やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 佐久間一郎
 東京大学大学院工学系研究科医療福祉工学開発評価研究センター
 本特集では“医学・工学の融合“,“医工連携”というキーワードで,産官学の有識者による産業政策・研究開発振興策,人材教育,具体的な最先端の研究開発内容などの幅広い話題を取り扱っている.
 「“医工連携”による新医療技術開発」という言葉が用いられて久しい.多くの研究機関において医工連携研究が推進されている.一方,新規性の高い医療技術開発の成果がわが国発の医療技術として製品化まで至り,さらに臨床で広く活用されている製品は限定的である.この課題を克服するためにさまざまな施策,新しい人材育成活動,製品化のための戦略構築支援などが行われ,課題は徐々に解決に向かっていくものと期待される.
 日本はその平均余命が世界で最も長い国のひとつであり,優れた臨床医学の知見が蓄積されている.この臨床医学の知見を活用した新たな医療技術開発がさらに進められるべきであろう.また,極めて革新性の高い医療技術開発の場合,通常の臨床的ワークフローではその価値が明確になっていないことが多く,利用技術の開発を通じて,新規の医療技術を用いる標準診断治療法へ発展させる研究を並行して行う必要がある.
 新たな医療技術の活用により,困難であった生命現象の定量的把握や介入が可能となり,新たな臨床的な知見の蓄積につながるという意味で,医学・工学の融合は疾患の発症,回復メカニズムの解明という基礎研究の推進にも貢献する.
 医学と工学は応用科学であるという共通性を持つが,専門性が異なり医・工の間のコミュニケーションには努力が必要である.生命現象は複雑であり要求仕様が曖昧とならざるを得ない部分もある.設計仕様を明確にしてモノを設計するという工学の基本的手法では対応できず,医工連携研究のなかで要求仕様を明確化する活動も必要となる.また開発当初の技術は多くの欠点を持っており,医学研究者は厳格に臨床的要求を示しつつも,工学研究者とともに技術開発を粘り強く進めることが求められる.ある意味で医学・工学の融合には情熱が必要である.本特集を読まれた読者諸氏が,医学・工学の融合の価値を認識し,医学・工学の融合によるイノベーション創出に取り組まれることを期待する.
はじめに
 (佐久間一郎)
健康・医療戦略(第2期)に基づく日本医療研究開発機構(AMED)の医療機器・ヘルスケアの研究開発支援─概況と最近の進捗
 (妙中義之)
医工連携による新産業創出への期待
 (廣P大也)
厚生労働省における医工連携研究支援の現状と課題
 (江慎一)
医工連携のための高度研究人材養成
 (永富良一)
バイオデザイン─医療テクノロジーイノベーターの世界的ネットワークへようこそ
 (前田祐二郎)
循環器分野医療機器開発・実用化における医工連携の重要性
 (小川治男)
心臓シミュレータの研究開発と医工連携
 (岡田純一・他)
バイオマテリアル研究開発とその人材育成における異分野・産学連携の重要性
 (田畑泰彦)
先端医療材料開発と医工連携
 (伊藤大知)
臨床不整脈イメージングシステムの開発における医工連携
 (芦原貴司)
医工連携による不整脈診断技術開発
 (富井直輝)
外科治療支援技術開発における医工連携
 (正宗 賢)
治療用医療機器における医工連携の重要性
 (吉田泰之・他)
医工連携研究成果の産業界への導出における課題
 (関野正樹)
医工連携による内視鏡外科分野における情報支援技術開発
 (徳安達士)
医情連携による医用画像処理に基づく医療機器システムの開発
 (森 健策)
レギュラトリーサイエンス分野における医工医療機器開発者の育成
 (岩ア清隆)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  興奮伝導,興奮伝播
  機能的リエントリー
  心房局所の興奮間隔に基づく回復曲線