序文
今回の臨時増刊号は「病棟栄養士のためのベーシックセミナー 経腸栄養編」である.古くて新しいテーマについて,知識を亢進・整理していただきたい.
消化管は単に食物を消化・吸収する場ではなく,全身の免疫能にも関与することが明らかになっている.また,吸収された栄養素が門脈を経て肝臓に至る経路は生理的であり,代謝的にももっとも好ましいことに疑いの余地はない.したがって,消化管が機能しており,かつ安全に利用できる場合には消化管を利用するのが最良の栄養管理法である.しかし,消化管の機能を正しく評価し,それを利用することが安全であるか否かの判断は,実はかなりむずかしい.したがって,経腸栄養を施行する際,消化管の運動を正しく理解することはきわめて重要であるといえる.この特集は,消化管運動について正しく理解していただくことからはじまる.
病棟で経腸栄養が施行されている症例は,何らかの疾病に罹患している.疾病そのもの,あるいは疾病にともなう炎症などによって引き起こされる代謝異常の把握は大切である.また,消化管の切除術の既往を有する症例では,切除腸管の部位によって特定の栄養素の吸収障害をきたす.膵臓や胃の切除の既往を有する症例では,消化機能が低下している.消化機能の低下には消化酵素を補充する薬剤の投与で対処するが,必ずしも適切に補充されているとは限らない.手術から年月を経ている症例については,代謝・栄養障害が惹起されていないかを詳細に確認する必要がある.入院・加療の対象となった疾病にばかり注意するのではなく,患者の全身に気を配りたい.
重症症例や高度侵襲手術の周術期に施行する経腸栄養の有効性については,腸管を使用することの効果と特定の栄養素の効果を区別する必要がある.腸管を利用することの効果は,比較的少量の経腸栄養剤の投与で期待できる可能性が高い.一方,特定の栄養素の投与は,患者の状態によっては生体に不利益をもたらす可能性がある.経腸栄養を使いこなすには,さまざまな知識が必要である.
臨床の現場では,経腸栄養と静脈栄養を適切に使い分けることが求められている.そのためには,各々の長所と短所を熟知することが肝要である.さらに,経腸栄養の施行にともなって起こりうるトラブルの予防や合併症対策もきわめて重要である.
この特集号では,経腸栄養の要点を網羅すべく,各分野でわが国をリードする方々に執筆を依頼した.快く承諾いただいた先生方に心から感謝申し上げる.経腸栄養に関する正確な知識を身につけるためにも,本書を繰り返しお読みいただきたい.そして病棟でよく患者を診て,経験に裏付けられた知識が読者の方々の頭にしみ込むことを祈念する.
2017年9月
大村健二(上尾中央総合病院 外科・腫瘍内科)
今回の臨時増刊号は「病棟栄養士のためのベーシックセミナー 経腸栄養編」である.古くて新しいテーマについて,知識を亢進・整理していただきたい.
消化管は単に食物を消化・吸収する場ではなく,全身の免疫能にも関与することが明らかになっている.また,吸収された栄養素が門脈を経て肝臓に至る経路は生理的であり,代謝的にももっとも好ましいことに疑いの余地はない.したがって,消化管が機能しており,かつ安全に利用できる場合には消化管を利用するのが最良の栄養管理法である.しかし,消化管の機能を正しく評価し,それを利用することが安全であるか否かの判断は,実はかなりむずかしい.したがって,経腸栄養を施行する際,消化管の運動を正しく理解することはきわめて重要であるといえる.この特集は,消化管運動について正しく理解していただくことからはじまる.
病棟で経腸栄養が施行されている症例は,何らかの疾病に罹患している.疾病そのもの,あるいは疾病にともなう炎症などによって引き起こされる代謝異常の把握は大切である.また,消化管の切除術の既往を有する症例では,切除腸管の部位によって特定の栄養素の吸収障害をきたす.膵臓や胃の切除の既往を有する症例では,消化機能が低下している.消化機能の低下には消化酵素を補充する薬剤の投与で対処するが,必ずしも適切に補充されているとは限らない.手術から年月を経ている症例については,代謝・栄養障害が惹起されていないかを詳細に確認する必要がある.入院・加療の対象となった疾病にばかり注意するのではなく,患者の全身に気を配りたい.
重症症例や高度侵襲手術の周術期に施行する経腸栄養の有効性については,腸管を使用することの効果と特定の栄養素の効果を区別する必要がある.腸管を利用することの効果は,比較的少量の経腸栄養剤の投与で期待できる可能性が高い.一方,特定の栄養素の投与は,患者の状態によっては生体に不利益をもたらす可能性がある.経腸栄養を使いこなすには,さまざまな知識が必要である.
臨床の現場では,経腸栄養と静脈栄養を適切に使い分けることが求められている.そのためには,各々の長所と短所を熟知することが肝要である.さらに,経腸栄養の施行にともなって起こりうるトラブルの予防や合併症対策もきわめて重要である.
この特集号では,経腸栄養の要点を網羅すべく,各分野でわが国をリードする方々に執筆を依頼した.快く承諾いただいた先生方に心から感謝申し上げる.経腸栄養に関する正確な知識を身につけるためにも,本書を繰り返しお読みいただきたい.そして病棟でよく患者を診て,経験に裏付けられた知識が読者の方々の頭にしみ込むことを祈念する.
