序文
近年のがん治療の進歩は著しい.胸腔鏡・ロボット支援下での低侵襲手術が普及し,免疫チェックポイント阻害薬を用いた薬物療法の進歩,そしてこれら複数のがん治療を組み合わせた集学的治療が多くの疾患で標準治療になった.そのため,がん治療は多種多様で治療期間が長くなり,その間の患者の栄養状態の維持が治療の完遂,成績向上のために一層重要になったのである.一方で,治癒を目指せないが延命やQOL向上・症状緩和を目指したがん治療を受けている患者も多く,がん治療の目指すべきゴールは様々である.
このように多種多様ながん治療が,日常臨床では患者の全身状態や社会的条件,希望などに応じてがん患者に提供されているが,がん治療における「食べる」ことの意義は何だろうか? 私たちが「食べる」ことは,生きるうえで栄養を摂取するだけでなく,様々な心理的・社会的役割も担っている.食べられることで治療意欲が出る,家族や友人と食事をともにすることで心が満たされる,あるいは不安が少し和らぐということは,がん患者ならびに家族からしばしば聞かれるところであり,治療継続のためには,食事を栄養源として考えることが大切である.「食べられない」患者ごとにその原因を考えて対策を練り,「食事がとれなければ経腸栄養・静脈栄養を」という短絡的な考えの前に,食事の内容を工夫するというステップを忘れてはいけない.筆者の千葉県がんセンターでは,「おいしく食べたいに応えたい」をモットーに,患者ごとに常に食事を工夫するようにしている.こうした栄養食事管理の意義は今日多くの施設で認識されてきたと思うが,その結果,がん患者が「食べて治す」ための栄養指導の重要性はどんどん高まっている.緩和期の患者の食事は,栄養源としてよりも「食べて癒す」意味合いが強くなるが,個々の患者に適切な食事を提供するためには栄養指導の意義は大きい.
適時適切な栄養指導は,がん治療の進歩や変遷に伴って変わっていくべきである.新たな治療には特有の副作用や合併症もあり,対応した指導が求められる.そこで本書では,最新のがん治療の成績をより高めるような「攻め」の栄養治療とそのための栄養指導についてエキスパートの先生方にご執筆いただいた.各著者の「いま」の考え方や工夫を,読者ご自身であらためて考えていただき,ご自身の診療の中で道を拓く一助となることを切に期待したい.
末筆ながら,時代に即した本企画の編集という貴重な機会をいただいたことは身に余る光栄であり,これまでご指導いただいた多くの先生方,とくに多職種連携の重要性を早くから教えてくださった千葉大学外科同門で恩師である故小越章平先生〔日本静脈経腸栄養学会(現,日本栄養治療学会JSPEN)初代理事長〕にあらためて感謝したい.そして,ご多忙の中でご執筆くださった先生方に加えて,アドバイスいただいた千葉県がんセンター栄養サポートチーム・栄養科のスタッフ,ならびに編集にご尽力いただいた医歯薬出版株式会社の諸氏に心から御礼申し上げる次第である.
2025年5月
鍋谷圭宏(千葉県がんセンター 副病院長:食道・胃腸外科/NST)
近年のがん治療の進歩は著しい.胸腔鏡・ロボット支援下での低侵襲手術が普及し,免疫チェックポイント阻害薬を用いた薬物療法の進歩,そしてこれら複数のがん治療を組み合わせた集学的治療が多くの疾患で標準治療になった.そのため,がん治療は多種多様で治療期間が長くなり,その間の患者の栄養状態の維持が治療の完遂,成績向上のために一層重要になったのである.一方で,治癒を目指せないが延命やQOL向上・症状緩和を目指したがん治療を受けている患者も多く,がん治療の目指すべきゴールは様々である.
このように多種多様ながん治療が,日常臨床では患者の全身状態や社会的条件,希望などに応じてがん患者に提供されているが,がん治療における「食べる」ことの意義は何だろうか? 私たちが「食べる」ことは,生きるうえで栄養を摂取するだけでなく,様々な心理的・社会的役割も担っている.食べられることで治療意欲が出る,家族や友人と食事をともにすることで心が満たされる,あるいは不安が少し和らぐということは,がん患者ならびに家族からしばしば聞かれるところであり,治療継続のためには,食事を栄養源として考えることが大切である.「食べられない」患者ごとにその原因を考えて対策を練り,「食事がとれなければ経腸栄養・静脈栄養を」という短絡的な考えの前に,食事の内容を工夫するというステップを忘れてはいけない.筆者の千葉県がんセンターでは,「おいしく食べたいに応えたい」をモットーに,患者ごとに常に食事を工夫するようにしている.こうした栄養食事管理の意義は今日多くの施設で認識されてきたと思うが,その結果,がん患者が「食べて治す」ための栄養指導の重要性はどんどん高まっている.緩和期の患者の食事は,栄養源としてよりも「食べて癒す」意味合いが強くなるが,個々の患者に適切な食事を提供するためには栄養指導の意義は大きい.
