やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 中條大輔
 富山大学学術研究部医学系臨床研究管理センター,同医学部第一内科
 インスリンが発見されてから,つまり1型糖尿病が治療可能となってから100年が経過し,その間にインスリン製剤や投与法の開発,膵・膵島移植療法の開発,1型糖尿病の病態や成因を解明するための研究など,世界中でさまざまな取り組みが行われてきた.
 わが国においても,日本人1型糖尿病の発症・進展様式における多様性に基づき,急性発症1型糖尿病,緩徐進行1型糖尿病,劇症1型糖尿病のサブタイプが確立され,その成因や病態に関する知見が積み重ねられてきた.治療面でも,クローズドループシステムを含めたインスリンポンプやグルコースモニタリングデバイスの進化はめざましく,患者QOL(quality of life)改善の一助となっている.さらに,2020年には膵島移植が保険適用となり,新たな治療の選択肢が加わった.
 一方で,診療面の課題として,昨今の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染に伴う糖尿病の病態・診療への影響や,小児期医療から成人期医療への移行(トランジション),移植医療におけるドナー不足などさまざまな事項があげられる.また研究面の課題としては,日本人1型糖尿病の病態推移や各サブタイプにおける成因が十分に明らかになっていないことなどがあげられる.
 本特集では,上記の1型糖尿病診療・研究の進歩や課題に関する現状や取り組みについて,広範囲にわたって各分野の最前線でご活躍されている先生方に解説いただいた.今後は,免疫学的機構をはじめとする成因のさらなる解明や,移植・再生医療研究の進展などを通して,1型糖尿病のCureというわれわれの高い目標に近づけることが期待される.この特集が,ポストインスリン発見100年時代へ向けた新しい治療開発のヒントになれば幸甚である.
 はじめに 中條大輔
総論
 わが国の1型糖尿病研究の歴史と展望 花房俊昭
 1型糖尿病の疫学 田嶼尚子
 日本人1型糖尿病の発症・進展様式における多様性 小林哲郎・内田貴康
治療技術の進歩
 インスリン製剤のUPDATE 三浦順之助
 カーボカウント最前線 黒田暁生・松久宗英
 CGMの進化と有用性 菅沼由佳・他
 インスリンポンプ療法の進歩 廣田勇士
 1型糖尿病に対するSGLT2阻害薬併用療法を安全に活用するために 山ア真裕
 膵・膵島移植の現状と展望 粟田卓也
診療上の課題
 緩徐進行1型糖尿病の管理 及川洋一
 1型糖尿病合併妊娠の管理−指標をもって治療を行う 朴木久恵・他
 低血糖の病態と対処法 松久宗英
 COVID-19と1型糖尿病 大杉 満
 1型糖尿病診療におけるトランジション 浦上達彦
 糖尿病キャンプと患者会活動−心理社会的支援の重要性 大澤謙三
病態研究
 日本人1型糖尿病のデータベース−TIDE-J研究を中心に 梶尾 裕・中條大輔
 1型糖尿病の遺伝素因 庭野史丸・他
 劇症1型糖尿病研究UPDATE-irAEも含めて 米田 祥・今川彰久
 1型糖尿病の病態と診断における膵島関連自己抗体の意義 川ア英二
 1型糖尿病モデル動物を用いた成因研究 安田尚史
 1型糖尿病における膵島特異的細胞性免疫 島田 朗
 膵組織所見から1型糖尿病の成因を探求する 福井智康
 1型糖尿病とグルカゴン分泌調節異常 堀江一郎・阿比留教生
治療研究
 バイオ人工膵島の可能性 霜田雅之
 膵β細胞再生医療の可能性−脂肪由来幹細胞の有用性 池本哲也・島田光生

 次号の特集予告

 サイドメモ
  CGMを合併症予防に活用するために
  Tokyo Study
  疾患感受性遺伝子座同定のアプローチ
  ヒトとマウスの相違点−膵島内の内分泌細胞の局在と膵島炎
  KPD(ketosis-prone type 2 diabetes)
  グルカゴンにおけるアミノ酸の異化促進作用
  Stimulation index(SI)