2017年9月
大村健二(上尾中央総合病院 外科・腫瘍内科)
序文(大村健二)
1. 経腸栄養の基礎
経腸栄養の施行に必要な消化管運動に関する知識(持木彫人・他)
栄養素の消化・吸収(中屋 豊)
栄養素の代謝:糖質(宇佐美 眞・三好真琴)
栄養素の代謝:たんぱく質,アミノ酸(三輪孝士・山東勤弥)
栄養素の代謝:脂質(朝川貴博・他)
微量栄養素:ビタミン,微量元素(湧上 聖)
経腸栄養と消化管免疫(土居二人・他)
栄養投与経路の選択と経腸栄養(丸山道生)
経腸栄養剤の種類と選択(丸山道生)
経腸栄養の合併症とその対策(佐々木雅也・西村さゆみ)
経管経腸栄養法の選択と手技(NGT・PEG・PTEG など)(大石英人)
胃瘻の管理,合併症とその対策(小川滋彦)
Topics 内視鏡下胃瘻造設術周術期を取り巻く問題(水野英彰)
空腸瘻造設術と空腸瘻栄養(大谷 順)
在宅経腸栄養の実際Q&A(武内有城)
Topics 地域包括ケアのなかの栄養管理(岡田晋吾)
2. 経腸栄養の応用
早期経腸栄養法(西口幸雄)
Immunonutrition(福島亮治)
胃瘻からの半固形化栄養材短時間注入法(半固形化法)の有用性と導入の実際−経口摂取をめざすために(合田文則)
経腸栄養とbacterial translocation(櫻井洋一)
経口補水療法−とくに小児の経口補水療法(金子一成)
術後回復促進策における術前経口補水療法の理論と実際(谷口英喜・他)
3. 疾患・病態別の経腸栄養
炎症性腸疾患に対する経腸栄養(山本隆行・他)
重症急性膵炎に対する経腸栄養(大島 拓)
慢性腎臓病に対する経腸栄養(M田康弘)
肝疾患に対する経腸栄養(齋藤正紀)
糖尿病に対する経腸栄養(宮澤 靖)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する栄養療法(郡 隆之)
食道癌の周術期管理と経腸栄養(亀井 尚)
膵癌の周術期栄養管理と経腸栄養(土師誠二)
敗血症に対する経腸栄養(柳 明男・他)
褥瘡に対する経腸栄養(田村佳奈美)
神経性やせ症に対する経腸栄養(眞次康弘・他)
4. ライフステージ別栄養管理
低出生体重児に対する経腸栄養( 知光)
小児に対する経腸栄養(深堀 優)
高齢者に対する経腸栄養(野上哲史)
Topics 診療報酬改定と栄養管理(飯島正平)
Topics 歯科医師と歯科衛生士のNST への参加がもたらしたもの(藤本篤士)
1. 経腸栄養の基礎
経腸栄養の施行に必要な消化管運動に関する知識(持木彫人・他)
栄養素の消化・吸収(中屋 豊)
栄養素の代謝:糖質(宇佐美 眞・三好真琴)
栄養素の代謝:たんぱく質,アミノ酸(三輪孝士・山東勤弥)
栄養素の代謝:脂質(朝川貴博・他)
微量栄養素:ビタミン,微量元素(湧上 聖)
経腸栄養と消化管免疫(土居二人・他)
栄養投与経路の選択と経腸栄養(丸山道生)
経腸栄養剤の種類と選択(丸山道生)
経腸栄養の合併症とその対策(佐々木雅也・西村さゆみ)
経管経腸栄養法の選択と手技(NGT・PEG・PTEG など)(大石英人)
胃瘻の管理,合併症とその対策(小川滋彦)
Topics 内視鏡下胃瘻造設術周術期を取り巻く問題(水野英彰)
空腸瘻造設術と空腸瘻栄養(大谷 順)
在宅経腸栄養の実際Q&A(武内有城)
Topics 地域包括ケアのなかの栄養管理(岡田晋吾)
2. 経腸栄養の応用
早期経腸栄養法(西口幸雄)
Immunonutrition(福島亮治)
胃瘻からの半固形化栄養材短時間注入法(半固形化法)の有用性と導入の実際−経口摂取をめざすために(合田文則)
経腸栄養とbacterial translocation(櫻井洋一)
経口補水療法−とくに小児の経口補水療法(金子一成)
術後回復促進策における術前経口補水療法の理論と実際(谷口英喜・他)
3. 疾患・病態別の経腸栄養
炎症性腸疾患に対する経腸栄養(山本隆行・他)
重症急性膵炎に対する経腸栄養(大島 拓)
慢性腎臓病に対する経腸栄養(M田康弘)
肝疾患に対する経腸栄養(齋藤正紀)
糖尿病に対する経腸栄養(宮澤 靖)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する栄養療法(郡 隆之)
食道癌の周術期管理と経腸栄養(亀井 尚)
膵癌の周術期栄養管理と経腸栄養(土師誠二)
敗血症に対する経腸栄養(柳 明男・他)
褥瘡に対する経腸栄養(田村佳奈美)
神経性やせ症に対する経腸栄養(眞次康弘・他)
4. ライフステージ別栄養管理
低出生体重児に対する経腸栄養( 知光)
小児に対する経腸栄養(深堀 優)
高齢者に対する経腸栄養(野上哲史)
Topics 診療報酬改定と栄養管理(飯島正平)
Topics 歯科医師と歯科衛生士のNST への参加がもたらしたもの(藤本篤士)