やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 医療の進歩,高齢社会の到来,疾病構造の変化などによりリハビリテーション(以下リハ)医療へのニーズは増す一方であり,臨床現場では患者数,紹介数の増加となってあらわれている.一方,限られた時間のなかで見落としのないよう確実に診察を行い,治療方針を決定することは容易ではない.また,現時点では,その指針となるべきリハ診断学が確立されているとは言いにくい状況にある.
 リハ医療では,「評価」あるいは「処方」という言葉が頻用される.では「評価」をもとにしてどのように治療方針を決定し,具体的な処方を行うか,そのプロセスあるいは判断の根拠については今まであまり焦点があてられてこなかったのではないだろうか.本書ではそれに対するひとつの回答として,「Decision Making(DM)」という,まだリハ領域では馴染みの薄い言葉を切り口に,リハ治療のターニングポイントにおいてどのような決断を行うかを示すことを試みた.リハ医療とDMのかかわりについては冒頭の総説をお読みいただきたいが,EBM重視の流れのなかで,リハ医療において今後ますます重要な概念になるものと思われる.
 本書で取り上げた78項目のDMは,執筆者の先生方に日々の診療を振り返っていただき,いつ・どのような決断をされているかをもとに設定したものである.これらは同時に他科の医師,コメディカルスタッフ,患者・家族からわれわれリハ医がしばしば受ける質問とも重なるものである.治療経過のなかで迷いが生じたとき,あるいは他科医師からの質問の回答に窮したとき,本書を開いていただければその答えを見出せるのではないだろうか.ただし,本書ではリハ科が主体的に行っている(行うべき)DMに限定したため,対象は9つの疾患(障害)となっている.また,各種の評価,検査,治療法の詳細までは述べられていない.それらについては,各項であげられている文献を参照していただきたい.
 本書では,企画・監修にあたられた石田暉先生(元東海大学教授)が重要な総説をご執筆いただいているが,これが遺稿となってしまった.畏友である石田先生のご冥福を心よりお祈り申し上げたい.
 最後に,DMという新たなテーマにチャレンジいただき,多大なるご苦労をおかけした編集協力者および執筆者の先生方に謝意を表したい.
 2008年4月
 監修者を代表して 石神重信
 リハビリテーション医学・医療とDecision Making(石田 暉)
脳卒中/急性期(新舎規由 石神重信)
 1.ベッドサイドリハの開始時期と内容は
 2.急性期併存疾患のチェックと治療のリスクは
 3.ベッドサイドで問題となる意識障害・高次脳機能障害の評価のポイントは
 4.急性期での嚥下障害と排泄障害へのアプローチは
 5.訓練室訓練の開始時期と内容は
 column
  長期臥床していた患者を起こすリスク
脳卒中/回復期(石神重信 新舎規由 高田 研 安保雅博 佐々木信幸 後藤杏里 辰濃 尚 百崎 良 菅原英和 小林健太郎 高岸敏晃 角田 亘 粳間 剛 岡本隆嗣)
 6.回復期にくる脳卒中患者とは
 7.理学療法と処方は
 8.歩行訓練の進めかたと下肢装具の使用は
 9.上肢麻痺と作業療法の進めかたは
 10.関節可動域制限へのアプローチは
 11.脳卒中の痛みの治療は
 12.ADL訓練は
 13.嚥下障害へのアプローチは
 14.失語症の鑑別と対応は
 15.失行・失認へのアプローチは
 16.認知症へのアプローチは
 17.障害受容とDepressionの診断・対応は
 18.家庭復帰の手順は
 column
  脳卒中の痙縮のコントロールは
  病棟訓練と訓練室訓練はどうあるべきか
  嚥下機能の評価
  失語症の予後予測
  半側空間無視
  上肢・下肢の予後予測
脳外傷/急性期(花山耕三 古野 薫)
 19.ベッドサイドでの評価は
 20.脳外傷の重症度と高次脳機能障害は
 21.リハ治療の段階的なアプローチは
 22.急性期症状へのアプローチは
 23.退院・社会復帰は
 column
