やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 近年,臨床栄養に関する研究,教育,業務は著しい進歩を遂げた.
 私が栄養学の基礎教育を受けたころは,臨床栄養学は「特殊栄養学」の一部であり,各ライフステージ別に栄養の特徴を学ぶ一部として病人の栄養の特徴を学んだ.つまり,病人という特殊事情のある場合の栄養のあり方を少しばかり学んだのであり,栄養学のなかではさほど重要な部門ではなかった.しかし,医学・医療の進歩は著しく,各疾病が栄養素の摂取,消化,吸収,代謝に及ぼす影響を明らかにされると同時に,どのような食事や栄養補給が病態と栄養状態を改善するのに有効かも解明してきた.栄養改善の方法は,食事と経腸・静脈栄養という栄養補給の観点から総合的に検討されるようになった.しかも,その方法が,従来のような経験や習慣によるものではなく,科学的エビデンスに基づいた栄養食事療法として確立されつつある.
 一方,疾病の治療においては,薬物療法と手術が中心となることには変わりはないが,このような治療法がいかに進歩したとしても,栄養補給は不可欠であり,どのような状況においても栄養食事療法との併用が必要となり,栄養状態が悪化すれば薬効や手術の効果が低下することがわかり,両者の相互関係も解明されつつある.
 このように,総合的な栄養管理が進歩する一方で,このことを日常臨床の場で確実に実践する専門職の養成や実施する体制や組織,さらに運営方法が課題となってきた.とくに,臨床栄養管理・指導の中心的役割を担う管理栄養士の教育,研修,業務等に関しては大きな変革がなされ,多くの議論が起こっている.医療がますます高度化,多様化するなかで,医師の知識のみの判断や技術だけでは対応できず,高い専門性をもつメディカルスタッフが連携しつつ,適切に補完し合うことが不可欠となり,チーム医療の推進は必須となっている.効果的なチーム医療を推進するには,どうすればよいのか,そのなかでの管理栄養士の役割はなにか,などの検討も始まっている.
 進歩する臨床栄養の業務と研究を進めるカギを握るのが,臨床現場の管理栄養士と他職種,さらに大学スタッフとの連携である.データが排出できる臨床現場のスタッフと研究技法を修得している教員が手を組めば,研究は活発になり,業務を合理化,活発化することができる.研究の積み重ねは,専門性を高める科学的エビデンスにもなる.今回の「臨床栄養臨時増刊号」では,変革期にある2012年に起きた臨床栄養とその周辺にある事項を,各分野のオピニオンリーダーである6名にトピックスとして整理していただき,それぞれの項目の第一人者に執筆をお願いした.臨床栄養に関する最近の動向がこの一冊で理解できるので,多くの人々が一読されることを希望する.
 2012年9月
 中村丁次 神奈川県立保健福祉大学
 まえがき(中村丁次)

Part-1 教育・制度・資格
 栄養と食に関する倫理(中村丁次)
 これからの管理栄養士と国家試験の時期(中村丁次)
 管理栄養士教育における災害支援・ボランティア活動(須藤紀子)
 医学部医学科における栄養学の教育(折茂英生)
 健康日本21 と新たな健康づくり運動(河野美穂)
 新しい栄養サポートチーム加算の意義(伊藤彰博・東口高志)
 日本静脈経腸栄養学会認定資格「栄養サポートチーム(NST)専門療法士」(岩佐正人)
 日本肥満学会認定生活習慣病改善指導士のめざすもの(宮崎 滋)
 「がん栄養専門師」および「がんプロ養成プログラム」(中屋 豊)

Part-2 臨床栄養学
 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 年版を中心とした食事療法(多田紀夫)
 急性呼吸不全による人工呼吸患者の栄養管理ガイドライン(佐藤格夫・他)
 がん悪液質とガイドライン(森 直治・東口高志)
 半固形化栄養材の現状とコンセンサス(飯島正平)
 食物アレルギー診療ガイドライン2012(宇理須厚雄)
 重症患者のインスリン療法−過去10 年にわたる論争の真相と最新の知見(寺島秀夫)
 経口補水療法を用いた水・電解質管理(谷口英喜)
 生活習慣改善によるがん予防法の開発研究−経過報告(笹月 静)
 サルコペニアとリハビリテーション栄養(若林秀隆)
 炎症性腸疾患の栄養指導−最近の知見(斎藤恵子)
 精神栄養学−とくにうつ病との関連について(功刀 浩)
 EPA とレゾルビン(社本智也・他)
 ビタミンD による脂質代謝調節(槇島 誠)
 アスタキサンチンによる糖脂質代謝調節と動脈硬化(岸本良美・他)
 慢性腎臓病とクロトー遺伝子−老化抑制の可能性(草野英二)
 地域NST の現状−地域における食支援(五島朋幸)
 世界各国の流動食・術後食(丸山道生)
 わが国のNST の変遷(鷲澤尚宏)

Part-3 その他
 緊急災害時における管理栄養士の役割(迫 和子)
 フードサービスにおける東日本大震災の体験(佐々木ルリ子)
 大規模病院の厨房における震災対策(工藤幸紀)
 看取りと食(大井 玄)