やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書は,これまで私が学んできた研究者としての基礎医学知識,臨床医としての医療経験,さらに留学中に接することのできた栄養疫学研究のエビデンスに基づいて最新の知見を盛り込み,現在,私自身の考える最善の栄養学指南書にするべくまとめあげました.その目的は,まとめあげた情報を読者の皆様と共有することにあります.
 21世紀の感染症とも呼ばれる肥満症が蔓延する一方,抗糖尿病薬を中心とする代謝改善薬は,心循環器系疾患予防に対する十分なエビデンスを確立できていません.また,肥満そのものに対するこれまでの食事療法および薬剤治療も,中長期的に奏功しないという結果がすでに欧米において得られています.わが国においても成人病予防策にはじまり,国民健康づくり対策,健康日本21,健康増進法と幾多の健康政策にもかかわらず,肥満の増加に歯止めをかけることはできませんでした.こうした状況下,2008年4月にわが国において特定保健指導がはじまりましたが,これまでと同じ指導内容では成果が期待できないことは,実際の現場で皆様方ご自身がもっとも痛感されていることではないでしょうか.
 解決の糸口として,エビデンスに基づいたグッド・ダイエット(Good Diet)を摂取することこそがそのキーになると私は考えています.フードピラミッドの大部分を占める炭水化物と脂肪を,たんなる量ではなく種類こそが重要と考え,さらに内臓肥満と運動,アルコールの効用のほか,野菜・果物はとくに注目されるがんの観点からも記載しました.これら栄養知見を理解するための肥満関連遺伝子やアディポネクチンに加え,未来医療など最先端の研究トピックスについてもまとめました.最後に,これを実践するために,実際に私が産業医活動を行っている事業所などでの具体的な指導内容についても記載しました.
 われわれが発見したアディポネクチンはメタボリックシンドロームのkey moleculeとして位置づけられ,肥満解消によりその血清レベルが上昇することが明らかにされています.肥満解消が困難な状況でこそ,本書で取り上げたグッド・ダイエットを摂取し,アディポネクチンの血中レベルを維持できれば,肥満にともなう糖尿病,高血圧,心循環器系疾患,ひいてはがんのコントロールが可能になると考えています.
 医療従事者の皆様には日常の患者栄養指導に,また一般の皆様にはご自身やご家族の健康維持にお役立ていただければ,筆者として至福の喜びであります.
 前田和久
Chapter 1 体重が健康に及ぼす影響
Chapter 2 ダイエット法の真偽とヒト肥満関連遺伝子の全貌
Chapter 3 内臓脂肪は運動で減らす
Chapter 4 フードピラミッドの光と影
Chapter 5 超悪玉「トランス脂肪酸」
Chapter 6 体によい脂肪とその摂取法
Chapter 7 最強の抗メタボ薬〜未精製炭水化物
Chapter 8 たんぱく質とアルコール
Chapter 9 がんを防ぐ食生活とは
Chapter 10 脂肪組織特異的遺伝子の意義
Chapter 11 「グッド・ダイエット」とアディポネクチン
Chapter 12 内臓脂肪面積とアディポネクチン定量によるウエイトマネジメント

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