やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 滝田順子
 京都大学大学院医学研究科発達小児科学
 小児期からadolescents and young adult=“AYA”世代と称される15〜29歳に発生するがん(小児・AYAがん)は,成人がんと比較するとまれではあるものの,わが国における若年者の主要な死亡原因となっている.とりわけ,遠隔転移を伴うものや再発をきたす小児・AYAがんは,依然としてきわめて予後不良である.また大部分の小児・AYA世代のがんに対して,現行では高用量の抗がん剤による化学療法,放射線療法,外科的治療を組み合わせた集学的治療が行われているが,たとえ救命しえたとしても治療の影響による成長障害,不妊,二次がんといったQOL(quality of life)を著しく損なう晩期障害が深刻な問題となっている.
 一方,昨今の基礎研究と臨床研究の進歩を背景に,小児・AYAがんにおける診断,治療はめざましい変化を遂げている.次世代シーケンサーの台頭により,この数年で治療標的の同定が急速に進み,その成果は小児・AYAがんにおいてもがん遺伝子パネル検査として実地診療に実装される時代となった.治療に関しては,近年開発された遺伝子導入T細胞療法(CAR-T細胞療法)や二重特異性T細胞誘導抗体薬,抗GD2抗体薬などが導入され,再発・難治の急性リンパ性白血病,神経芽腫の治療において革新的な効果を発揮し,治療の選択肢が各段に広がった.このような現状から,小児・AYAがんの診療においては以前にも増して幅広い知識と情報の整理,そして理解が進んだ疾患病態や患者背景を統括する柔軟な思考力が必要となっている.
 本特集では,こうした小児・AYAがんを取り巻く医療の最近の展開を踏まえて,基礎的研究,臨床研究および実地診療に携わっていらっしゃる最前線でご活躍の先生方に,最新の成果,現状についてわかりやすくご解説いただいた.本特集が,小児・AYAがんの研究,臨床に関わる先生方はもとより,幅広い領域の先生方にお役立ていただければ幸いである.
 はじめに 滝田順子
乳児急性リンパ性白血病に対する治療の現状と展望
 宮村能子
難治性急性リンパ性白血病の治療の新展開
 後藤裕明
小児T-ALLの分子遺伝学的特徴
 磯部清孝
T細胞性急性リンパ性白血病における新規治療の展望−ダサチニブ高感受性T細胞性急性リンパ性白血病の病態解析を通じて
 牛腸義宏
AYA・成人B細胞性急性リンパ性白血病の分子基盤の最前線
 安田貴彦
AYA急性リンパ性白血病に対する臨床試験の課題
 康 勝好
急性骨髄性白血病における分子基盤の最前線
 柴 徳生
小児・AYA世代急性白血病に対する造血細胞移植の現状と展望
 梅田雄嗣
神経芽腫に対する抗GD2抗体免疫療法
 原 純一
横紋筋肉腫治療の現状と将来展望−欧州EpSSG臨床研究からみた日本の横紋筋肉腫治療体系
 宮地 充
小児肝腫瘍の分子基盤と新規治療法の将来展望
 関口昌央・滝田順子
肝芽腫の多施設共同研究−国際共同臨床試験を含めて
 菱木知郎
骨肉腫の分子基盤の探求と標的治療の開発
 渡邉健太郎
脳腫瘍の分子診断の現状と展望
 寺島慶太
造血器腫瘍のパネル検査の課題と展望
 村松秀城
小児・AYAがんの遺伝性素因と二次がん
 加藤元博
小児・AYAがんに対する陽子線治療
 副島俊典・他
小児・AYAがん患者のトータルケアの現状と今後の展望
 岩本彰太郎
小児・AYAがんの長期フォローアップ
 今井 剛・石田也寸志
小児・AYAがんの妊孕性温存
 中村健太郎・鈴木 直

 次号の特集予告

 サイドメモ
  AYA世代ALLに対する治療の進歩のために必要なこと
  微小残存病変(MRD)の測定方法と感度
  前処置強度の定義
  GD2とは
  日米欧の領域リンパ節転移例のリスク分類
  DNAメチル化
  アンスーパーバイズドクラスタリング
  がんゲノム医療提供体制
  ヘルスリテラシー
  がんサバイバーシップケア
  がんサバイバーシップ(Cancer Survivorship)