やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 下畑享良
 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2019年12月に中国・武漢で報告されて以来,急速に拡大し,2020年3月に世界保健機関(WHO)によってパンデミックが宣言された.COVID-19は医療の多くの面に計り知れない影響をもたらしているが,そのひとつに,もとよりバーンアウト(燃え尽き症候群)の危険性に曝されていた医療従事者にさらなる大きなストレスをもたらしていることがあげられる.
 フロントラインである急性期病院の医療従事者は,パンデミック当初の疾患に対する情報も乏しく,治療やCOVID-19ワクチンもない状況で,自身やその家族が感染するリスクを抱えつつ激務をこなした.市中病院や療養施設においても,院内感染防止のための医療提供体制の整備や院内感染発生に伴う通常医療の縮小など,多くの問題の対処を続けている.さらに医療従事者は日常生活においても感染してはならないというストレスに曝されていることに加え,自身が行いたい,あるいは習得したい専門診療が十分に行えない事態も生じている.本稿を執筆している2022年4月現在,わが国では第6波が完全に収束しない状況で社会活動が再開されつつある.ワクチンを打ちつつCOVID-19と共存する状況を目指しているといえるが,COVID-19との共存は今後も医療従事者にとってストレスのかかる状況が持続することを意味している.
 本特集ではパンデミック下において,上記のようなストレスに曝される医療従事者のバーンアウトをいかに防ぐかをテーマとし,国内で行われた複数の調査研究によるエビデンスに基づいた議論を行い,さらに精神医学や心理学の観点からの医療従事者を守るためのヒントを共有することを目的としている.本特集が多くの医療従事者に読まれ,バーンアウトの危険因子や対策を正しく理解することや,自身を冷静に見つめ,バーンアウトに対するレジリエンスを高めることに役に立てば望外の喜びである.

 利益相反:本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.
特集 パンデミック下における医療従事者のバーンアウトを防ぐ
 はじめに 下畑享良
 パンデミック前の医師のバーンアウトの状況と対策 下畑享良
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下の聖路加国際病院における多職種バーンアウト調査から考える対策─研修医のサポートも含めて 松尾貴公
 パンデミック下の国内外の主要研究から考える対策 西村義人
 東京都コロナ専門病院の実態調査から考える医師のバーンアウト対策 木村百合香・小寺志保
 COVID-19対応スタッフへのメンタルヘルス・ケア─クラスター発生対応に焦点を当て 前田正治
 COVID-19によるパンデミックが医療従事者に及ぼした影響と今後の対策─国外,国内の文献レビューを通じて 久保真人

連載
人工臓器の最前線(10)
 人工血管の歴史と進歩 幸田陽次郎・岡田健次

医療AI技術の現在と未来─できること・できそうなこと・できないこと(5)
 画像診断AIシステム─外傷全身CTを例に 岡田直己

TOPICS
 血管生物学 新生血管成熟化分子Ninjurin1の役割─微小血管を標的とした新しい動脈硬化治療の可能性 川辺淳一・堀内 至
 小児科学 川崎病の病態と酸化リン脂質 中島康貴・他

FORUM
 グローバルヘルスの現場力(7) 傾聴の次に来るもの─先人から学び,先人を超える 本田 徹
 医療MaaS─医療と移動の押韻(1) 肉体の存在 横山優二

 次号の特集予告