やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 平島奈津子
 国際医療福祉大学三田病院精神科
 適応障害(適応反応症)は,精神科以外の医師にとってもよく耳にする診断名のひとつである.しかし,その診断基準が正しく理解されているかというと疑問である.適応障害(適応反応症)は単なる適応不全を指すものではなく,ストレス因(stressor)と症状の発現・消失との時間的因果関係を診断要件とする精神疾患である.
 ストレス因がもたらす反応は不安やイライラなどの精神面だけではなく,血圧の変動や血糖の上昇,免疫力の低下などの身体面にも現れる.適応障害(適応反応症)は,ストレス因に比べてそのような心身への反応が重篤な現れ方をし,その結果として職業,学業,家庭などの活動に大きな支障をきたす疾病だが,ストレス因がなくなれば症状も軽快するという特徴を有している.
 適応障害(適応反応症)の有病率については,地域集団におけるエビデンスは限られており 1),精神科臨床場面では5〜20%と,調査により異なる 2).そのなかで,産業保健や緩和ケアの領域における有病率の高さが知られている 2).その理由として,これらの領域ではストレス因が着目されやすいことがあげられるように思う.
 われわれは日々,さまざまなストレス因を体験している.それらのストレス因に対して適切に対処することが,疾病予防やメンタルヘルスの維持・向上につながることがある.その意味では,適応障害(適応反応症)は現代的な精神疾患といえるかもしれない.
 本特集の前半では適応障害(適応反応症)について総論的に紹介し,後半ではさまざまな領域における適応障害(適応反応症)の予防と対策について論じている.

 文献
  1)O'Donnell ML et al.Am J Psychiatry 2016;173(12):1231-8.
  2)高橋三郎,大野裕監訳.適応障害.DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル第5版.医学書院;2014,p.284-7.
特集 適応障害(適応反応症)の予防と対策
 はじめに(平島奈津子)
【総論】
 適応障害(適応反応症)の概念と診断(平島奈津子)
 適応障害と自殺(張 賢徳)
 “適応障害“と診断されがちな“新型/現代型うつ”の治療戦略─“逃げたいこころ”への共感と理解を促す心理社会的支援(加藤隆弘)
【予防と対策】
 適応障害の文脈におけるマインドフルネス認知療法(佐渡充洋)
 子どもの適応障害のとらえ方と対応のあり方(笠原麻里)
 進行がん患者における適応障害の予防と対策(土井善貴・清水 研)
 産業現場における適応障害の予防と対策(吉益晴夫・柴ア智美)
 “職場のうつ”(適応障害)への対応策─精神科診断書による意見申述(井原 裕)

連載
医療システムの質・効率・公正─医療経済学の新たな展開(14)
 医師数の地域差と将来予測(原 広司)

遺伝カウンセリング─その価値と今後(4)
 遺伝医療における倫理的課題(津幡真理)

TOPICS
 眼科学 アルギニンメチル基転移酵素METTL23変異と正常眼圧緑内障(潘 洋・岩田 岳)
 小児科学 子どものスクリーンタイム・神経発達・外遊び(土屋賢治)

FORUM
 日本型セルフケアへのあゆみ(22) がん在宅療養における医療的ケアと薬学的ケア(児玉龍彦)

 次号の特集予告