序
糖尿病はインスリンの作用不足に基づく慢性の高血糖を特徴とする代謝症候群であると定義されているが,糖尿病の治療は,単に血糖値をコントロールすることだけではない.UKPDS,Steno-2などの大規模臨床研究により,血圧,脂質などの代謝をきめ細かく是正し,必要に応じて,抗凝固療法,抗血小板療法を行い,さらには肥満の解消に努力することが重要である.また,DCCT-EDIC,Steno-2の続報などによれば,1型糖尿病であっても2型糖尿病であっても,発症早期の代謝管理が10年後,20年後の細小血管障害,大血管障害の進展阻止に有用であることも確認され,“metabolic memory(発症早期の治療効果は年余にわたって影響を及ぼす)”という概念も確立されつつある.
わたしが医師免許証を取得した1980年代前半には,高血糖を是正する手段としての食事療法,運動療法には科学的な裏付けが少なく,薬物治療については『手持ちの駒』が乏しかった.経口薬としてはトルブタミド(ラスチノン®),アセトヘキサミド(ジメリン®),グリベンクラミド(オイグルコン®,ダオニール®)などのSU薬しかなく,BG薬であるブホルミン(ジベトスB®)が虎の門病院などの一部の施設で使用されているにすぎなかった.インスリンにしても,レンテ,モノタード,インスラタードノルディスクなどの中間型インスリンが治療の中心であり,シリンジで中間型インスリンと速効型インスリンを混和する試みが行われはじめた時代であった.
しかし,1990年代後半になり,α-グルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン薬,超速効型インスリン分泌促進薬などの新たな作用機序をもった経口血糖降下薬がマーケットに登場し,BG薬であるメトホルミンの有用性が見直され,新たなSU薬も発売された.
さらに最近では,2型糖尿病の病態として膵β細胞のアポトーシスによる経時的な膵β細胞の容量の低下が注目されている.そのような観点から,膵β細胞の増生,アポトーシスを抑止する治療としてインクレチンアナログ,インクレチンミミックスが海外で発売され,わが国においても数年以内に使用が可能となる.
今後,新たな展開が予想される糖尿病の治療に関する分野について,現段階における治療をreviewし,将来を見据える目的で本別冊を企画した.第一線で活躍されるお忙しい先生たちに原稿をお願いしたところ,快くお引き受けくださり,多くの魅力的な総説が揃った.
多くの皆様に本別冊をお読みいただき,知識の整理をしながら,外来診療における新たな視点が生まれることを祈念している.
吉岡成人 Yoshioka,Narihito
北海道大学大学院医学研究科内科学講座・第二内科
糖尿病はインスリンの作用不足に基づく慢性の高血糖を特徴とする代謝症候群であると定義されているが,糖尿病の治療は,単に血糖値をコントロールすることだけではない.UKPDS,Steno-2などの大規模臨床研究により,血圧,脂質などの代謝をきめ細かく是正し,必要に応じて,抗凝固療法,抗血小板療法を行い,さらには肥満の解消に努力することが重要である.また,DCCT-EDIC,Steno-2の続報などによれば,1型糖尿病であっても2型糖尿病であっても,発症早期の代謝管理が10年後,20年後の細小血管障害,大血管障害の進展阻止に有用であることも確認され,“metabolic memory(発症早期の治療効果は年余にわたって影響を及ぼす)”という概念も確立されつつある.
わたしが医師免許証を取得した1980年代前半には,高血糖を是正する手段としての食事療法,運動療法には科学的な裏付けが少なく,薬物治療については『手持ちの駒』が乏しかった.経口薬としてはトルブタミド(ラスチノン®),アセトヘキサミド(ジメリン®),グリベンクラミド(オイグルコン®,ダオニール®)などのSU薬しかなく,BG薬であるブホルミン(ジベトスB®)が虎の門病院などの一部の施設で使用されているにすぎなかった.インスリンにしても,レンテ,モノタード,インスラタードノルディスクなどの中間型インスリンが治療の中心であり,シリンジで中間型インスリンと速効型インスリンを混和する試みが行われはじめた時代であった.
しかし,1990年代後半になり,α-グルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン薬,超速効型インスリン分泌促進薬などの新たな作用機序をもった経口血糖降下薬がマーケットに登場し,BG薬であるメトホルミンの有用性が見直され,新たなSU薬も発売された.
さらに最近では,2型糖尿病の病態として膵β細胞のアポトーシスによる経時的な膵β細胞の容量の低下が注目されている.そのような観点から,膵β細胞の増生,アポトーシスを抑止する治療としてインクレチンアナログ,インクレチンミミックスが海外で発売され,わが国においても数年以内に使用が可能となる.
今後,新たな展開が予想される糖尿病の治療に関する分野について,現段階における治療をreviewし,将来を見据える目的で本別冊を企画した.第一線で活躍されるお忙しい先生たちに原稿をお願いしたところ,快くお引き受けくださり,多くの魅力的な総説が揃った.
