やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 著者は,臨床現場で毎日,管理栄養士とともに働いている.彼らが朝早くから夜遅くまで患者さんの栄養管理のために真摯に取り組んでいる姿を目のあたりにして思うことがある.栄養管理が行われている現場は,医師である著者からみたら,症例報告したい・論文にしてまとめてみたい症例の宝庫である.栄養状態と治療経過,栄養状態と薬剤の副作用発生頻度,栄養状態と周術期の合併症発生頻度,栄養介入と各種検査値の推移など,例をあげたらきりがない.しかし,彼らにはそれらが日常業務になっており,強いてまとめてみようという意欲は見られない.あるいは,意欲があっても踏み出せないのかもしれない.おそらくは,日本中どの職場を見ても,同じ状況ではないかと想像される.著者が学術誌の査読を担当している中で,医師や看護師の査読論文の中に,明らかに文体の違う,書き慣れていない論文を目にすることがある.残念なことに,たいていは管理栄養士により投稿された論文である.
 現代社会では,年功序列,経験による組織のピラミッド構成は消えつつある.医療現場でも,業績の評価により,職位が左右される時代に突入した.医療現場でいう業績とは,経験ではなく,最終的には学術論文という形で,可能であれば英文で世界に発信された論文のことである.論文を書くには,臨床研究を立案し倫理委員会の承認を通過させ,臨床試験登録を行い,結果の統計分析を実施する等,多大な労力が必要とされる.業務が忙しくてそんなことはできない,ということは理由にはならない.なぜならば,医療現場ではすべての職種において業務は忙しいものだからである.
 それでは,なぜ,管理栄養士はこれだけ豊富な症例に接していて論文にまとめようとしないのであろうか.答えは,臨床現場における管理栄養士に対する学術支援(臨床研究の立案や論文作成のノウハウ)が十分に実施されていないことが原因であると考える.臨床現場における管理栄養士数は,施設ごとで見ると数名と少ない配置である.このため,卒後教育の中で学術的支援が実施されることは少なく,その指導者でさえも学術的支援を受けていない場合も少なくない.
 著者は,管理栄養士やその養成校(大学や大学院)の学生に対して短時間の指導を行うだけで,見違えるほどプレゼンテーションスキルや論文作成能力が向上することを,これまでに幾度も経験してきた.学術的支援を受けることがなかった分,彼らの伸びしろは無限大である.幸運にも月刊『臨床栄養』に,「ここが知りたい! 臨床研究・スライド・論文作成のコツ」を6回にわたり連載執筆する機会を得られた.この連載内容をさらにパワーアップさせ,これまで現場の管理栄養士や養成校の学生に対して指導してきたことの集大成を1冊にまとめ上げたものが本書である.学術的な支援を受けてこなかった現場の管理栄養士が,これから卒論研究を行う養成校の学生が,そして未だ研究発表・論文化に不安を抱えている管理栄養士が,本書を読むことで臨床研究・スライド・論文作成のコツをつかめた,といってもらえる1冊に仕上げたつもりである.本書を手に取り学んだ管理栄養士が,学会の壇上や学術誌の誌面で活躍することを願いたい.
