やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 慢性の腎臓病が一括してCKD(chronic kidney disease)とよばれるようになってから,もう10 年以上が経過しました.この間,日本は未曽有の高齢社会をむかえ,当然のことながら高齢のCKD患者が多くなりました.わが国のCKD患者数は成人人口の約13%にものぼると言われています.
 CKD診療のうえで食事療法は重要視されながらも,患者さんに対して有効なアプローチがなされていない状況を頻繁に見受けます.薬物療法は各製薬会社が常時,医師に対し積極的にpromotionを行い情報の浸透を期しているので,医師にとって半ば受動的に情報が取得できて認識されやすい状況があり,その結果,内服薬の処方数がますます増えています.ある医師が一人の患者さんへ20 数種類の薬を処方したという話を聞いて驚いたことがあります.本当にこのような多薬大量処方が必要なのでしょうか? 食事療法や生活習慣が適切なら不要の薬も多いのではないでしょうか? しかし,食事療法や生活指導の必要性が医師の意識のうちにあっても,本格的な取り組みには,医師自らが高いmotivationをもって実行していかなくてはなりません.そして,食事療法のよい効果をあげるには,管理栄養士などのhealth care professionalsとともに,患者教育の高い技術をもった医療チームとなる診療システムの構築が必要です.
 本書では食事療法を中心としながらも,CKDの全容をほぼ把握できるような構成になっています.そして医師,管理栄養士などがCKD患者に食事療法の指導を実際に行う場面を想定しつつ,知りたい点や疑問点を「質問」とし,それに対する「答え」という形で,わかりやすく単刀直入に記載されています.続いて「それはなぜか,そのエビデンスは?」と題して,その回答の根拠が理論的に述べられています.最後に「実践へどう活かすか?」と題して,各執筆者の経験もふまえて,実地臨床での必要な知識や技能が述べられます.
 本書の刊行にあたり腎臓病診療の第一線の諸先生に,ご多忙のなかで執筆していただきました.ご執筆を快くお引き受けくださった先生方に深謝いたします.また,本書の刊行を情熱とパワーをもって担当された医歯薬出版編集部の方々に敬意を表します.
 平成27 年7 月 猛暑の季節が到来した日に
 編者を代表して 中尾俊之
 序文
導入部
 Q-1 CKDの重症度と定義がどのように変わったのでしょうか? なぜ,そのように変わったのでしょうか?(西 慎一)
 Q-2 CKDの原疾患にはどのようなものがあるのでしょうか? 原疾患により食事療法に違いはあるのでしょうか?(中尾俊之)
 Q-3 透析患者数の推移と,今後の傾向について教えてください.また,なぜそのような傾向になってきているのでしょうか?(中井 滋)
 Q-4 腎機能の評価に血清クレアチンから算出するeGFRが用いられていますが,これはどの程度,正確でしょうか? とくに腎機能低下が軽〜中程度の場合の誤差はどうでしょうか? 誤差によりステージ判定に影響は出ませんか?(和田隆志,大島 恵)
 Q-5 CKDの進行を促進する因子にはどのようなものがあるでしょうか? また,それはどのように進行を促進するのでしょうか? それを予防するにはどうしたらよいですか?(高根裕史,岡田浩一)
 Q-6 CKDに対する薬物療法にはどのようなものがありますか? また,どのような効果がありますか? 薬物療法で悪化や進行が抑えられているCKD患者に,食事療法は必要なのでしょうか?(加藤明彦)
 Q-7 CKDで食事療法の適応となるのはどのような病態でしょうか? また,その食事療法はその病態になぜ有効なのでしょうか?(中西 健)
 Q-8 水分摂取量はどうすればよいでしょうか? CKDの進展に影響するのでしょうか? それはなぜでしょうか?(関根章成,乳原善文)
 Q-9 食塩の摂取制限にはどのような効果があるのでしょうか? それはなぜでしょうか?(熊谷天哲,内田俊也)
 Q-10 たんぱく質制限にはどのような効果があるのでしょうか? それはなぜでしょうか?(西尾康英)
CKDの基本的事項