適時適切な栄養指導は,がん治療の進歩や変遷に伴って変わっていくべきである.新たな治療には特有の副作用や合併症もあり,対応した指導が求められる.そこで本書では,最新のがん治療の成績をより高めるような「攻め」の栄養治療とそのための栄養指導についてエキスパートの先生方にご執筆いただいた.各著者の「いま」の考え方や工夫を,読者ご自身であらためて考えていただき,ご自身の診療の中で道を拓く一助となることを切に期待したい.
末筆ながら,時代に即した本企画の編集という貴重な機会をいただいたことは身に余る光栄であり,これまでご指導いただいた多くの先生方,とくに多職種連携の重要性を早くから教えてくださった千葉大学外科同門で恩師である故小越章平先生〔日本静脈経腸栄養学会(現,日本栄養治療学会JSPEN)初代理事長〕にあらためて感謝したい.そして,ご多忙の中でご執筆くださった先生方に加えて,アドバイスいただいた千葉県がんセンター栄養サポートチーム・栄養科のスタッフ,ならびに編集にご尽力いただいた医歯薬出版株式会社の諸氏に心から御礼申し上げる次第である.
2025年5月
鍋谷圭宏(千葉県がんセンター 副病院長:食道・胃腸外科/NST)
序文(鍋谷圭宏)
Part 1 がんと代謝栄養に関するTOPICS
がん患者の代謝栄養―理解しておきたい悪液質(森 直治)
がんとサルコペニア・サルコペニア肥満,フレイル(角谷裕之,杉本 研)
がんと糖尿病(大橋 健)
がん予防と栄養・食事(片桐諒子)
Part 2 がん患者の栄養評価
がん患者の栄養スクリーニングとアセスメント(GLIM基準を除く)(遠藤陽子)
がん患者におけるGLIM基準による低栄養評価とその利用(福島亮治)
栄養関連予後予測指標(小山 諭)
Part 3 がん予後向上をめざす栄養治療のTIPS
がん患者の口腔機能と栄養・食事(高阪貴之,池邉一典)
がん患者の栄養治療のための口腔機能管理(光永幸代)
がん診療におけるチーム医療での栄養療法(今村博司,川瀬朋乃,新野直樹,野間俊樹,秦 真由美,久田真規子,井上文子,都築康子,足立ゆかり,大川知之)
高齢がん患者に対して管理栄養士がやるべきこと,できること(上島順子)
Part 4 がんの代謝栄養治療
がん治療とシンバイオティクス(朝原 崇)
がん悪液質に対する薬物療法(奥川喜永,北嶋貴仁,川村幹雄,大北喜基,大井正貴,問山裕二)
Part 5 がん周術期栄養管理
術前栄養管理の意義(佐川まさの)
術後栄養管理(術後食も含めて)(廣野靖夫)
早期栄養介入管理(石橋裕子,櫻井美夏子,前田恵理,菊池夏希,實方由美,鍋谷圭宏)
がん患者の術後早期回復のための栄養管理の意義(鍋谷圭宏,菊池夏希,前田恵理,金塚浩子,實方由美,高橋直樹,首藤潔彦)
摂食嚥下障害評価と食事選択(高橋直樹,金塚浩子,佐藤幸子,菊池夏希,前田恵理,鍋谷圭宏)
リハビリテーション栄養―サルコペニアとサルコペニア肥満への対策(大村健二,柴田昌幸)
術後の在宅での栄養治療(鷲澤尚宏)
Part 6 さまざまながん治療時の栄養管理
薬物療法の副作用とその治療―栄養障害の観点から(犬飼道雄)
薬物療法・放射線療法時の栄養指導の実際(森 ひろみ)
薬物療法・放射線治療時の栄養食事管理(古田 雅)
頭頸部癌の放射線治療と栄養管理(末廣 篤)
造血幹細胞移植時の栄養管理(庄野三友紀)
がん治療とONS(経口栄養補充)(宮崎安弘)
Part 7 がん緩和医療の栄養管理
進行がん患者の栄養摂取を障害する症状,および患者と家族の食に関する苦悩のケア(天野晃滋)
