やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 福田大受
 大阪公立大学大学院医学研究科循環器内科学
 食事から摂取したエネルギーのうち消費されなかった余剰分は,本来,中性脂肪として皮下や腹部の脂肪組織に蓄積される.しかし近年,脂肪組織以外にも心臓周囲や血管周囲,肝臓,筋肉などにも脂肪が蓄積することがわかってきた.脂肪貯蔵臓器ではないこれらの臓器・組織に蓄積した脂肪は異所性脂肪とよばれる.異所性脂肪は動脈硬化や心不全,心房細動など,心血管疾患の発症や重症化,治療反応性と関連することから注目されている.
 一般的に,内臓肥満は耐糖能障害,高血圧症,脂質異常症のリスク増大に関与しており,心血管病の発症リスクとなることが広く知られている.脂肪組織は単にエネルギーを貯蔵するための臓器ではない.肥満の脂肪組織では脂肪組織における炎症細胞の浸潤や線維化などの組織構造の変化(リモデリング)によって,アディポサイトカインの調整異常や脂肪細胞の機能異常が生じ,異所性脂肪が蓄積するとともに,心血管病のリスクになると考えられている.
 しかし,肥満がなくても異所性脂肪の蓄積がみられることによって,さまざまな生活習慣病の発症が増加することが明らかになってきた.日本人は欧米人に比べ,肥満がなくても生活習慣病を発症する人が多いが,その原因のひとつとして異所性脂肪の蓄積が注目されている.異所性脂肪の蓄積によりインスリン抵抗性が惹起され,糖尿病やメタボリック症候群を引き起こす.さらに,異所性脂肪の蓄積により,これらの部位に慢性的な炎症が起こり,広く心血管系に影響を及ぼすと考えられている.
 本特集では,異所性脂肪と心血管疾患の関連を,第一線で研究している研究者に解説いただいた.本特集が,異所性脂肪が心血管疾患に与える影響の理解に役立ち,新たな心血管疾患の治療方法の開発に結びつくことを期待する.
特集 異所性脂肪と心血管病
 はじめに(福田大受)
 血管周囲脂肪組織による血管リモデリングへの影響─冠動脈バイパス術における血管周囲脂肪組織の性質(三上拓真・古橋眞人)
 心臓周囲脂肪と冠微小循環(中西弘毅)
 循環器疾患の治療標的としての心臓周囲脂肪(八木秀介・佐田政隆)
 心外膜脂肪組織と不整脈(安部一太郎)
 非アルコール性脂肪性肝疾患と心血管疾患(三好 亨)
 筋肉内脂肪と心不全(吉田俊丈・柴田 敦)
 腎周囲脂肪の臨床的意義─メタボリックシンドロームや慢性腎臓病との関連性(田辺隼人・島袋充生)

連載
医療システムの質・効率・公正─医療経済学の新たな展開(13)
 ナッジのその先へ─金銭的報酬との組み合わせ,モバイルヘルス,習慣形成(佐々木周作・他)

遺伝カウンセリング─その価値と今後(3)
 ゲノム情報の特性を考慮した遺伝カウンセリング(佐藤智佳)

TOPICS
 癌・腫瘍学 悪性神経膠腫に対する免疫チェックポイント阻害療法(棗田 学)
 病理学 WHO脳腫瘍分類 第5版の概要(小森隆司)

FORUM
 世界の食生活(3) ブランド化した真っ赤なキムチ(林 史樹)
 数理で理解する発がん(4) 条件付確率とベイズの定理(中林 潤)

 次号の特集予告