はじめに
「客観的でより正確な評価は,治療効果の信頼にたる判定と各治療法の比較のために,さらにリハビリテーション中の患者の身体的作業能力の評価のためなどに必要である」として,C.M.Fletcherによる日常生活での息切れの重症度分類について科学的根拠を示したP.Hugh-Jonesの有名な研究論文がBMJに掲載されたのは,1952年のことである.当時,心・肺疾患では息切れを指標とした運動負荷試験が普及し,トレッドミルや自転車エルゴメータが使用されるようになり,運動療法に対する期待からリハビリテーション(以下リハ)も脚光をあびたようである.しかし,本格的にリハが治療体系のなかに定着するのは,保健医療のパラダイム変化が明確に意識され,あわせて科学的根拠が集積される1970年代後半からというべきであろう.
初版時にも注目された米国心血管・呼吸リハビリテーション協会(AACVPR)による「呼吸リハビリテーション・プログラムのガイドライン」第2版(1998年)が,本年わが国の呼吸管理学会の手により翻訳され日本語版が出版されたことを機に,わが国でも呼吸リハガイドラインの確立を求める気運が高まり,その活動が開始されようとしている.包括的呼吸リハの効果としては,症状の軽減,QOLの向上,運動耐容能の改善,日常生活活動・動作(ADL)の自立,医療費の節減などが含まれ,数多くの研究がその根拠を提供してきた.
今日では,リハ医学は予防医学,治療医学,保健医学とならぶ医学・医療の重要な柱と考えられている.その実践は医師と看護婦を中心とした従来の病院内での活動においてさえ,理学療法士,呼吸療法士,作業療法士,栄養士,薬剤師などの多職種がかかわるチームアプローチが基本であり,地域での生活活動の維持,さらには拡大と障害の予防のためには,さらに多くの職種の関与を必要とする.
本誌「Journal of CLINICAL REHABILITATION」はリハに携わる医療者を読者対象としているが,「呼吸リハ」のテーマは読者の関心が高く,そのなかでも臨床場面で行う治療の意味づけや,症状・所見の変化にともなうリハプログラムの選択に迷うことが多いとの意見があった.これらの要望にこたえ,現場で役立つ知識と技術をわかりやすく提供するために本別冊は企画された.
執筆にあたり,筆者の先生方には下記の共通認識のもとにおまとめいただくようお願いした.
(1) 病態別に呼吸の異常をどう把握し,リハの計画と処方に結びつけるかを主眼にする.
(2) リハの実際は単に呼吸管理にとどまらず,ADLの自立,QOLの向上へのアプローチを含める.
(3) Evidence based medicineを念頭において,代表疾患におけるリハプログラムの選択を意識したクリティカルパス,またはフローチャートによる治療の選択を提示する.
また,総論・各論の構成に加え,呼吸器専門リハビリクリニックや在宅リハなど現場からの臨床レポート,さまざまな話題を簡潔にまとめたONE POINTの最新情報も盛り込むことを企画し,それぞれ第一線で活躍される専門の先生方にご執筆をいただいた.限られた紙面での欲ばったお願いにもかかわらず,充実した内容の原稿をお寄せくださった筆者の先生方には深く感謝いたす次第である.
わが国では,リハビリテーションが未だに整形外科の一分野とみなされることが稀でなく,医療制度上の問題も多いことから十分なアプローチが根付いていない現状がある.本別冊が包括的な呼吸リハを目指す医師,医療スタッフの皆さんに役立てていただけることを願っている.
1999年10月 編者を代表して 江藤文夫
「客観的でより正確な評価は,治療効果の信頼にたる判定と各治療法の比較のために,さらにリハビリテーション中の患者の身体的作業能力の評価のためなどに必要である」として,C.M.Fletcherによる日常生活での息切れの重症度分類について科学的根拠を示したP.Hugh-Jonesの有名な研究論文がBMJに掲載されたのは,1952年のことである.当時,心・肺疾患では息切れを指標とした運動負荷試験が普及し,トレッドミルや自転車エルゴメータが使用されるようになり,運動療法に対する期待からリハビリテーション(以下リハ)も脚光をあびたようである.しかし,本格的にリハが治療体系のなかに定着するのは,保健医療のパラダイム変化が明確に意識され,あわせて科学的根拠が集積される1970年代後半からというべきであろう.
