はじめに
近年,わが国でも呼吸・循環障害のリハビリテーション(以下リハ)への取り組みが活発となり,その普及が求められるようになった.米国の心肺リハ協会(AACVPR:American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation)がコアとなって刊行した心臓リハガイドラインや呼吸リハ・プログラムのガイドラインはわが国でも次々に翻訳され,リハのエビデンスへの関心が高まった.約10年前に刊行されたJournal of CLINICAL REHABILITATION(臨床リハ)の別冊「呼吸リハビリテーション」は当時のわが国としては先進的な内容により好評であったが,その後のわが国のこの領域での展開は日本呼吸ケア・リハ学会を中心に目覚ましいものがある.身体障害者福祉法の身体障害の分類のなかには内部障害があり,そのなかで最も多いのは心臓機能障害である.そこで,今回は呼吸リハだけでなく循環リハも取り上げ,それぞれの領域で中心的にご活躍されている先生方に企画編集をお願いし,多数の専門家にご執筆いただくことが実現した.
リハが医学の第3相として脚光を浴びたのは,高齢社会の到来が明らかとなった20世紀半ばの米国においてである.当時の米国の有力病院では心不全や呼吸不全による病床専有率の高まりが問題となり,傷病兵の受け入れや急速な技術革新を反映した病院改革を求める空気のなかで,高齢者は寝かせておくべきではないとする20世紀初頭の理念が実践された.そこでは安静度や活動性を拡大するため生理学的指標の見直しが精力的になされた.米国には米国の事情があり,リハは伝統的な物理医学(物療内科)と結びついて専門性が確立された.しかし,包括的リハはいまだ発展途上にあり,かつ最も活発な領域のひとつである.しかも古典的な医学の枠組みを超えてである.
リハは医療技術の進歩により延命は達成されても,病院など施設に収容され管理される人口増大が予想され,“Adding life to years”が近代医療の目標に掲げられるようになった19世紀末から20世紀初頭の動向を反映して新しい専門性が模索されるようになった.ルネサンスの人間主義を受けて展開してきた西洋近代科学の一部をなす医学においても,疾患の管理だけでなく病む人の生活回復が目標に置かれたことは自然である.したがって,リハは医療者すべての仕事でもある.
動物としてのヒトの生活は移動を中心に活動が展開する.そこでは骨関節や筋肉の働きとそれを支配制御する神経系の活動がイメージされるが,その活動はブドウ糖や酸素の供給によるエネルギーが必須である.したがって,心不全や呼吸不全では四肢に欠陥がなくとも,トイレに行くにも衣服の着替えにも息切れで介助を要することが生じうる.高齢者医療で1950年代に普及した早期離床の実践は,呼吸・循環機能の管理が基盤にあってのことである.わが国にはわが国の古くから独自に発展した医療の歴史がある.この背景が幅広いリハへの関心を抑制してきたように感じる.リハは後療法ではなく,発症直後から生活回復を目指す医療において,チームで提供されるべき必須のサービスであることを改めて強調したい.
本誌は雑誌の別冊としての性格上,執筆期間の制約があるなかで,ご協力いただいた執筆者各位に深く感謝するとともに,充実した内容により呼吸・循環障害のリハはもとより,リハ医療全般の臨床の現場で広く読まれることで有用性が発揮されるテキストであることを確信する.
2008年5月
編者を代表して 江藤文夫
近年,わが国でも呼吸・循環障害のリハビリテーション(以下リハ)への取り組みが活発となり,その普及が求められるようになった.米国の心肺リハ協会(AACVPR:American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation)がコアとなって刊行した心臓リハガイドラインや呼吸リハ・プログラムのガイドラインはわが国でも次々に翻訳され,リハのエビデンスへの関心が高まった.約10年前に刊行されたJournal of CLINICAL REHABILITATION(臨床リハ)の別冊「呼吸リハビリテーション」は当時のわが国としては先進的な内容により好評であったが,その後のわが国のこの領域での展開は日本呼吸ケア・リハ学会を中心に目覚ましいものがある.身体障害者福祉法の身体障害の分類のなかには内部障害があり,そのなかで最も多いのは心臓機能障害である.そこで,今回は呼吸リハだけでなく循環リハも取り上げ,それぞれの領域で中心的にご活躍されている先生方に企画編集をお願いし,多数の専門家にご執筆いただくことが実現した.