緩和医療(緩和ケア)における食事と栄養指導(川口美喜子)
食事摂取のための疼痛管理(田中俊行)
終末期の在宅栄養管理(児玉佳之)
Part 8 がん患者への栄養指導
がん患者への栄養指導の効果とポイント(松岡美緒,飯島正平)
各種がん患者に対する栄養指導と今後の課題
頭頸部癌(菊池夏希,櫻井美夏子,金塚浩子,前田恵理,越川直美,高橋直樹,鍋谷圭宏)
食道癌(前田恵理,櫻井美夏子,菊池夏希,金塚浩子,高橋直樹,鍋谷圭宏)
胃癌(佐藤由美)
大腸癌(斎野容子)
肝癌(関根里恵)
膵癌・胆道癌(伊藤圭子)
Part 1 がんと代謝栄養に関するTOPICS
がん患者の代謝栄養―理解しておきたい悪液質(森 直治)
がんとサルコペニア・サルコペニア肥満,フレイル(角谷裕之,杉本 研)
がんと糖尿病(大橋 健)
がん予防と栄養・食事(片桐諒子)
Part 2 がん患者の栄養評価
がん患者の栄養スクリーニングとアセスメント(GLIM基準を除く)(遠藤陽子)
がん患者におけるGLIM基準による低栄養評価とその利用(福島亮治)
栄養関連予後予測指標(小山 諭)
Part 3 がん予後向上をめざす栄養治療のTIPS
がん患者の口腔機能と栄養・食事(高阪貴之,池邉一典)
がん患者の栄養治療のための口腔機能管理(光永幸代)
がん診療におけるチーム医療での栄養療法(今村博司,川瀬朋乃,新野直樹,野間俊樹,秦 真由美,久田真規子,井上文子,都築康子,足立ゆかり,大川知之)
高齢がん患者に対して管理栄養士がやるべきこと,できること(上島順子)
Part 4 がんの代謝栄養治療
がん治療とシンバイオティクス(朝原 崇)
がん悪液質に対する薬物療法(奥川喜永,北嶋貴仁,川村幹雄,大北喜基,大井正貴,問山裕二)
Part 5 がん周術期栄養管理
術前栄養管理の意義(佐川まさの)
術後栄養管理(術後食も含めて)(廣野靖夫)
早期栄養介入管理(石橋裕子,櫻井美夏子,前田恵理,菊池夏希,實方由美,鍋谷圭宏)
がん患者の術後早期回復のための栄養管理の意義(鍋谷圭宏,菊池夏希,前田恵理,金塚浩子,實方由美,高橋直樹,首藤潔彦)
摂食嚥下障害評価と食事選択(高橋直樹,金塚浩子,佐藤幸子,菊池夏希,前田恵理,鍋谷圭宏)
リハビリテーション栄養―サルコペニアとサルコペニア肥満への対策(大村健二,柴田昌幸)
術後の在宅での栄養治療(鷲澤尚宏)
Part 6 さまざまながん治療時の栄養管理
薬物療法の副作用とその治療―栄養障害の観点から(犬飼道雄)
薬物療法・放射線療法時の栄養指導の実際(森 ひろみ)
薬物療法・放射線治療時の栄養食事管理(古田 雅)
頭頸部癌の放射線治療と栄養管理(末廣 篤)
造血幹細胞移植時の栄養管理(庄野三友紀)
がん治療とONS(経口栄養補充)(宮崎安弘)
Part 7 がん緩和医療の栄養管理
進行がん患者の栄養摂取を障害する症状,および患者と家族の食に関する苦悩のケア(天野晃滋)
緩和医療(緩和ケア)における食事と栄養指導(川口美喜子)
食事摂取のための疼痛管理(田中俊行)
終末期の在宅栄養管理(児玉佳之)
Part 8 がん患者への栄養指導
がん患者への栄養指導の効果とポイント(松岡美緒,飯島正平)
各種がん患者に対する栄養指導と今後の課題
頭頸部癌(菊池夏希,櫻井美夏子,金塚浩子,前田恵理,越川直美,高橋直樹,鍋谷圭宏)
食道癌(前田恵理,櫻井美夏子,菊池夏希,金塚浩子,高橋直樹,鍋谷圭宏)
胃癌(佐藤由美)
大腸癌(斎野容子)
肝癌(関根里恵)
膵癌・胆道癌(伊藤圭子)