初版時にも注目された米国心血管・呼吸リハビリテーション協会(AACVPR)による「呼吸リハビリテーション・プログラムのガイドライン」第2版(1998年)が,本年わが国の呼吸管理学会の手により翻訳され日本語版が出版されたことを機に,わが国でも呼吸リハガイドラインの確立を求める気運が高まり,その活動が開始されようとしている.包括的呼吸リハの効果としては,症状の軽減,QOLの向上,運動耐容能の改善,日常生活活動・動作(ADL)の自立,医療費の節減などが含まれ,数多くの研究がその根拠を提供してきた.
今日では,リハ医学は予防医学,治療医学,保健医学とならぶ医学・医療の重要な柱と考えられている.その実践は医師と看護婦を中心とした従来の病院内での活動においてさえ,理学療法士,呼吸療法士,作業療法士,栄養士,薬剤師などの多職種がかかわるチームアプローチが基本であり,地域での生活活動の維持,さらには拡大と障害の予防のためには,さらに多くの職種の関与を必要とする.
本誌「Journal of CLINICAL REHABILITATION」はリハに携わる医療者を読者対象としているが,「呼吸リハ」のテーマは読者の関心が高く,そのなかでも臨床場面で行う治療の意味づけや,症状・所見の変化にともなうリハプログラムの選択に迷うことが多いとの意見があった.これらの要望にこたえ,現場で役立つ知識と技術をわかりやすく提供するために本別冊は企画された.
執筆にあたり,筆者の先生方には下記の共通認識のもとにおまとめいただくようお願いした.
(1) 病態別に呼吸の異常をどう把握し,リハの計画と処方に結びつけるかを主眼にする.
(2) リハの実際は単に呼吸管理にとどまらず,ADLの自立,QOLの向上へのアプローチを含める.
(3) Evidence based medicineを念頭において,代表疾患におけるリハプログラムの選択を意識したクリティカルパス,またはフローチャートによる治療の選択を提示する.
また,総論・各論の構成に加え,呼吸器専門リハビリクリニックや在宅リハなど現場からの臨床レポート,さまざまな話題を簡潔にまとめたONE POINTの最新情報も盛り込むことを企画し,それぞれ第一線で活躍される専門の先生方にご執筆をいただいた.限られた紙面での欲ばったお願いにもかかわらず,充実した内容の原稿をお寄せくださった筆者の先生方には深く感謝いたす次第である.
わが国では,リハビリテーションが未だに整形外科の一分野とみなされることが稀でなく,医療制度上の問題も多いことから十分なアプローチが根付いていない現状がある.本別冊が包括的な呼吸リハを目指す医師,医療スタッフの皆さんに役立てていただけることを願っている.
1999年10月 編者を代表して 江藤文夫
総論 呼吸リハビリテーションの理解
◎知識の理解編
呼吸リハビリテーションの動向 里宇明元…6
呼吸リハビリテーションのための病態生理 鈴木俊介…20
◎診断・評価編
呼吸リハビリテーションに必要な臨床評価 辻哲也 里宇明元…36
プログラム作成に必要な検査値の読み方 寺本信嗣…48
◎治療編
呼吸リハビリテーションのプログラム 野村浩一郎…58
評価と治療効果の判定 桂秀樹 木田厚瑞…66
呼吸リハビリテーションの基本手技とその理論 柳原幸治 額谷一夫/他…72
呼吸リハビリテーションのための併用療法 蝶名林直彦 大蔵暢/他…100
人工呼吸の適応と管理 坪井知正…112
緊急時の対応 高橋紳一…124
患者・家族指導 川根博司…128
在宅呼吸ケア 木村謙太郎…138
各論 呼吸リハビリテーションの実際
1 慢性閉塞性肺疾患 安藤守秀 榊原博樹…155
2 小児喘息 杉本日出雄…170
3 成人喘息 福島康次 福田健…179
4 肺炎・急性気管支炎 牛尾龍朗 竹田宏/他…190
5 肺結核 藤野忠彦 神田容江…201
6 気管支拡張症 佐野正明 塩谷隆信…211
7 睡眠呼吸障害 小野容明 太田保世…219
8 筋ジストロフィー 花山耕三 石原傳幸…230
9 筋萎縮性側索硬化症 加藤修一…242
10 重症筋無力症 日野創 西尾真一/他…249
