やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
未来をつくる小児栄養
 このたび,JCNシリーズの9冊目として,はじめて小児を取り扱うこととなった.
 21世紀にはいってからの日本は,わずか10年ほどの間に大きく行く先を変えてきた.2007年,65歳以上の人口は総人口の21%となり,2013年10月の時点で24.1%にまで伸び,世界第一位の超高齢社会となっている.世界保健機構(WHO)が統計のとれた世界191カ国を比較し,2013年に国際統計を報告している.この統計では高齢者を60歳以上とし,高齢者数はやはり日本が第1位で30%,全人口の年齢中央値も日本が世界第1位で45歳となっている.
 では小児についてみると,この統計ではどのように日本がみえているのか.ここでは小児を14歳以下とし,小児人口率上位にはアフリカ諸国がずらりと並ぶ.
 上から順にずーっとみていく.なかなか日本の国名が出てこない.見落としたか,と元に戻ろうとして一番下までみたそのとき,日本の国名を発見.この瞬間,一瞬,日本の未来がみえた気がしてめまい.小児人口率13%,191カ国中191位.なんと最下位(ウラからみれば世界第1位).
 高齢者人口世界第1位とともに,小児人口は下から世界第1位という,とてもとても鮮烈なデータ.この傾向は2050年,おそらくいまから30年以上変わらない.
 「TOKYO」.地球の裏側,ブエノスアイレスで2020年のオリンピック開催地が書かれた紙がこちらを向いた途端,日本が揺れた.
 そういえばいまからちょうど50年前,やはり東京でアジア初のオリンピックが開催され,おとなもこどもも世界を知った.そのころのこどもがいまの日本の中心を担ってきた.
 さて2020年.そのときのこどもたちは,間違いなく50年後の日本をつくっていく中心であるに違いない.ということは…いまのこどもをつくる栄養は,50年後の日本をつくる.
 いまのおとなや高齢者への栄養が,いまの人と国をつくったように,いまのこどもの栄養は,未来の人と国をつくる.地球から月に向けたロケットの方向が発射時にわずか1ミリ違っただけで,月から大きくはずれてしまう.
 同じように,いまのこどもへの栄養が少し違っただけで,50年後の世界が変わってしまう可能性を忘れずに,小児栄養をさらに世界に発信する国でありたい.小児栄養の英語論分世界1位を目指して.
 今回,お寄せいただいた玉稿をご執筆いただいた,必死に小児栄養と取り組む,すべてのご執筆者の方々に,未来からお礼がくるまえに,編者として心よりお礼申し上げます.
 未来は,小児栄養から.
 東京オリンピックから50年目の節目 武庫川にて
 雨海照祥
 まえがき(雨海照祥)

Part-1 栄養アセスメント・食行動
 小児に適した栄養アセスメントとは(千葉正博)
 小児の低栄養症候群─概論(雨海照祥・大西泉澄)
 小児期の肥満・過栄養(有阪 治)
  CQ-1 小児の栄養アセスメントにゴールドスタンダード(黄金律)はありますか?(雨海照祥)
 小児の低栄養症候群の判定基準─わが国におけるWHO基準の上腕周囲長の適用性と課題(雨海照祥・一丸智美)
 母体の低栄養と低出生体重児─成人病胎児期発症起源説から(福岡秀興)
  トピックス:朝食欠食と肥満(井ノ口美香子)
  トピックス:「食育」とはなにか─その意義と課題(蓬田健太郎)
Part-2 疾患と栄養
 NICUにおける栄養管理─エネルギー,たんぱく質,脂肪乳剤,特殊栄養素(日高大介・宮本泰行)
 PICUにおける栄養管理─エネルギー,たんぱく質,脂肪乳剤,特殊栄養素(堤 理恵)
 小児在宅静脈栄養法の臨床成績─延べ175年の経験(吉田英生)
 小児の糖尿病(1型,2型)(横田一郎)
 小児のメタボリックシンドロームと栄養管理(大関武彦・落合富美江)
 小児のNASH(乾 あやの・他)
 小児炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)の栄養管理(西本裕紀子・位田 忍)
  CQ-2 小児用経腸栄養剤はありますか?(雨海照祥)
 小児の脱水症と経口補水液(ORS)(川上 肇)
 Refeeding syndrome(RFS)の予防と対策(一丸智美)
 小児期の結核,消耗性疾患と低栄養─その対策(石立誠人)
 先天性心疾患の手術症例における低栄養とその対策(厚美直孝)
 小児の慢性腎疾患と栄養管理(亀井宏一)
 小児の摂食障害と栄養(中井義勝・任 和子)
 小児の貧血と栄養・食生活(吉本優里・真部 淳)
 脳性麻痺の臨床と栄養管理(鳥井隆志)
 食物アレルギー・アトピー性皮膚炎・気管支喘息と栄養─その原因と対策(海老澤元宏・小倉聖剛)
  CQ-3 小児の食物アレルギーが増えているというのは本当ですか?(海老澤元宏・小倉聖剛)
 SGA性低身長(田中敏章)
 幹細胞移植と低栄養(神前愛子・長谷川大一郎)
 先天性免疫不全症と低栄養(戸田尚子・原 寿郎)
 小児の摂食・嚥下障害─その機序と対策(田角 勝)
 う歯と栄養(井上美津子)
Part-3 食品・栄養素
 人工乳(乳児用調製乳)の現状と問題点(児玉浩子・他)
 小児期におけるプレバイオティクスの役割(山城雄一郎)
 ナトリウム・カリウム(池住洋平)
 カルシウム(泉 維昌)
 ビタミンD(室谷浩二)
  CQ-4 小児で臨床的にとくに発生率の高い(注意すべき)ビタミン欠乏症はありますか?(児玉浩子・他)
 亜鉛(上西一弘)
 n-3系脂肪酸(EPA・DHA)(東海林宏道・清水俊明)

 索引