 序
 プロローグ 学会発表や論文執筆により自分の成果を世に知らしめてみよう
第1章 まずはプレゼンテーションスキルを身に付けよう
 口頭発表の極意,教えます
  プレゼンで緊張しないようにするためにプレゼン前に心がけるとよい3つのポイント
   自分のバイタルサインを安定させる
   口渇感をとる
   歩幅を広くとって立つ
  とてもよいプレゼンだったと聴衆に気持ちよく帰ってもらえるためにプレゼン中に心がけるとよい5つのポイント
   読み原稿をもたない
   自分の言葉で伝える
   自分のエピソードやデータを入れる
   聴衆全員の目を見て話す
   時間厳守,予定より少し早く終わる
  伝わりやすい話し方の5つのポイント
   ゆっくり話すように心がける
   「えーっと」,「えー」,「あー」は禁句
   短文で述べる
   大きな声で聞き取りやすいように伝える
   簡単な言葉で伝える
  わかりやすいプレゼンにするための会話術―マスコミから学んだプレゼンの5つの極意
   自分が話す言葉は徹底的に理解する
   時間があればひたすら練習する
   聞き取りやすいスピードで話す
   抑揚と“間ま”がポイント
   本番後も勉強を怠らない
 文章の書き方の極意,教えます
  文章を書く前に心がけるとよい5つのポイント
   おもしろい文章を書こうと気張らない
   まずは先人の文章を読みあさる
   起承転結を意識して書く
   論文は決まった構成で書く
   安心してください,論文は一人で書くものではありません
  文章をうまく見せる10のポイント
   短文を心がける
   接続語の「……が,……」は使用しない
   「そして」,「さて」,「だが」などの接続詞,「この」,「それ」,「これら」などの代名詞はできるだけ使用しない
   主語と述語を明確にする
   「およそ」,「だろう」などの不確定な表現は使用しない
   「と思う」などの想像ではなく,「と考える」,「と考えられる」と論理的な言い回しを使用する
   漢字の連続は4文字程度にとどめる
   文末が能動態か受動態かを正確に書く
   時系列を統一する
   自分にしか通用しない言葉,略語,俗語は使用しない
第2章 つぎに研究計画書を作成しよう
 研究テーマ(RQ)を見つけよう
  臨床研究の7つのステップをイメージしよう
  臨床現場はRQの宝庫であることに気が付くこと
  RQを見つけ出す努力とコツをつかむこと
   普段から,思ったことをメモする
   学会や研究会に出席して刺激を受ける
   同世代と情報交換する
  RQが見えてきたら徹底的に情報検索をすること
   インターネットによる情報検索の方法
   論文検索の方法とコツ
  RQが定まったら,FINERを最終確認
 研究計画書を実際に書いてみよう
  研究計画書の記載項目は決まっている
  表題
  研究の背景
  研究の目的
  研究の方法
   研究デザイン
   研究対象
   アウトカムの設定
   アウトカムの評価方法
   統計処理方法
  研究結果の予測と意義
  倫理的配慮
   こんなことでも倫理的配慮に欠けていると指摘される
   研究計画書において倫理的配慮の記載が必要な項目(1)個人情報(プライバシー)の保護
   研究計画書において倫理的配慮の記載が必要な項目(2)自己決定の権利(研究への参加と中断の権利)
  利益相反(conflicts of interest:COI)
  研究の期間と予算
  参考とした文献
  研究結果の発表予定,論文作成の予定
  研究組織
  その他
   研究成果の帰属について
   研究のモニタリング担当者
   健康被害に対する対応
第3章 研究実施前にクリアしておきたい4つの事項
 同意説明書の作成
  同意書とは
  誰に説明して,誰から取得する必要があるのでしょう
   高齢者介護施設で栄養の研究を実施する場合
   病院で栄養の臨床研究を実施する場合
  同意取得の決まりごとを確認しておきましょう
   本人が判断できないときのキーパーソンを決めておく
   熟慮期間を必ず与える
   パワーが働かないようにする
  同意書に記載すべき項目は決まっています
 倫理審査
  倫理審査を受ける資格を確認しよう
  倫理審査に必要な書類をそろえよう
  ヘルシンキ宣言の遵守を確認しよう
 利益相反の審査
  概念
  研究計画書,論文およびスライドへの具体的な記載方法
 臨床研究事前登録
  わが国の登録システム
  登録・公開内容
  登録は倫理書類の提出前に行い,スライドや論文にも登録番号を記載
第4章 演題登録とわかりやすいスライド作成のコツ
 プレゼンを聞いてみたくなるような抄録の書き方
  構造化抄録を完成させる
  IMRAD形式で書いてプレゼン機会をゲットする
  目に付く構造化抄録を作成するコツ
   タイトルにこだわる
   IMRAD形式を遵守
   文字数を守る(最重要!)