11 ギランバレー症候群 菅田忠夫 眞野行生…266
12 脊柱側弯症 高橋秀寿 関勝…272
13 頸髄損傷 伊藤良介…279
14 手術前後 中野恭一 藤原誠/他…285
15 NICUにおける呼吸障害 半澤直美…296
Topics 臨床現場レポート
呼吸リハビリテーションクリニック―長崎呼吸器リハビリクリニックの試み 力富直人…306
在宅における呼吸リハビリテーション―沖縄県立宮古病院における在宅訪問活動より 本永英治…312
ONE POINT
◎呼吸療法士の役割 宮川哲夫…34
◎呼吸リハビリテーションにおける身体障害認定の問題点 工藤翔二…57
◎わが国における呼吸リハビリテーションのはじまり 古賀良平…99
◎呼吸不全を有する筋ジストロフィー患者に対するminitracheostomy tubeを介した人工呼吸管理 野守裕明 石原傳幸…121
◎新しい体外式人工呼吸器―the Hayek oscillator 里宇明元…122
◎療養指導用資料開発の取り組み 酒井志野…150
◎HOTをめぐる最新情報 酒井志野…154
◎Pulmonary cachexiaとは 米田尚弘…168
◎誤嚥性肺炎の予防 大賀栄次郎 長瀬隆英…188
◎COPDの漢方療法 本間行彦…229
◎びまん性汎細気管支炎におけるEM療法 杉山幸比古…264
◎ARDSにおけるPEEPの見直し 喜屋武幸男…294
◎知識の理解編
呼吸リハビリテーションの動向 里宇明元…6
呼吸リハビリテーションのための病態生理 鈴木俊介…20
◎診断・評価編
呼吸リハビリテーションに必要な臨床評価 辻哲也 里宇明元…36
プログラム作成に必要な検査値の読み方 寺本信嗣…48
◎治療編
呼吸リハビリテーションのプログラム 野村浩一郎…58
評価と治療効果の判定 桂秀樹 木田厚瑞…66
呼吸リハビリテーションの基本手技とその理論 柳原幸治 額谷一夫/他…72
呼吸リハビリテーションのための併用療法 蝶名林直彦 大蔵暢/他…100
人工呼吸の適応と管理 坪井知正…112
緊急時の対応 高橋紳一…124
患者・家族指導 川根博司…128
在宅呼吸ケア 木村謙太郎…138
各論 呼吸リハビリテーションの実際
1 慢性閉塞性肺疾患 安藤守秀 榊原博樹…155
2 小児喘息 杉本日出雄…170
3 成人喘息 福島康次 福田健…179
4 肺炎・急性気管支炎 牛尾龍朗 竹田宏/他…190
5 肺結核 藤野忠彦 神田容江…201
6 気管支拡張症 佐野正明 塩谷隆信…211
7 睡眠呼吸障害 小野容明 太田保世…219
8 筋ジストロフィー 花山耕三 石原傳幸…230
9 筋萎縮性側索硬化症 加藤修一…242
10 重症筋無力症 日野創 西尾真一/他…249
11 ギランバレー症候群 菅田忠夫 眞野行生…266
12 脊柱側弯症 高橋秀寿 関勝…272
13 頸髄損傷 伊藤良介…279
14 手術前後 中野恭一 藤原誠/他…285
15 NICUにおける呼吸障害 半澤直美…296
Topics 臨床現場レポート
呼吸リハビリテーションクリニック―長崎呼吸器リハビリクリニックの試み 力富直人…306
在宅における呼吸リハビリテーション―沖縄県立宮古病院における在宅訪問活動より 本永英治…312
ONE POINT
◎呼吸療法士の役割 宮川哲夫…34
◎呼吸リハビリテーションにおける身体障害認定の問題点 工藤翔二…57
◎わが国における呼吸リハビリテーションのはじまり 古賀良平…99
◎呼吸不全を有する筋ジストロフィー患者に対するminitracheostomy tubeを介した人工呼吸管理 野守裕明 石原傳幸…121
◎新しい体外式人工呼吸器―the Hayek oscillator 里宇明元…122
◎療養指導用資料開発の取り組み 酒井志野…150
◎HOTをめぐる最新情報 酒井志野…154
◎Pulmonary cachexiaとは 米田尚弘…168
◎誤嚥性肺炎の予防 大賀栄次郎 長瀬隆英…188
◎COPDの漢方療法 本間行彦…229
◎びまん性汎細気管支炎におけるEM療法 杉山幸比古…264
◎ARDSにおけるPEEPの見直し 喜屋武幸男…294