リハが医学の第3相として脚光を浴びたのは,高齢社会の到来が明らかとなった20世紀半ばの米国においてである.当時の米国の有力病院では心不全や呼吸不全による病床専有率の高まりが問題となり,傷病兵の受け入れや急速な技術革新を反映した病院改革を求める空気のなかで,高齢者は寝かせておくべきではないとする20世紀初頭の理念が実践された.そこでは安静度や活動性を拡大するため生理学的指標の見直しが精力的になされた.米国には米国の事情があり,リハは伝統的な物理医学(物療内科)と結びついて専門性が確立された.しかし,包括的リハはいまだ発展途上にあり,かつ最も活発な領域のひとつである.しかも古典的な医学の枠組みを超えてである.
リハは医療技術の進歩により延命は達成されても,病院など施設に収容され管理される人口増大が予想され,“Adding life to years”が近代医療の目標に掲げられるようになった19世紀末から20世紀初頭の動向を反映して新しい専門性が模索されるようになった.ルネサンスの人間主義を受けて展開してきた西洋近代科学の一部をなす医学においても,疾患の管理だけでなく病む人の生活回復が目標に置かれたことは自然である.したがって,リハは医療者すべての仕事でもある.
動物としてのヒトの生活は移動を中心に活動が展開する.そこでは骨関節や筋肉の働きとそれを支配制御する神経系の活動がイメージされるが,その活動はブドウ糖や酸素の供給によるエネルギーが必須である.したがって,心不全や呼吸不全では四肢に欠陥がなくとも,トイレに行くにも衣服の着替えにも息切れで介助を要することが生じうる.高齢者医療で1950年代に普及した早期離床の実践は,呼吸・循環機能の管理が基盤にあってのことである.わが国にはわが国の古くから独自に発展した医療の歴史がある.この背景が幅広いリハへの関心を抑制してきたように感じる.リハは後療法ではなく,発症直後から生活回復を目指す医療において,チームで提供されるべき必須のサービスであることを改めて強調したい.
本誌は雑誌の別冊としての性格上,執筆期間の制約があるなかで,ご協力いただいた執筆者各位に深く感謝するとともに,充実した内容により呼吸・循環障害のリハはもとより,リハ医療全般の臨床の現場で広く読まれることで有用性が発揮されるテキストであることを確信する.
2008年5月
編者を代表して 江藤文夫
総 論
1. リハビリテーションと呼吸・循環障害 江藤文夫
2. 呼吸・循環障害にみられる障害とリハビリテーション 上月正博
3. 呼吸・循環障害の医療経済,介護・医療・福祉制度 松尾善美
呼吸編
I 呼吸リハビリテーションに必要な基礎知識
1. 呼吸リハビリテーションに必要な呼吸器系の構造と機能 長瀬隆英
2. 呼吸リハビリテーションに必要な臨床評価
(1)フィジカルアセスメント,画像診断,各種評価 寺本信嗣
(2)生理機能検査 佐藤一洋 塩谷隆信
II 呼吸リハビリテーションに必要な各種療法─定義とエビデンス
1. 呼吸リハビリテーションの定義とエビデンス 上月正博
2. コンディショニング 佐野裕子
3. 運動療法 神津 玲 三尾直樹・他
4. 薬物療法 一ノ瀬正和
5. 食事療法・栄養指導 栗原亜子 石坂彰敏
6. NPPV,CPAP(急性期・慢性期) 谷口博之 渡邉文子
7. 酸素療法 大石淳一 上月正博
8. 患者教育・家族指導 滝澤真季子 植木純
III 呼吸リハビリテーションの実際
1. COPD 植木 純
2. その他の気道閉塞性呼吸器疾患 桂 秀樹
3. 拘束性呼吸器疾患 安藤守秀
4. 運動障害者からみた呼吸障害
(1)脳血管疾患・脊髄損傷と呼吸障害 花山耕三
