はじめに
1999年,日本糖尿病学会の「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会」は,糖尿病の疾患概念を「インスリンの作用不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症をきたしやすく動脈硬化症をも促進する.代謝障害の程度によって,無症状から重篤なケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す」と規定している.したがって,糖尿病は遺伝的素因を背景に,過食,美食,偏食,肥満,運動不足,ストレスなどの日常の生活習慣の乱れによって発症,進展する病気であり,まさに高度成長をとげた現代の飽食時代を象徴する病気として増加の一途をたどっている.以前は,早期には無自覚,無症状のことが多く,病気の存在すら気づかれないままに,あるいは気づいても長年放置することで合併症が出現して,病院を受診するが,すでに手遅れになるケースも見受けられた.しかし,近年では,糖尿病の地域検診が広く普及したり,病気そのものに関する啓蒙活動が行き渡ったため積極的に早期発見,適切な治療がなされるようになっている.現在,厚生省も糖尿病の実態調査をふまえ,「健康プラン21」と題して,生活習慣病としての糖尿病の予防,早期発見,治療対策に積極的に取り組んでいる.一方,医療費削減の方向から考えると,多大な医療費を必要とする進行した症例の治療よりも病気の予防対策に力が注がれるのは当然といえる.
かかる現状をふまえて,1997年アメリカ糖尿病協会(ADA),1998年世界保健機構(WHO),1999年日本糖尿病学会は,相次いで糖尿病の新しい分類と診断基準を提唱した.
病型分類は,糖尿病の病因,成因を重視した分類となり,1型,2型とした.さらに,その他として糖尿病の原因遺伝子異常が特定されたものと,従来の二次性,症候性,化学性糖尿病を一括したことが大きな特徴となっている.一方,診断基準では,空腹時血糖値を重視し,正常域(110mg/dL未満),impaired fasting glucose(IFG:110〜125mg/dL),糖尿病域(126mg/dL=7 mmol以上)の3つに分けた.空腹時血糖値(126mg/dL以上),随時血糖値(200mg/dL以上),75g OGTTの2時間値(200mg/dL以上)いずれでも日を変えて2回以上満たされた場合を糖尿病と診断することとした.
わが国では,糖尿病の症状,HbA1c値(6.5%以上),糖尿病網膜症も診断基準に追加し,血糖値とこれらの3項目のうち1項目を満たせば糖尿病と診断できるとした.診断のためにはできるだけルーチンの血糖値を重視し,OGTT検査は脇役的に位置づけることとした.しかるに,糖負荷後2時間値で診断する場合,140mg/dL未満は正常型,normal glucose tolerance(NGT),140〜199mg/dLは境界型,impaired glucose tolerance(IGT),200mg/dL以上を糖尿病型と規定した.特にIFGやIGTは,糖尿病の前段階ではあるが,肥満やインスリン抵抗性と関連して,糖尿病と同様に動脈硬化症の危険因子となるので厳重に管理すべき病態と考えられる.
今回の新しい診断基準が運用されるに至った経緯と,診断基準そのものをよく理解して,糖尿病の実地診療のなかで活かすことが大切と思われる.さらに,今日広く実施されている検診の場の糖尿病のスクリーニングにどう活かすか.あるいは,合併症の予防や糖尿病のよりよい治療,管理にどう活かすかなどの具体的な疑問点を解決するために,第5回日本糖尿病協会・プラクティスシンポジウムを,「新しい診断基準-運用の実際とその成果-」と題して,福岡市の明治生命ホールで,平成12年2月19日,山之内製薬の共催,医歯薬出版株式会社の後援で開催した.多くの参加者を得て,盛会かつ有意義に終えることができた.基調講演として,“新しい糖尿病の分類と診断基準の考え方“を和歌山県立医科大学第一内科教授 南條輝志男先生にお願いした.さらに,パネルディスカッションとして“1.耐糖能障害者における新しい診断基準の意義”を山形大学臨床検査医学教授 富永真琴先生に,“2.老年糖尿病の管理 ・治療における新しい診断基準の意義“を九州大学大学院病態機能内科講師 清原裕先生に,“3.新しい診断基準と今後の合併症予防・管理”を熊本大学代謝内科講師 岸川秀樹先生にお願いした.
シンポジウムの記録集として,別冊プラクティスを発行致しましたので,皆様方の日常診療のお役に立てていただけましたら幸いに存じます.
2000年8月25日 梅田文夫 Umeda Fumio 福岡市医師会成人病センター
1999年,日本糖尿病学会の「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会」は,糖尿病の疾患概念を「インスリンの作用不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症をきたしやすく動脈硬化症をも促進する.代謝障害の程度によって,無症状から重篤なケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す」と規定している.したがって,糖尿病は遺伝的素因を背景に,過食,美食,偏食,肥満,運動不足,ストレスなどの日常の生活習慣の乱れによって発症,進展する病気であり,まさに高度成長をとげた現代の飽食時代を象徴する病気として増加の一途をたどっている.以前は,早期には無自覚,無症状のことが多く,病気の存在すら気づかれないままに,あるいは気づいても長年放置することで合併症が出現して,病院を受診するが,すでに手遅れになるケースも見受けられた.しかし,近年では,糖尿病の地域検診が広く普及したり,病気そのものに関する啓蒙活動が行き渡ったため積極的に早期発見,適切な治療がなされるようになっている.現在,厚生省も糖尿病の実態調査をふまえ,「健康プラン21」と題して,生活習慣病としての糖尿病の予防,早期発見,治療対策に積極的に取り組んでいる.一方,医療費削減の方向から考えると,多大な医療費を必要とする進行した症例の治療よりも病気の予防対策に力が注がれるのは当然といえる.
