やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 疾病,外傷や加齢などにより生じた障害を持ちながら地域で安心して生活をしていくうえでは生活期(維持期)におけるリハビリテーション(以下リハ)医療は欠かせないものである.医療の機能分化が推進され,早期の退院が促進されるなか,高齢者や障害者が増加している現状において地域・在宅医療の場でのリハ提供体制が充実することへの期待は大きなものがある.そして,地域完結型のリハ医療の意義と質を高めるためにも,急性期から地域,在宅に至るまでのバランスのよいスムースなリハ医療の提供体制が望まれる.
 一方,地域においてはリハの認識が必ずしも十分ではないために適切なリハ医療が提供されているとはいえないのが現状ではないだろうか.その一因には,リハ医療の役割などの理解が十分でないこと,リハ科医が日常診療でどのような診療を行っているのか,どのようなことを実践しているのかが一般医家にも国民にも認知されてないことがあるのではないだろうか.さらには,地域・在宅医療を支えるスタッフ(訪問看護師,ソーシャルワーカー,介護福祉士,ケアマネジャー)の方々にもリハに関する理解が十分に浸透しておらず,十分に活用されていない可能性もある.
 地域でリハを必要としている方々は急性発症の疾患や外傷に限らず,先天性疾患や進行性疾患など多岐にわたる.そのような方々が在宅生活を送るうえで,患者や家族は少なからずとまどいや不安を感じ,リハの継続的なかかわりを望むものである.かかわり方はさまざまであり,必ずしも機能訓練の継続を意味するものではなく,継続的な診療や指導なども安心して地域生活を営むための大きな支えとなる.
 本書ではこれらの背景を踏まえ,経験する可能性のあるさまざまな障害を取り上げ,入院生活から在宅生活へのスムースな移行を図る在宅導入期,一定期間の在宅生活を経て心身の状態が安定してきた時期(在宅生活期)を想定し,地域リハを実践するために求められる知識,技能,さらには取り組む姿勢(考え方)を含めて取り上げていただくことを企画した.
 地域リハに取り組みたいリハ科医や関連職種が地域リハの枠組みから実際の評価,治療やネットワークづくり,施設のリハ科医にとっては外来を含めた生活期におけるリハ診療のポイント,地域リハのチームの一員である他科医や訪問看護師,ケアマネジャー等にとってはリハ科医やセラピストとの連携など,それぞれの立場から地域におけるリハ医療を幅広く学ぶ実践書として活用いただければ幸いである.
 筆者の先生方には企画の意図をご理解いただき,熱意をもってご執筆いただきましたことにあらためまして深く感謝申し上げます.
 2013年6月
 編者 水間正澄
I章 地域リハビリテーションの意義
 (浜村明徳)
   はじめに 地域リハビリテーションの意義 これからの地域リハビリテーション 地域リハビリテーションとリハビリテーション科医の役割
II章 地域リハビリテーションの診療のポイント
 1.外来診療
  1 外来診療のポイント(川手信行)
   はじめに リハビリテーション科における外来の目的と意味 リハビリテーション科外来の対象疾患 リハビリテーション科外来診療の際のリハビリテーション科医の視点 診察・評価 義肢装具・車椅子などのチェック リハビリテーション科外来におけるアプローチ 初診時の連携に必要な情報収集のポイント おわりに
  2 外来での機能訓練(通院リハビリテーション)(川手信行)
   機能訓練を始めるにあたって 外来での機能訓練の意義 リハビリテーション科外来の意義
 2.訪問診療(川手信行)
   はじめに 訪問診療と往診 リハビリテーション科医の訪問診療の視点と技術 他の在宅スタッフとの連携 おわりに
 Column
  通所リハビリテーション(速水 聰)
III章 在宅患者の評価
 1.在宅での評価
  1 筋力・関節可動域の評価(稲川利光)
   はじめに 筋力の評価 関節可動域の評価 おわりに
  2 基本動作の評価(稲川利光)
   はじめに 基本動作の基準になるもの 介助を通して機能を評価する 椅子からの立ち上がり動作を評価する 移乗動作 床上での移動 歩行動作 おわりに
  3 ADLの評価(土岐めぐみ)
   はじめに 介護認定調査の基本調査項目 居宅サービス計画ガイドライン ミニマムデータセット系 課題分析 リハビリテーション適応の評価
  4 高次脳機能障害の評価(尾花正義)
   はじめに 高次脳機能とは 高次脳機能障害とその変遷 在宅患者における高次脳機能障害の評価 高次脳機能障害を評価する際の留意点 おわりに
  5 摂食・嚥下障害の評価(福村直毅)
   はじめに 摂食・嚥下障害の定義と問題点 疫学 地域での摂食・嚥下障害治療の目的 スクリーニング 対応方法を探すための評価方法 嚥下内視鏡検査 ワイヤレスの嚥下内視鏡検査キットの有用性 嚥下内視鏡がない場合 胃瘻の考え方 栄養量
  6 内部障害の評価(宮ア博子)
   内部障害のリハビリテーション 呼吸機能障害の評価 循環機能障害の評価 腎機能障害の評価 肝機能障害の評価 膀胱・直腸障害の評価 小腸機能障害の評価 代謝障害(生活習慣病)の評価
 2.補装具と福祉用具(樫本 修)
  1 補装具の評価
   補装具の理解 地域でよく見かける補装具の評価 在宅で補装具の不具合を発見したら
  2 福祉用具の評価
   地域でよく見かける福祉用具 福祉用具サービス計画 在宅で福祉用具の不具合を発見したら
 3.家屋評価(稲川利光)
