やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集によせて
 茨城県立こども病院小児外科
 雨海照祥 Amagai Teruyosbi

 ニューミレニアムが開けて5年が過ぎた.この西暦二千年台の千年王国の像を光と影で描き出すことは,もちろん不可能である.それならば,せめて現時点のニュー・フロンティアからみた「栄養療法(サポート)」の水平線を登る太陽の光の色を,いまもっとも大切と思われるそれぞれの視点からご紹介いただき,いまを照らしていただきたい,との願いから今回の特集が組まれたと理解した.
 今回はとくに海外からも2本の論文のご寄稿をいただいた.1本は米国,もう1本はわれわれの住むアジアのタイからの論文である.米国からの1本は,ピッツバーグ大学メディカルセンターのLaura(ローラ)さん.クリーブランドから臓器移植王国ピッツバーグに移り,経腸栄養の中心臓器である小腸機能の不全に対する,世界の小腸リハビリテーションの最先端をご披露頂いたLauraさんの労作に,小腸移植の未来と現実を実感できた.感謝申し上げる.アジア静脈経腸栄養学会(PENSA)理事長のChantrasakul(チャントラサクール)先生には,人類史上初の静脈栄養の登場から経腸栄養の現在までの俯瞰を無謀にもお願いしたが,期待どおり見事成功されている.もちろんわが国からの論文についても,私以外のものはどれも力作ばかりである.各著者の方がたには心より感謝申し上げる.
 楽しむこと,笑うことが,治療効果を上げるエビデンスを出せること,多方面からの報告が相次いでいる.アメリカの精神科医アダムスが,体の病と同時にやってくるもう一つの心の病を笑いで治そう(Patch(パッチ))と自らパッチ・アダムスに扮してはじめた運動が余波を生み,漸く日本でも本職のクリニ・クラウン(Clinic(臨床現場での)-Crown(道化師)からの造語)が活躍をはじめた.やがて絶大な効果が出てくるに違いない.栄養療法の医療効果(アウトカム)も同じであると信じている.楽しい栄養,笑って受ける栄養療法の効果は絶大.栄養療法,受ける側も提供する側も,心の底から笑って楽しんでこそ,その効果を勝ちとれる.このニューミレニアム,あるいはニューセンチュリー,ニューディケイドで,笑いとしあわせのなかの栄養療法の出現を夢見ている.
 産業革命が地球の人口を爆発的に増加させたという.近未来,あるいは極近未来,この地球が千年王国生存のためのパラダイムシフトを駆使して生き残り,食糧危機が解決され,核の驚異は消滅し,幾多の悲劇をすべてクリアしたシナリオを,私たち一人ひとりが創りあげていく.今回の論文群が新たな栄養療法を描きあげる絶好の契機になればと願っている.
特集によせて 雨海照祥
Part-1 栄養療法の現況
 栄養療法の今後 大柳治正
 医療制度改革・介護保険制度改正と栄養療法 中村丁次
 NSTの今後−日本栄養療法推進協議会発足をふまえて 東口高志・他
 栄養療法とガイドライン 畠山勝義
 医師のための栄養教育プログラムTNTの有効性と今後の展開 井上善文
 エビデンスに基づいた栄養サポートの意義と問題点 雨海照祥・他
 トピックス 栄養士に必要な視診・触診とは 守屋貴代
 小児の栄養障害の評価と介入法 雨海照祥・他
Part-2 経腸栄養
 栄養と免疫の深い関係 安保 徹
 免疫栄養と敗血症・重症感染症 篠澤洋太郎
 免疫経腸栄養剤の使い方 深柄和彦・他
 重症患者への経腸栄養使用−タイにおける栄養サポートの歴史をふり返って Chomchark Chantrasakul
 半固形化栄養剤(食品)による胃瘻からの短時間注入法 合田文則
 褥瘡予防・治療と経腸栄養 志越 顕・他
 トピックス 経腸栄養剤におけるMCTの意義 竹内弘幸・他
 経腸栄養法のアウトカム−判定基準の提言 桜井洋一・他
Part-3 静脈栄養
 静脈栄養法のリスクマネジメント 井上善文
 ICUにおける血糖管理の経済効果 中村卓郎
 新生児のTPNと肝機能障害予防のための脂肪乳剤の意義 大下正晃・他
 TPN関連肝障害に対する小腸単独・肝小腸同時移植 長谷川利路・他
 小腸不全患者の包括的ケア Laura Matarese・他
Part-4 Evidence 2005
 たんぱく質の至適量−慢性腎不全でPEMを有する高齢者の場合 松永智仁・他
 小児TPN時のビタミン投与量 山内 健
 PEG−その有効性と今後 遠藤昌夫
 中心静脈カテーテル(CVC)刺入部位の消毒−誰がどれくらいの頻度で行うべきか 大村健二
 脳性麻痺患者の栄養療法のエビデンス 雨海照祥・他
Part-5 Controversy 2005
 急性膵炎の栄養療法
 −静脈栄養(PN)使用の立場から 内藤 浩
 −早期EN経腸栄養(EN)使用の立場から 淀縄 聡・他
 敗血症における脂肪乳剤
 −Yesの立場から 林 永規
 −Noの立場から 佐野 渉