多くの皆様に本別冊をお読みいただき,知識の整理をしながら,外来診療における新たな視点が生まれることを祈念している.
吉岡成人 Yoshioka,Narihito
北海道大学大学院医学研究科内科学講座・第二内科
序 吉岡成人 Yoshioka Narihito
01 食事療法に関する新たなる展開
炭水化物に注目した食事指導「カーボカウント」 津田謹輔 Tsuda Kinsuke
02 運動療法に関する新たなる展開
効果的な運動指導を実施するために― 2型糖尿病を中心として― 大澤 功 Ohsawa Isao
03 経口血糖降下薬に関する新たなる展開
α-グルコシダーゼ阻害薬に関するトピックス 山城慶子・他 Yamashiro Keiko,et al
グリニド系薬に関するトピックス 森 豊 Mori Yutaka
スルホニル尿素薬に関するトピックス 太田明雄・他 Ohta Akio,et al
ビグアナイド薬に関するトピックス 佐倉 宏 Sakura Hiroshi
チアゾリジン薬に関するトピックス 後藤田貴也 Gotoda Takanari
経口血糖降下薬の併用治療に関するトピックス 細井雅之・他 Hosoi Masayuki.et al
04 インスリン治療に関する新たなる展開
インスリン治療と患者心理に関するトピックス 辻井 悟 Tsujii Satoru
2型糖尿病患者へのインスリン導入に関する最近の話題 澤田 享・他 Sawada Takashi
インスリンアナログに関するトピックス 中西幸二 Nakanishi Koji
将来のインスリン製剤に関するトピックス 浜口朋也・他 Hamaguchi Tomoya,et al
血糖モニターに関するトピックス 柳澤克之 Yanagisawa Katsuyuki
05 インクレチンファミリーに関する新たなる展開
GLP-1受容体作動薬による糖尿病治療 山田祐一郎 Yamada Yuichiro
DPP-4阻害薬に関するトピックス 中川 淳 Nakagawa Atsushi
06 糖尿病の移植と再生に関する新たなる展開
膵臓移植の現況と課題 寺岡 慧 Teraoka Satoshi
膵島移植に関するトピックス 松本慎一 Matsumoto Shinichi
膵島の再生療法の現状と展望 綿田裕孝 Watada Hirotaka
07 肥満に関する新たなる展開
肥満の薬物治療に関するトピックス 吉田俊秀 Yoshida Toshihide
肥満の外科治療に関するトピックス 兒玉多曜 Kodama Masaaki
01 食事療法に関する新たなる展開
炭水化物に注目した食事指導「カーボカウント」 津田謹輔 Tsuda Kinsuke
02 運動療法に関する新たなる展開
効果的な運動指導を実施するために― 2型糖尿病を中心として― 大澤 功 Ohsawa Isao
03 経口血糖降下薬に関する新たなる展開
α-グルコシダーゼ阻害薬に関するトピックス 山城慶子・他 Yamashiro Keiko,et al
グリニド系薬に関するトピックス 森 豊 Mori Yutaka
スルホニル尿素薬に関するトピックス 太田明雄・他 Ohta Akio,et al
ビグアナイド薬に関するトピックス 佐倉 宏 Sakura Hiroshi
チアゾリジン薬に関するトピックス 後藤田貴也 Gotoda Takanari
経口血糖降下薬の併用治療に関するトピックス 細井雅之・他 Hosoi Masayuki.et al
04 インスリン治療に関する新たなる展開
インスリン治療と患者心理に関するトピックス 辻井 悟 Tsujii Satoru
2型糖尿病患者へのインスリン導入に関する最近の話題 澤田 享・他 Sawada Takashi
インスリンアナログに関するトピックス 中西幸二 Nakanishi Koji
将来のインスリン製剤に関するトピックス 浜口朋也・他 Hamaguchi Tomoya,et al
血糖モニターに関するトピックス 柳澤克之 Yanagisawa Katsuyuki
05 インクレチンファミリーに関する新たなる展開
GLP-1受容体作動薬による糖尿病治療 山田祐一郎 Yamada Yuichiro
DPP-4阻害薬に関するトピックス 中川 淳 Nakagawa Atsushi
06 糖尿病の移植と再生に関する新たなる展開
膵臓移植の現況と課題 寺岡 慧 Teraoka Satoshi
膵島移植に関するトピックス 松本慎一 Matsumoto Shinichi
膵島の再生療法の現状と展望 綿田裕孝 Watada Hirotaka
07 肥満に関する新たなる展開
肥満の薬物治療に関するトピックス 吉田俊秀 Yoshida Toshihide
肥満の外科治療に関するトピックス 兒玉多曜 Kodama Masaaki