 Q-11 低たんぱく質の食事療法で栄養障害にならないでしょうか? それはなぜでしょうか? 栄養障害を予防するにはどうしたらよいでしょうか?(出浦照國)
 Q-12 たんぱく質を減らした分,炭水化物を多く摂取すると糖尿病にならないでしょうか? また,油脂を多くして動脈硬化にならないのでしょうか? それはなぜでしょうか?(宇都宮一典,好川有希子)
 Q-13 CKDでは運動は禁忌でしょうか? どのような運動なら許されますか? それはなぜでしょうか? その方法を教えてください(平木幸治,柴垣有吾)
 Q-14 血液透析と腹膜透析の食事療法に違いがありますか? それはなぜでしょうか?(伊東 稔,政金生人)
食事療法基準2014をめぐって
 Q-15 CKDの食事療法基準(成人)はどのようになっていますか? なぜ,そのようになったのでしょうか?(鈴木芳樹)
 Q-16 エネルギーは,ステージ1〜4 は25〜35kcal/kg体重/ 日,透析患者では30〜35kcal/kg体重/ 日となっていますが,この範囲より多くても少なくてもいけないのでしょうか? 年齢,性別,生活活動度などで異なるとされていますが,具体的にはどのように算出するのでしょうか?(中尾俊之)
 Q-17 たんぱく質について,CKDステージ1,2 では「過剰な摂取をしない」となっていますが,具体的にはどのような量をいうのでしょうか? 尿蛋白が0.5g/日以下と少なく進行停止状態の腎炎患者に対して,たんぱく質の食事指導を受けてもらうのは現実的ではないのでは?(湯澤由紀夫,稲熊大城)
 Q-18 たんぱく質は,CKDステージ3aでは0.8〜1.0g/kg体重/ 日,ステージ3b,4,5 では0.6〜0.8g/kg体重/ 日となっていますが,この範囲より多くても少なくてもいけないのでしょうか? その厳密性や許容範囲を教えてください(金ア啓造,古家大祐)
 Q-19 透析患者のたんぱく質については0.9〜1.2g/kg体重/ 日となっていますが,1.1〜1.2g/kg体重/ 日では健常者への推奨量よりも多く,有害とならないか心配です.こんなに多量に必要でしょうか?(菅野義彦)
 Q-20 食塩は3g以上6g未満/日となっていますが,これより多くても少なくてもいけないのでしょうか? CKDステージ1,2 で血圧正常,尿蛋白0.5g/日以下と少なく,進行停止状態の患者にも6g未満とする必要があるのでしょうか?(守山敏樹)
 Q-21 カリウムは,ステージ3bと血液透析では2,000mg/日以下,ステージ4,5 では1,500mg/日以下となっていますが,なぜこのようになったのでしょうか? 血清カリウムが高くなくても,これより多いといけないのでしょうか?(鶴屋和彦)
合併症・特殊病態
 Q-22 高血圧をともなうCKDには,どのような指導・管理をするのでしょうか? 降圧薬で血圧が良好にコントロールされれば食塩制限は不要でしょうか?(清水英樹,要 伸也)
 Q-23 糖尿病の透析患者で,エネルギー制限ではやせて低栄養状態となり,栄養状態を維持しようとすると血糖コントロールが不良となりますが,どうしたらよいでしょうか? また,このような状態になるのはなぜですか?(阿部雅紀)
 Q-24 CKDで心血管障害のリスクが高いのはどうしてでしょうか? 予防や治療に食事療法が果たす役割と,どのようなことに注意すべきか教えてください(田村功一,畝田一司)
 Q-25 CKD-MBDとはどのような病態でしょうか? 予防や治療における食事療法の役割を教えてください(重松 隆,小林 聡)
 Q-26 脂質異常症をともなうCKDには,どのような指導・管理をするのでしょうか?(宗 正敏)
 Q-27 肥満・メタボリックシンドロームをともなうCKDには,どのような指導・管理をするのでしょうか?(小倉 誠)
 Q-28 CKD患者は,なぜサルコペニアやフレイルが起こるのでしょうか? 病態や症状,原因,予防・治療法について教えてください(熊谷裕通)
 Q-29 小児患者ではどのような指導・管理をするのでしょうか? 成人と同じように低たんぱく食にしたらいけないのでしょうか? それはなぜでしょうか?(小椋雅夫,石倉健司)
 Q-30 腎臓移植患者ではどのような指導・管理をするのでしょうか? それはなぜでしょうか?(大橋 靖,酒井 謙)

 索引