(2)神経筋疾患と呼吸障害 小林庸子
(3)脊柱側弯症 高橋秀寿 小宗陽子・他
5. 胸部・腹部手術前後 菅 俊光
6. 緩和ケアと呼吸リハビリテーション 辻 哲也
7. 人工呼吸器離脱までのリハビリテーション 石原英樹
8. 人工呼吸器依存患者のリハビリテーション 石原英樹
循環編
I 心臓リハビリテーションに必要な基礎知識
1. 心臓リハビリテーションに必要な循環器系の構造と機能 上嶋健治
2. 心臓リハビリテーションに必要な臨床評価(1) 安達 仁
心臓リハビリテーションに必要な臨床評価(2) 小池 朗
II 心臓リハビリテーションに必要な各種療法─定義とエビデンス
1. 心臓リハビリテーションの定義とエビデンス 大宮一人
2. 運動療法 高橋哲也
3. 薬物療法・酸素療法 木庭新治
4. 食事療法・栄養指導 玉木大輔
5. 患者教育・家族指導 佐藤真治
6. 心臓リハビリテーションの安全性確保と緊急時の対応 木村 穣
III 心臓リハビリテーションの実際
1. 心筋梗塞(急性期) 野原隆司
2. 心筋梗塞(回復期) 金澤雅之
3. 心筋梗塞(維持期) 伊東春樹 長山雅俊
4. 慢性心不全 後藤葉一
5. 開心術後(OPCABも含む) 長山雅俊
6. 補助人工心臓装着後 牧田 茂 花房祐輔
7. 運動障害者からみた心臓機能障害
(1)脳血管疾患と心臓機能障害 小山照幸
(2)脊髄損傷と心臓機能障害 小山照幸
(3)腎不全と心臓機能障害 伊藤 修
column
●呼吸・循環障害に対する電気刺激療法 長坂誠
●誤嚥性肺炎 寺本信嗣
●肺サーファクタント 高橋弘毅
●慢性呼吸器疾患の急性増悪時の対応 坪井知正
●呼気による気道炎症評価 山縣俊之
●呼吸リハビリテーション中のリスクマネジメント 加賀谷斉
●肺の再生と制御 阿部信二 工藤翔二
●インターネットを使った指導 吉田俊子
●肺移植とリハビリテーション 森信芳 上月正博
●呼吸リハビリテーションをめぐる日本呼吸ケア・リハビリテーション学会と関連学会との連携 植木純
●温度感受性受容体を介した摂食時誤嚥予防の新戦略 海老原孝枝 海老原覚
●骨格筋機能低下 須藤英一
●機器を用いた排痰法 菅俊光
●睡眠時無呼吸症候群 飛田渉
●作業療法と呼吸リハビリテーション 後藤葉子
●no-reflow現象 伊藤浩
●和温療法 宮田昌明 鄭忠和
●心筋梗塞と抑うつ 石原俊一
●気絶心筋と冬眠心筋 中川敬一
●加圧トレーニングと心臓リハビリテーション 中島敏明
●心移植とリハビリテーション 牧田茂
●ペースメーカー,ICD植え込み患者の運動療法の注意点 上月正博
●リモデリング 花谷彰久 葭山稔
●心臓リハビリテーション学会と心臓リハビリテーション指導士 牧田茂
●メディックスクラブ 伊東春樹
●急性心筋梗塞に対する再灌流療法の現況 池田こずえ
●虚血性心疾患のガイドライン 折口秀樹
●プレコンディショニング 三浦哲嗣
●安定化プラークと不安定化プラーク 福間長知
1. リハビリテーションと呼吸・循環障害 江藤文夫
2. 呼吸・循環障害にみられる障害とリハビリテーション 上月正博
3. 呼吸・循環障害の医療経済,介護・医療・福祉制度 松尾善美
呼吸編
I 呼吸リハビリテーションに必要な基礎知識
1. 呼吸リハビリテーションに必要な呼吸器系の構造と機能 長瀬隆英
2. 呼吸リハビリテーションに必要な臨床評価
(1)フィジカルアセスメント,画像診断,各種評価 寺本信嗣
(2)生理機能検査 佐藤一洋 塩谷隆信
II 呼吸リハビリテーションに必要な各種療法─定義とエビデンス
1. 呼吸リハビリテーションの定義とエビデンス 上月正博