  脳外傷のアウトカムと予後予測
  脳外傷と脳卒中の違いは何か
脳外傷/回復期(渡邉 修)
 24.家族が訴えやすい患者の症状は
 25.臨床で必要な評価は
 26.記憶障害へのリハの介入は
 27.注意障害(落ち着きがなくなった,飽きっぽくなったなど)へのリハの介入は
 28.行動障害を有する患者(イライラ,きれやすい,易怒性など)へのリハの介入は
 29.入院時の徘徊,暴力に対してどう対処するか
 30.職業復帰のための訓練は
 31.復学した脳外傷児(小児)のADHDへの対応は
 column
  障害の固定はいつ判断できるのか
頸髄損傷/急性期(笠井史人)
 32.ベッドサイドでの評価は
 33.ベッド上・ベッドサイド訓練は
 34.整形外科手術・装具使用とリハの内容は
 35.呼吸障害に対するリハアプローチは
 36.急性期の合併症とリスク管理は
 37.排尿障害と管理の進めかたは
 column
  頸髄損傷のレベルと呼吸機能・肺活量
  Zancolliの分類
  脊髄のクロスセクション
  高齢者中心性頸髄損傷
  深部静脈血栓と肺塞栓はどう治療するか
  褥瘡予防対策
頸髄損傷/回復期(岡田真明 土岐明子)
 38.頸髄損傷者が回復期に来るときは
 39.若年頸髄損傷者と高齢頸髄損傷者の違いは
 40.理学療法の段階的な進めかたは
 41.作業療法の段階的な進めかたは
 42.患者と家族への教育は
 43.車いすの適応と処方時期は
 44.褥瘡の管理は
 45.自律神経過反射への対応は
 46.痙縮が強い場合の治療適応と選択は
 47.排尿障害への対応は
 48.外来でのフォローアップは
 column
  車いすの種類─頸髄損傷者が使用するものを中心に
  自律神経過反射のメカニズム
大腿骨頸部骨折/急性期を中心に(白濱正博 志波直人)
 49.大腿骨頸部骨折患者の評価は
 50.術式で変わるリハプログラムは
 51.パスにのらない高齢者の合併症と対応は
 column
  大腿骨頸部骨折をめぐるガイドライン─最近の動向
高齢者の人工関節(股関節・膝関節)置換術(石田健司 永野靖典 池ノ内千乃 西上智彦)
 52.人工股関節置換術後のリハアプローチは
 53.人工股関節置換術後の合併症の評価は
 54.人工膝関節置換術後のリハアプローチは
 55.人工膝関節置換術後の合併症の評価は
 56.人工(股・膝)関節置換術後の退院指導と外来でのフォローは
 column
  人工関節の基礎知識とアプローチの原則
下肢切断(石井雅之 杉山岳史 平岡 崇 塚本芳久)
 57.見逃しをつくらないための術前でのベッドサイト評価は
 58.併存疾患の治療の流れは
 59.術前のリハプログラムの立てかたは
 60.切断後のベッドサイドリハは
 61.断端形成はこうして
 62.切断後の合併症とリハプログラムの変更は
 63.切断術後の訓練の手順は
 64.義足の選択と適応は
 65.義足の評価に必要な歩行評価は
 column
  末梢循環不全の理解
  義足とエネルギー消費
  小児の切断
パーキンソン病(中馬孝容)
 66.リハ評価のポイントは
 67.多様な症状(精神症状,睡眠障害,自律神経障害)とリハアプローチは
 68.在宅ケアとリハの取り組みは
 69.リハ治療がうまくいかないときには何を考えるのか
 column
  パーキンソン病の病態生理
  パーキンソン症候群とは─リハに必要な鑑別診断
高齢者肺炎(藤原俊之)
 70.高齢者肺炎の実態と特徴は
 71.リハの組み立てとステップアップは
 72.高齢者肺炎は誤嚥性肺炎か
熱傷/急性期を中心に(横井 剛)
 73.ベッドサイドでの評価のポイントは
 74.急性期のポジショニングと関節可動域訓練の開始時期,留意点は
 75.病棟・訓練室でのリハ訓練の内容は
 76.急性期の気道熱傷,呼吸器合併症患者に対する呼吸リハは
 77.熱傷のリハにおける特殊な問題は
 78.熱傷に多い自殺企図患者(統合失調症など)へのアプローチは
 column
  熱傷の原因
  熱傷と浮腫
  熱傷と痛み