やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 糖尿病では地域医療が現在最も重要である.その理由は,(1)糖尿病患者数の増加と受療率の低いこと(45%)は全国的な,有効な施策が期待できない今日,その地域での効率的な取り組みが必要である,(2)その地域にあったスタッフの研修や医療施設の連携の取り組みで効果がみられる,(3)その地域でのチーム医療のレベルアップが比較的容易であり,しかも効率的である,などである.しかし,地域といってもその大きさあるいは人口の多さにも程度があり,上は県レベルから下は市町村まで含まれ,それぞれ特徴を備えるが,まとまりや互いの意思疎通などに関して言えば市町村レベルが最も容易に開始し効率的な運営も可能であろう.通常それぞれの地域には“医療圏“というものがあり,完結型の高度医療施設を中心とした適度の人口を有する地域であれば,それが最も小さな単位である.これらがいくつか集まった大きな医療圏を対象とする場合には,これを統括する努力はより大きなものを要する.これらの医療圏で糖尿病地域医療を立ち上げる時,医師や保健所など下からの努力で設立する場合は,医療圏が小さい方が比較的に容易であるが,県など大きな医療圏を対象とする場合は,知事や県の厚生部からのいわゆるトップダウンの方式による立ち上げがどうしても必要となる.後者の場合,“糖尿病”のみに対策支援を行うということで,議会などへの説得や他の疾患団体との競合にも考慮して,むしろ広い意味の“成人病”を克服することになる生活習慣の是正を旗印とするなどして実現を目指すことが求められる.実際,富山県ではこのような面でも努力を必要とし,最初の県との交渉では全く成功できず,その後,知事によるトップダウン方式が成功したことを申しそえる.
 糖尿病の地域医療対策の設立および運営の成功のためには,以上述べた方策の他に医療側スタッフの組織づくりがある.それには糖尿病協会に基づいたものや,医師会に基づいたものなど種々の団体があるが,やはり数人の熱心なこれを支える医療スタッフが必要である.この中には医師を先頭として看護婦,栄養士などがチームとして加わり,全体のムードづくりが必要である.最初は医師のリードが必要であるが,コメディカルが充分その運営を代わって,あるいは支援して実行することが可能となることが多く,その組織づくりが重要である.
 本特集号では,各地の地域医療の実際を紹介して頂き,その方法や問題点など種々提示することにより,これから組織づくりを行う人々の一つの指標となるものと思う.このような成果は糖尿病地域医療の成果(outcome)となって表れ,患者のケアの充実,医療経済の改善,患者QOLの向上などが期待できる.このような成果が実際もたらせるのかどうか,それぞれの地域医療の有効性の検証が必要であり,このための長期のフォローアップおよび検証の方法についてもこれから工夫されなければならない.合併症の抑制,糖尿病発症率の抑制などが証明されてこそ,この地域医療の成果は真の実りを行政はじめ多くの人々に訴えかけることができるのである.
 最後にこの特集号に執筆願った人々の糖尿病地域医療に対する情熱に敬意を表すると同時にこの特集への貢献に感謝したい.
 2000年4月10日 小林正 Kobayashi,Masashi 富山医科薬科大学医学部第一内科
はじめに…小林 正 KOBAYASHI Masashi

I.糖尿病の地域医療
 病診連携と糖尿病ケア 阿部 隆三 ABE Ryuzo

II.糖尿病医療の連携と組織化
 1.個人診療所および市町村・保健所の連携と糖尿病教育 地域医療余年の回顧と新しい試み  斎藤 登 SAITO Noboru
 2.糖尿病診断における中核専門病院と地域開業医とのより緊密な役割分担の試み  植木 彬夫ほか UEKI Akio
 3.市町村単位での糖尿病対策の組織化のあり方  武田 倬 TAKEDA Akira

III.糖尿病の地域医療の実践
 1.網膜症発症予防への地域での取り組み  平尾 紘一 HIRAO Koichi
 2.薬診連携による糖尿病患者管理の試み 少人数勉強会からホームページによる情報交換まで  伊藤 眞一 ITO Shinichi
 3.糖尿病電子カルテ(CoDiC TM)による糖尿病患者管理  山崎 勝也ほか YAMAZAKI Katsuya
 4.福岡県筑後地区での糖尿病対策  布井 清秀 NUNOI Kiyohide
 5.糖尿病の地域ケアシステムの確立を目指す浦添市の病診連携  久田 友一郎ほか HISADA Yuuichirou
 6.富山県糖尿病ナース養成  吉田 百合子 YOSHIDA Yuriko