かかる現状をふまえて,1997年アメリカ糖尿病協会(ADA),1998年世界保健機構(WHO),1999年日本糖尿病学会は,相次いで糖尿病の新しい分類と診断基準を提唱した.
病型分類は,糖尿病の病因,成因を重視した分類となり,1型,2型とした.さらに,その他として糖尿病の原因遺伝子異常が特定されたものと,従来の二次性,症候性,化学性糖尿病を一括したことが大きな特徴となっている.一方,診断基準では,空腹時血糖値を重視し,正常域(110mg/dL未満),impaired fasting glucose(IFG:110〜125mg/dL),糖尿病域(126mg/dL=7 mmol以上)の3つに分けた.空腹時血糖値(126mg/dL以上),随時血糖値(200mg/dL以上),75g OGTTの2時間値(200mg/dL以上)いずれでも日を変えて2回以上満たされた場合を糖尿病と診断することとした.
わが国では,糖尿病の症状,HbA1c値(6.5%以上),糖尿病網膜症も診断基準に追加し,血糖値とこれらの3項目のうち1項目を満たせば糖尿病と診断できるとした.診断のためにはできるだけルーチンの血糖値を重視し,OGTT検査は脇役的に位置づけることとした.しかるに,糖負荷後2時間値で診断する場合,140mg/dL未満は正常型,normal glucose tolerance(NGT),140〜199mg/dLは境界型,impaired glucose tolerance(IGT),200mg/dL以上を糖尿病型と規定した.特にIFGやIGTは,糖尿病の前段階ではあるが,肥満やインスリン抵抗性と関連して,糖尿病と同様に動脈硬化症の危険因子となるので厳重に管理すべき病態と考えられる.
今回の新しい診断基準が運用されるに至った経緯と,診断基準そのものをよく理解して,糖尿病の実地診療のなかで活かすことが大切と思われる.さらに,今日広く実施されている検診の場の糖尿病のスクリーニングにどう活かすか.あるいは,合併症の予防や糖尿病のよりよい治療,管理にどう活かすかなどの具体的な疑問点を解決するために,第5回日本糖尿病協会・プラクティスシンポジウムを,「新しい診断基準-運用の実際とその成果-」と題して,福岡市の明治生命ホールで,平成12年2月19日,山之内製薬の共催,医歯薬出版株式会社の後援で開催した.多くの参加者を得て,盛会かつ有意義に終えることができた.基調講演として,“新しい糖尿病の分類と診断基準の考え方“を和歌山県立医科大学第一内科教授 南條輝志男先生にお願いした.さらに,パネルディスカッションとして“1.耐糖能障害者における新しい診断基準の意義”を山形大学臨床検査医学教授 富永真琴先生に,“2.老年糖尿病の管理 ・治療における新しい診断基準の意義“を九州大学大学院病態機能内科講師 清原裕先生に,“3.新しい診断基準と今後の合併症予防・管理”を熊本大学代謝内科講師 岸川秀樹先生にお願いした.
シンポジウムの記録集として,別冊プラクティスを発行致しましたので,皆様方の日常診療のお役に立てていただけましたら幸いに存じます.
2000年8月25日 梅田文夫 Umeda Fumio 福岡市医師会成人病センター
はじめに…梅田文夫 Umeda Fumio
開会にあたって:新しい診断基準――運用の実際とその成果…後藤由夫 Goto Yoshio
I:Keynote Lecture
新しい糖尿病の分類と診断基準の考え方
南條輝志男 Nanjo Kishio
II:Panel
1. 耐糖能障害者における新しい診断基準の意義
富永真琴 Tominaga Makoto
2. 老年糖尿病の管理・治療における新しい診断基準の意義
清原 裕 Kiyohara Yutaka
3. 新しい診断基準と今後の合併症予防・管理
岸川秀樹 Kishikawa Hideki
III:Panel Discussion
新しい診断基準――運用の実際とその成果
司会 池田義雄 Ikeda Yoshio,梅田文夫 Umeda Fumio
パネリスト 富永真琴 Tominaga Makoto,清原 裕 Kiyohara Yutaka,岸川秀樹 Kishikawa Hideki
第5回日糖協・プラクティスシンポジウム
■期日:2000年2月19日
■会場:福岡市・明治生命ホール
■共催:(社)日本糖尿病協会・山之内製薬株式会社
■後援:医歯薬出版株式会社
開会にあたって:新しい診断基準――運用の実際とその成果…後藤由夫 Goto Yoshio
I:Keynote Lecture
新しい糖尿病の分類と診断基準の考え方
南條輝志男 Nanjo Kishio
II:Panel
1. 耐糖能障害者における新しい診断基準の意義
富永真琴 Tominaga Makoto
2. 老年糖尿病の管理・治療における新しい診断基準の意義
清原 裕 Kiyohara Yutaka
3. 新しい診断基準と今後の合併症予防・管理
岸川秀樹 Kishikawa Hideki
III:Panel Discussion
新しい診断基準――運用の実際とその成果
司会 池田義雄 Ikeda Yoshio,梅田文夫 Umeda Fumio
パネリスト 富永真琴 Tominaga Makoto,清原 裕 Kiyohara Yutaka,岸川秀樹 Kishikawa Hideki
第5回日糖協・プラクティスシンポジウム
■期日:2000年2月19日
■会場:福岡市・明治生命ホール
■共催:(社)日本糖尿病協会・山之内製薬株式会社
■後援:医歯薬出版株式会社