豊)
加齢医学 毎日の温泉習慣が高齢者の“うつ”の少なさに関連(山崎 聡)
FORUM
世界の食生活(6) オラン・アスリの食生活(信田敏宏)
米国の最先端がん研究治療─脳を中心に(中野伊知郎)
次号の特集予告














