やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 井上博雅
 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科呼吸器内科学
 気管支喘息は,気道の慢性炎症と気道過敏性亢進を本態とする疾患で,変動性の気道狭窄,喘鳴や咳などの臨床症状で特徴付けられる.喘息の気道炎症は,2型炎症(好酸球性)と非2型炎症に大別され,2型炎症の誘導には2型ヘルパーT細胞(Th2)と2型自然リンパ球(group 2 innate lymphoid cell:ILC2)から産生される2型サイトカインが重要な役割を担っている.このような喘息病態の解明とともに,2型炎症のメディエーターであるIL-4,IL-5,IL-13,IgEに対する抗体医薬が実臨床で利用可能となった.ILC2を標的とする薬剤の開発も進み,TSLP(thymic stromal lymphopoietin)に対する抗体薬も近々登場する.このような生物学的製剤の開発により,2型炎症を伴う重症喘息の治療は飛躍的に改善したが,それらが有効と考えられる群を対象にしても喘息増悪の抑制効果は約6割にとどまり,いまだにunmet medical needsは高い.
 一方,2型サイトカインのレベルが低く,気道で好中球が増加している患者群や細胞浸潤の乏しい患者群もみられ,非2型炎症の重要性も注目されている.残念ながら,現時点ではIL-17 AやIL-23に対する抗体の有効性は乏しく,非2型炎症の制御は喘息治療の大きな課題である.今後も,新規治療法の追求やさまざまな新薬開発が必要となる.
 治療法を考えると,軽症喘息でもアドヒアランス不良により数多くの増悪がみられる.軽症喘息には,アドヒアランスが問題となる維持療法を用いず,発作時のみ吸入ステロイド薬+速効性β2刺激薬の頓用(anti-inflammatory reliever)が有用であるというたくさんのエビデンスがあるが,保険適用などの問題で国内の実臨床で利用されるにはハードルが高い.新薬開発では,開発プロセスの短縮やデザイン戦略の柔軟性を重視し,限られた患者数での開発が進んでいる.PrecISE studyに代表されるバイオマーカーに基づいたadaptive platform trialなど,新しい試験デザインが注目される.
 喘息の遺伝的背景や病態,バイオマーカー,治療法の進歩に関し,最新の知見を紹介していただくべく本特集を企画した.毎日の診療や今後の研究の参考になれば幸いである.
 はじめに 井上博雅
疫学,遺伝,発症予防
 喘息の疫学 永野達也・西村善博
 喘息と遺伝子 檜澤伸之
 喘息の発症予防 吉原重美
病態
 喘息のフェノタイプと炎症 岩永賢司・東田有智
 アレルギー性炎症における好酸球の役割 富澤宏基・植木重治
 喘息における獲得免疫系の役割 中島裕史
 2型自然リンパ球 福永興壱
 マスト細胞と好塩基球 權 寧博・他
 好中球 宮原信明
 上皮細胞,線維芽細胞 浅井一久・渡辺徹也
 気道平滑筋細胞−気流閉塞と気道リモデリングへの関与 石塚 全
 ウイルス感染と喘息増悪 神尾敬子・他
 ステロイド抵抗性喘息 町田健太朗・他
診断と治療・管理
 喘息の診断 木村孔一
 成人喘息の診断・管理のためのバイオマーカー 藤野直也・杉浦久敏
 喘息増悪の危険因子 村田順之・松永和人
 『喘息予防・管理ガイドライン(JGL)2021』改訂のポイント;成人 新実彰男
 最新の喘息ガイドラインのポイント;小児 足立雄一
 家庭での喘息症状および発作への自己管理−ICS/ホルモテロール頓用を含めて 川山智隆・他
 気管支喘息の急性増悪の治療 永田一真・富井啓介
 抗体医薬−2021-2022のアップデート 長瀬洋之
 喘息とCOPDオーバーラップ(ACO)/喘息と気管支拡張症オーバーラップ 大西広志・横山彰仁
 咳嗽と喀痰への対処 原 悠・金子 猛
注目の話題
 COVID-19と喘息・喘息治療薬 川口貴子・矢寺和博
 気管支サーモプラスティ−評価と課題 佐野安希子・東田有智
 喘息におけるアレルゲン免疫療法 永田 真
 N-ERD,NSAID-ERD,NSAIDs過敏喘息 谷口正実・林 浩昭
 鼻炎,副鼻腔炎と喘息 多賀谷悦子
 アレルギー性気管支肺真菌症 浅野浩一郎
 肥満と喘息重症化 橋浩一郎・田代宏樹

 次号の特集予告

 サイドメモ
  有病率と有症率
  マイクロバイオームと喘息の発症
  気道平滑筋細胞(ASMC)の表現型
  世界のガイドライン
  吸入ステロイド(ICS)/ホルモテロールの使用法と保険適用
  気管支拡張症(bronchiectasis)
  気管支サーモプラスティ(BT)治療の実際