   はじめに 治療の先に見えてくるもの 在宅環境を把握すること 家屋評価用紙の導入 入院した時点からの環境調整 退院に向けた家屋評価 制度の利用について おわりに
 Column
  在宅における褥瘡管理(新藤直子)
  排尿障害(新藤直子)
  排便障害(新藤直子)
  医療従事者が生活空間に入っていくということ(先崎 章)
  認知症(高橋幸男)
IV章 在宅患者の訓練・指導の実際
  1 脳血管疾患(藤本幹雄)
   はじめに 在宅導入期のリハビリテーションプログラム 在宅導入期のリハビリテーションアプローチ 在宅導入期の日常生活指導のポイント 在宅生活期のリハビリテーションプログラム 在宅生活期のリハビリテーションアプローチ 在宅生活期の日常生活指導のポイント 看護・介護のコツ 在宅ネットワークのポイント おわりに
  2 骨関節疾患(関谷博之)
   はじめに 骨関節疾患のリハビリテーション対象者 在宅導入期のリハビリテーションプログラム 在宅導入期のリハビリテーションアプローチ 在宅導入期の日常生活指導のポイント 在宅生活期のリハビリテーションプログラム 在宅生活期のリハビリテーションアプローチ  在宅生活期の日常生活指導のポイント 看護・介護のコツ 在宅ネットワークのポイント 当院での実際 おわりに
  3 脊髄損傷(笠井史人)
   はじめに 在宅導入期のリハビリテーションプログラム 在宅導入期のリハビリテーションアプローチ 在宅導入期の日常生活指導のポイント 在宅生活期のリハビリテーションプログラム 在宅生活期のリハビリテーションアプローチ 在宅生活期の日常生活指導のポイント 看護・介護のコツ 在宅ネットワークのポイント
  4 神経・筋疾患─パーキンソン病・脊髄小脳変性を中心に(横山絵里子)
   はじめに 神経・筋疾患全般について パーキンソン病 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症
  5 小児─脳性麻痺を中心に(盛島利文,木村 豊,平脇禮子)
   はじめに 在宅導入期の支援 在宅生活期の支援 看護師による医療的管理を要する児の在宅看護・介護の支援・指導 在宅導入期のリハビリテーションアプローチ 在宅生活期のリハビリテーションアプローチ 在宅ネットワークによる支援
  6 循環器疾患(諸冨伸夫)
   はじめに 在宅導入期のリハビリテーションプログラム 在宅導入期のリハビリテーションアプローチ 在宅導入期の日常生活指導のポイント 在宅生活期のリハビリテーションプログラム 在宅生活期のリハビリテーションアプローチ 在宅生活期の日常生活指導のポイント 看護・介護のコツ 在宅ネットワークのポイント
  7 呼吸器疾患(宮ア博子)
   はじめに COPDの疾患の特性 COPDの障害の特性 呼吸リハビリテーションの意義 包括的呼吸リハビリテーション 在宅生活期・導入期のリハビリテーションプログラム 在宅生活期(維持期)のリハビリテーションプログラム 呼吸リハビリテーションのエビデンス おわりに
  8 悪性腫瘍(松本真以子)
   はじめに 在宅導入期のリハビリテーションプログラム 在宅導入期のリハビリテーションアプローチ 在宅導入期の日常生活指導のポイント 在宅生活期のリハビリテーションプログラム,アプローチ,日常生活指導のポイント 看護・介護のコツ 在宅ネットワークのポイント 症例提示 おわりに
 Column
  高次脳機能障害者の在宅支援─ 低酸素脳症者の2例を通して(先崎 章)
  切断患者のフォローアップ体制(古澤義人)
  在宅リハビリテーションと栄養(横山絵里子)
V章 地域リハビリテーションのネットワーク
  1 地域中核病院の地域連携における役割─リハビリテーションの立場から(高橋紳一)
   はじめに 急性期から在宅に向けたリハビリテーションの啓蒙 地域への活動 「北多摩南部脳卒中ネットワーク研究会」の活動 地域連携パスに求められること 北多摩南部医療圏の脳卒中地域連携パスの特色 地域連携パスは患者の将来のためにつくられる 医療保険制度にとらわれない地域連携の勧め
  2 診療所のあり方・役割─リハビリテーション科医の立場から(神山一行)
   当院の紹介 在宅医療の役割 リハ科医としての役割 地域のリハビリテーションネットワーク よりよいリハビリテーションネットワークのためのアプローチ 地域リハビリテーションネットワークづくりのポイント おわりに
  3 小児の地域リハビリテーションネットワーク(平島淑子)
   はじめに 当センターにおけるリハビリテーションの現状 地域リハビリテーションネットワークの構築に向けて おわりに
  4 高齢者の地域リハビリテーションネットワーク(井上 崇,梅津祐一)
   はじめに 高齢化が進む北九州市で取り組んだネットワーク事業 フォーマルサービスとインフォーマルサービスの連携 地域リハビリテーションネットワークを考える
 Column
  私にもできる,国際的なコーディネート技術(逢坂悟郎)
  コーディネート技術を日本で生かすには─地域全体の病院・介護連携(逢坂悟郎)
  被災地での地域リハビリテーション支援活動を通して(藤本幹雄)
  患者・家族会との関係(川手信行)
VI章 地域リハビリテーションをめぐる諸制度
 (高岡 徹)
   はじめに 地域における一貫したリハビリテーション 社会保障制度について 関係する諸制度 各地域におけるリハビリテーションシステム おわりに
 Column
  障害者の自動車運転(武原 格)
 索引