やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 滝田順子
 京都大学大学院医学研究科発達小児科学
 0〜15歳の小児期における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染は,重症化することはまれとされている.しかし一部の例において,多臓器に強い炎症反応を引き起こし,重篤となりうる小児多系統炎症性症候群(multisystem inflammatory syndrome in children/pediatric inflammatory multisystem syndrome:MIS-C/PIMS)を続発することが報告されている.MIS-C/PIMSの米国での発症頻度は,21歳未満のSARS-CoV-2感染者100万人当たり316人と報告されており,死亡率は1.4%と低いものの,集中治療を要する重症例は半数を超えている.腹痛,下痢などの消化器症状の頻度が高く,急速に心不全,ショック症状を起こすことが知られており,救命しえたとしても心機能障害を残すことがある.MIS-C/PIMS発症と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との関連性が強く示唆されているが,本症は新しい疾患概念であり,病態に関しては今なお多くが不明である.川崎病の診断基準を満たす症例は22〜64%とされており,類縁疾患と考えられているが診断は難しく,治療法も確立されていないのが現状である.
 本特集では,臨床の現場で実際にMIS-C/PIMSの診療に携わり,川崎病を含む重症炎症症候群の診断,治療に経験豊富な臨床のスペシャリストに,そしてわが国における小児の感染症学研究のエキスパートにMIS-C/PIMSの疫学,病態,診断,検査,治療について,最新の知見を踏まえて概説していただいた.
 本特集がMIS-C/PIMSのさらなる病態解明ならびに診断法の開発,治療法の確立の一助となることを祈念する.
 最後に本特集の発行のために,臨床,研究でお忙しいところ,ご執筆いただいた執筆者の先生方に心より感謝を申し上げたい.
特集 小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)の診療
 はじめに(滝田順子)
 小児のCOVID-19の動向(森内浩幸)
 MIS-C/PIMSの疫学(清水博之)
 MIS-C/PIMSの病態(宮入 烈)
 MIS-C/PIMSの診断(清水正樹)
 MIS-C/PIMSの薬物治療(小柳喬幸・他)
 MIS-C/PIMSの全身管理(大井 正・川崎達也)
 MIS-C/PIMSの今後の課題(齋藤昭彦)

連載
医療DX─進展するデジタル医療に関する最新動向と関連知識(7)
 スマホアプリを活用した糖尿病重症化予防の取り組み(津下一代)

TOPICS
 遺伝・ゲノム学 VEGFシグナルを介したダイナミックな内皮エピゲノム修飾と抗血管新生手法の確立(南 敬)
 医療行政 ICD-11改訂─国内の普及に向けた取り組みと今後の課題(横堀由喜子)

FORUM
 グローバルヘルスの現場力(15) タイ北部におけるHIV感染者ケア強化事業─サンパトンモデルの形成(北島 勉)
 日本型セルフケアへのあゆみ(18) よくわかるがんゲノム医療(1):がん遺伝子パネル検査(児玉龍彦)
 医療MaaS─医療と移動の押韻(4) 住処の隅から(横山優二)

 次号の特集予告