   略語をうまく使う
   可能な限り結果を盛り込む
   当日の発表で訂正はしない
 基本的なスライドの作り方
  スライドの構成もIMRAD
  発表時間に適したスライドの枚数で
  スライド内の文章のお約束―体言止め
 項目別スライド作成の実践ポイント
  タイトル(T)
  背景・目的(I)
  方法(M)
  結果(R)
  考察(D)
  結論(C)
  実例紹介
 印象に残るスライドを作成してみよう―Simple is best
  見やすいスライド作成の8つのコツ
  見やすいスライド作成の実践ポイント
   聴衆の視線「Z」に合わせた配置を心がける
   伝えたいメッセージは「ワンスライド・ワンメッセージ」が原則
   スライドは「資料」ではないので,完璧な記載を求めない
   すべてのスライドでフォントを統一する
   栄養の発表なら,写真や動画を組み込む
   万人受けするスライドに徹する
   スライド枚数が多いときは,ナビゲーションスライドを挿入する
第5章 思わず足を止めたくなるポスター作成と発表のコツ
 ポスター発表のメリット,デメリット
  メリット
   掲示時間が長い
   聴衆が近い
   フリーディスカッションが可能
   写真撮影が可能(の会場が多い)
   そのほか,こんなことも可能
  デメリット
   直前の訂正・変更が不可能
   会場が小さい
   聴衆が途中で離席しやすい
 目につくポスター作成のコツ
  文字は大きく体言止め,図表を多めに
  驚くことにIMRADに縛られない!
  タイトルにこだわる
  デザインにも紙の質にもこだわる
 伝わりやすいポスター発表のコツ
  聴衆の目を見て話す
  適度な声でプレゼンする
  座長に確実に伝わるようにする
  自分の発表時間以外でもポスターの周囲にいるようにする
  見えにくさを想定して伝える
第6章 いよいよ論文にまとめてみよう
 論文のイロハ
  研究業績における“論文”とは査読付き論文のこと
  論文の種類と構成
 論文の書き進め方
  論文作成は研究の準備段階,実施中から始まっている
  投稿規定を熟読する
  IMRADのどこから書きはじめるか―当然,“方法から”です
   方法(methods)
   結果(results)
   考察(discussion)
   結論(conclusion)
   引用文献(references)
   背景(background),目的(introduction)
   要旨(abstract)
   タイトルページ(title)
  論文を書き終わったら……必ず他人に読んでもらおう
第7章 皆さんの研究成果を投稿してみましょう
 論文の投稿から査読対応まで
  投稿誌の選定
  投稿規定の確認
  投稿作業
  査読対応
   再投稿の期限を守りましょう
   再投稿のルールを守りましょう
   査読で指摘される内容,リジェクトになる理由
  掲載

 エピローグ 臨床現場から業績の発信を
 索引

 Column
  「文章をうまく見せる10のポイント」の使用例 Before & After
  ウラワザ(1)論文のPDFを無料で手に入れる
  ウラワザ(2)FINERの確認に登録サイトが役に立つ
  スライド作成の豆知識:フォントに関するQ&A
  ポスターの作り方〈PowerPoint編〉
  学会発表することになりました さて前日から当日の準備は?
  論文でも抄録作成でも使える 文章をうまく書く10のコツ
  投稿のマナーを守ろう(1)コピペは厳禁,引用は適正に!
  投稿のマナーを守ろう(2)二重投稿は厳禁!
 Coffee break
  自称で終わるか,専門家とよばれるかの違い
  聴衆のリアクションから判断する,よい講演と残念な講演
  ベストなプレゼンはSTAR★★★
  自分のプレゼンを見て気がついたこと
  RQとの出合い――日常臨床の疑問からガイドラインが生まれる
  方法を詳細に書くことで将来はロボットが研究を実施するようになる?
  ウェブによる倫理研修
  研究計画書の最終チェックをぬかりなく
  倫理審査委員会がない施設で研究をするときは,どうしたらよいのでしょう?
  倫理審査委員会にはどんな人が出席しているの?
  企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン
  研究登録がきっかけで,専門家として認められるかも
  一般演題への応募抄録が優秀演題候補へ
  学会発表におけるセッション内容
  スライドをさらにブラッシュアップするコツ
  筆者の苦い経験
  スライド作成で忘れてはならない“KISSの法則”
  スライドの構成は聴衆を見て
  時代はデジタルポスター
  術前経口補水療法は,ポスター発表から日の目を見た
  投稿先の決め方とインパクト・ファクター
  “ハゲタカジャーナル”には要注意
  研究結果を台無しにしてしまう考察例
  アブストラクトがあなたの論文の顔です
  こんな悩みをお持ちの皆さんに助け船!「論文投稿支援システム」ご存じですか?