やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 永井英明
 国立病院機構東京病院感染症科
 今回,抗酸菌症についての臨床的なテーマを中心に特集を組むことになった.抗酸菌の代表は結核菌であり,結核患者は減少傾向にあるが,過去の疾患と思っていると臨床現場で足をすくわれることになる.また,非結核性抗酸菌症は増加傾向にあり,治療に難渋する症例にしばしば遭遇する.両者について知識を整理しておくことは日常臨床におおいに役立つものと思われる.
 結核は依然として世界で最も患者の多い感染症のひとつである.日本では1950年代の結核罹患率は人口10万対約700であり,結核が死因の第1位を占めていた.その後の国をあげての結核対策により,結核罹患率は年間10〜11%の率で低下し,2020年の罹患率は人口10万対10.1まで低下した.結核患者の減少とともに,国民も医療従事者も結核に対する関心が薄れ,結核患者の受診の遅れ,医師の診断の遅れは依然として認められている.結核患者は減少したが,欧米の罹患率が人口10万対5前後である事実と比べると,日本は依然として中蔓延国とされている.日常臨床の場で結核患者に遭遇する可能性があることを常に念頭に置くべきである.低蔓延国を目指すには早期診断,確実な治療,潜在性結核感染症患者対策などが必要である.
 近年,非結核性抗酸菌症患者が増加し,ヒト-ヒト感染はないといわれているので,結核専門病院以外の病院でも診断・治療を行う機会が増えている.一部の非結核性抗酸菌症は治療に良好に反応するが,大部分は完治が難しい.院内感染対策にはそれほど気を配らなくてもよいが,菌種により臨床症状,治療,予後などが異なるので,まれな菌種では専門家のアドバイスが必要になる.また,同一菌種でも経過の早い患者,遅い患者がいるので,個々の症例ごとに治療の開始,変更,終了を考えなければならず,ある程度の知識が必要になる.
 本特集の著者としてお願いした先生方は,抗酸菌症についての臨床・研究ではわが国を代表する方たちであり,大変お忙しいなか,執筆をご快諾いただいた.これ1冊があれば抗酸菌症についての最新の知識を効率よく得ることができると保証したい.
 はじめに 永井英明
結核
 結核の疫学と対策 加藤誠也
 肺結核の画像診断 尾形英雄
 抗酸菌検査−結核菌,非結核性抗酸菌ともに含む 御手洗 聡
 IGRA(インターフェロン−γ遊離試験)の適切な解釈と使用法 猪狩英俊
 結核の治療−多剤耐性結核,LTBIを除く 三木 誠
 多剤耐性結核の治療 露口一成
 潜在性結核感染症の治療 松本智成
 結核薬の副作用 佐々木結花
 肝不全・腎不全合併結核の治療 高森幹雄
 結核の院内・施設内感染対策 阿彦忠之
非結核性抗酸菌症
 非結核性抗酸菌症の疫学 田中健太郎・菊地利明
 非結核性抗酸菌症の病理像からみえる病態 日比谷健司・藤田次郎
 非結核性抗酸菌症の感染経路と予防 伊藤 穣
 肺非結核性抗酸菌症の診断と,肺Mycobacterium Avium Complex症の病型 佐野将宏・中川 拓
 肺Mycobacterium Avium Complex症の血清診断 北田清悟
 肺Mycobacterium Avium Complex症の治療 長谷川直樹
 肺Mycobacterium Abscessus Complex症の治療 川島正裕
 肺Mycobacterium Kansasii症の治療 桑原克弘
 まれな肺非結核性抗酸菌症 森本耕三
 非結核性抗酸菌症の外科治療 渥實 潤

 次号の特集予告

 サイドメモ
  GeneExpert(R) MTB/RIF
  結核に関する国連高官会議(United Nation's High Level Meeting on TB)
  DOTS(直接服薬確認療法)
  初期悪化
  ベダキリンとデラマニドの併用
  結核の発病者1人は感染者6人に相当
  結核患者の濃厚接触者
  疫学調査を読む前に
  初期変化群
  免疫再構築症候群
  毒素による特殊な病態(ブルーリ潰瘍)
  全身播種型肺NTM症と抗IFN−γ中和自己抗体
  M.avium/M.intracellulare(MAI)
  肺非結核性抗酸菌(NTM)症に合併した肺アスペルギルス症の治療
  手術適応判断の時期
  症状に対して行う手術
  両側病変の切除