やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 田中良哉
 産業医科大学医学部第一内科学講座
 2020年に日本の65歳以上の高齢者人口は約3,600万人,人口の28.7%と過去最高を更新し,それに伴い骨粗鬆症患者も増加し,2015年時点で1,300万人を数える.OECD諸国のなかで日本でのみ骨粗鬆症に伴う大腿骨近位部骨折の発生数が増加しており,予防,治療,管理が徹底されていないことを意味する.骨粗鬆症とそれに伴う骨折はQOL(quality of life)を低下させ,65歳以上の要支援の原因の第3位であり,超高齢社会の日本においては喫緊の課題である.
 骨格は生体を支持する重要な構造体であるが,骨・ミネラル代謝をつかさどる重要な臓器でもあり,継続的な骨代謝回転により維持,調節されている.しかし,閉経や加齢に伴うエストロゲン欠乏などにより骨代謝平衡が破綻すると,骨量と骨質が変化して骨脆弱性が亢進した骨代謝異常症,すなわち骨粗鬆症を生じる.骨粗鬆症には閉経などに伴う原発性骨粗鬆症に加え,副腎皮質ステロイド薬など原因が明らかな続発性骨粗鬆症,癌の骨転移などその他の骨粗鬆症に分類される.
 一方,骨粗鬆症の治療は,骨代謝平衡の破綻による骨代謝異常を是正して脆弱性骨折を抑制することを目標としている.ビスホスホネート製剤,活性型ビタミンD製剤,選択的エストロゲン受容体モジュレーター,副甲状腺ホルモンは骨代謝異常の改善を作用機点とする骨粗鬆症薬である.また,RANKLは破骨細胞の成熟を誘導,スクレロスチンは骨芽細胞の成熟を制御する骨代謝調節の重要な分子であるが,これらに対する分子標的薬も画期的な治療効果をもたらしている.
 骨粗鬆症の治療が骨折の発生する前に適正に提供されれば,超高齢社会にも高く貢献するはずである.そのためにも骨粗鬆症を骨代謝異常症として捉え,他の代謝疾患と同様に内科的に治療,管理することが必要ではないであろうか.本特集では,骨粗鬆症の適切な治療や薬剤の提供とは何か,適切な医療を提供するために臨床医に何が求められるか,各薬剤の将来展望も含めて第一線の先生方にご執筆いただいた.研究や臨床にいかしていただきたい.
特集 骨粗鬆症−予防と治療の将来展望
 はじめに 田中良哉
 総論:骨粗鬆症の予防と治療の戦略と将来展望 福本誠二
 カルシウム製剤,活性型ビタミンD製剤 田中健一・他
 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)−徹底解説! 治療薬を使いこなす“知識”と“ノウハウ” 寺内公一
 ビスホスホネート 石澤耕太・他
 抗RANKL抗体 竹内靖博
 副甲状腺ホルモン,PTHrPアナログ 大島久二・他
 抗スクレロスチン抗体(ロモソズマブ) 松本俊夫
 総論:超高齢社会のなかでの骨粗鬆症治療普及に向けて 鈴木敦詞

連載
オンラインによる医療者教育(16)
 COVID-19収束後の臨床留学再開への課題と展望 石森直樹・他

ユニークな実験動物を用いた医学研究(14)
 脳のないヒドラを用いた睡眠研究−睡眠現象をよりシンプルに理解する 伊藤太一

COVID-19診療の最前線から−現場の医師による報告(8)
 クリニックにおける感染症予防策とPCR検査センター設置 倉持 仁

TOPICS
 循環器内科学 「心血管疾患における心臓リハビリテーションに関するガイドライン2021」のポイント 牧田 茂
 神経内科学 ペランパネルはパーキンソン病モデルにおけるαシヌクレイン伝播を抑制する 上田 潤・橋良輔
 薬理学・毒性学 タキサン系抗がん剤誘発末梢神経障害の新展開−シュワン細胞に着目した発症機序の解明と原因治療法の提案 小柳円花・今井哲司

FORUM
 中毒にご用心−身近にある危険植物・動物(1)
  はじめに−生物毒の虜(中毒)になって 上條吉人
  ギンナン−食べてよいのは歳の数まで 大谷典生
 日本型セルフケアへのあゆみ(14) 排尿障害のセルフケア:在宅での排尿管理Q&A 児玉龍彦

 次号の特集予告