2. コンディショニング 佐野裕子
3. 運動療法 神津 玲 三尾直樹・他
4. 薬物療法 一ノ瀬正和
5. 食事療法・栄養指導 栗原亜子 石坂彰敏
6. NPPV,CPAP(急性期・慢性期) 谷口博之 渡邉文子
7. 酸素療法 大石淳一 上月正博
8. 患者教育・家族指導 滝澤真季子 植木純
III 呼吸リハビリテーションの実際
1. COPD 植木 純
2. その他の気道閉塞性呼吸器疾患 桂 秀樹
3. 拘束性呼吸器疾患 安藤守秀
4. 運動障害者からみた呼吸障害
(1)脳血管疾患・脊髄損傷と呼吸障害 花山耕三
(2)神経筋疾患と呼吸障害 小林庸子
(3)脊柱側弯症 高橋秀寿 小宗陽子・他
5. 胸部・腹部手術前後 菅 俊光
6. 緩和ケアと呼吸リハビリテーション 辻 哲也
7. 人工呼吸器離脱までのリハビリテーション 石原英樹
8. 人工呼吸器依存患者のリハビリテーション 石原英樹
循環編
I 心臓リハビリテーションに必要な基礎知識
1. 心臓リハビリテーションに必要な循環器系の構造と機能 上嶋健治
2. 心臓リハビリテーションに必要な臨床評価(1) 安達 仁
心臓リハビリテーションに必要な臨床評価(2) 小池 朗
II 心臓リハビリテーションに必要な各種療法─定義とエビデンス
1. 心臓リハビリテーションの定義とエビデンス 大宮一人
2. 運動療法 高橋哲也
3. 薬物療法・酸素療法 木庭新治
4. 食事療法・栄養指導 玉木大輔
5. 患者教育・家族指導 佐藤真治
6. 心臓リハビリテーションの安全性確保と緊急時の対応 木村 穣
III 心臓リハビリテーションの実際
1. 心筋梗塞(急性期) 野原隆司
2. 心筋梗塞(回復期) 金澤雅之
3. 心筋梗塞(維持期) 伊東春樹 長山雅俊
4. 慢性心不全 後藤葉一
5. 開心術後(OPCABも含む) 長山雅俊
6. 補助人工心臓装着後 牧田 茂 花房祐輔
7. 運動障害者からみた心臓機能障害
(1)脳血管疾患と心臓機能障害 小山照幸
(2)脊髄損傷と心臓機能障害 小山照幸
(3)腎不全と心臓機能障害 伊藤 修
column
●呼吸・循環障害に対する電気刺激療法 長坂誠
●誤嚥性肺炎 寺本信嗣
●肺サーファクタント 高橋弘毅
●慢性呼吸器疾患の急性増悪時の対応 坪井知正
●呼気による気道炎症評価 山縣俊之
●呼吸リハビリテーション中のリスクマネジメント 加賀谷斉
●肺の再生と制御 阿部信二 工藤翔二
●インターネットを使った指導 吉田俊子
●肺移植とリハビリテーション 森信芳 上月正博
●呼吸リハビリテーションをめぐる日本呼吸ケア・リハビリテーション学会と関連学会との連携 植木純
●温度感受性受容体を介した摂食時誤嚥予防の新戦略 海老原孝枝 海老原覚
●骨格筋機能低下 須藤英一
●機器を用いた排痰法 菅俊光
●睡眠時無呼吸症候群 飛田渉
●作業療法と呼吸リハビリテーション 後藤葉子
●no-reflow現象 伊藤浩
●和温療法 宮田昌明 鄭忠和
●心筋梗塞と抑うつ 石原俊一
●気絶心筋と冬眠心筋 中川敬一
●加圧トレーニングと心臓リハビリテーション 中島敏明
●心移植とリハビリテーション 牧田茂
●ペースメーカー,ICD植え込み患者の運動療法の注意点 上月正博
●リモデリング 花谷彰久 葭山稔
●心臓リハビリテーション学会と心臓リハビリテーション指導士 牧田茂
●メディックスクラブ 伊東春樹
●急性心筋梗塞に対する再灌流療法の現況 池田こずえ
●虚血性心疾患のガイドライン 折口秀樹
●プレコンディショニング 三浦哲嗣
●安定化プラークと不安定化プラーク 福間長知








