序
本書は病院や診療所のみならず,医療に関連したすべての職場の臨床工学技士と,それを目指して学んでいる学生諸君に,もっとも信頼できる好著となったものと自信をもってお勧めする.お読みになればわかるように,執筆者が心血を注いで工夫してくださった詳細かつ理解しやすい解説は特筆ものである.もちろん,臨床工学技士のみならず,医師や看護師あるいは各種医療機器開発に取り組んでいる多くの研究者や学生諸君にもわかりやすいよいテキストとなったものと確信する.
さて医療関係者たるもの,日本の医療を守るために,経済を含む社会的基礎知識をもっておこう.わが国の医療水準は,すでにWHOがWorld Health Report 2000や同2003,同2009などで,あるいはOECDが毎年のHealth Dataで高く評価しているように,先進国のなかでも最高レベルの成果を達成しており,平均寿命や周産期死亡率は世界最高を更新し続けている.
しかも医療費はOECD平均値(GDP比で8.9%)よりもずっと低い8.1%で,30カ国中22位であり,アメリカの16%はさておき,日本と並んで高い評価を受けるフランスの11%と比してもあまりにも安い.1人当たりの医療費についても同様だ.さらに,日本人は外来診察頻度が欧米諸国の2倍ないし数倍も多く,入院期間も長いので,同じ医療行為あたりの医療費はきわて低廉である.
本川裕氏の「社会実情データ」(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1900.html)から,「医療費と高齢化率」のグラフをみると,医療費の伸びも諸外国と比べると著しく抑制されている.今は安くても,今後の医療費の伸びが産業の国際競争力を削ぐのが心配だから抑制すべきだ,という意見は,現実を無視していると同時に,高福祉ながらも国際競争力を最高度に保つ諸外国の現状をみると説得力をもたない.
安くてよい成果を上げている日本の医療ならばそれでよいではないか,と考える方も多かろうが,安すぎる医療費がサービス提供側に過剰な無理を強いている.職員にはサービス残業がまかり通り,勤務医の激務と集団退職・過労死問題を招き,医療機関のME機器は更新もままならず,これらは都市部も含めて地域医療の破綻に直結している.
行きすぎた医療費抑制の状態では,臨床工学技士がいくら養成されても,医療機関が臨床工学技士を適切に雇用できるわけもない.実際には,高度細分化が進む医療現場からは,最先端医療機器とその熟達した維持管理者が強く待ち望まれている.このニーズとシーズを正しく循環させなければならない.
本来,右肩下がりの少子高齢化する先進成熟国家において,もっとも強い実需があるのは医療と福祉であり,この領域は産業としても大きな成長を期待できる.多くの雇用創出効果と同時に,医用生体工学領域のME機器産業がその重要な柱であることはいうまでもない.
残念なことに,30年間続く行きすぎた医療費抑制政策のために,医療機関が新規医療機器の購入と更新に適切なコストを投入できず,ドル減らしのための大学病院などでの外国製医療機器購入の強制がダブルパンチとなって,わが国の医療機器メーカーの経営状況は惨憺たる状況に陥ってしまった.
さらに,医薬と同じ法的土俵での新ME技術の許認可には現場との不整合な部分があり,遅くかつ煩雑であるため,日本発の新しい医療機器を臨床現場に出す際のボトルネックとなって,この領域の三つ目の大きな障害となっている.
医療と医療機器周辺ビジネスは,無駄にならない内需としての性格も強いことを理解しよう.日本の公的医療保険は,亡国の制度ではなく,日本のあらゆる産業の輸出競争力を強力に下支えしているきわめて賢明な制度であることも知っていただきたい.混合診療という策を講じることなく,先進医療機器による最高の治療を速やかに公的医療保険に導入することは,すべての国民にほとんど負担を強いることなく実現できる安心な内需拡大政策であることは,数字を元に試算すればすぐにわかることでもある.
国家の維持と成長には摩擦なき輸出をも可能とする基幹産業が必要だ.幸い日本には,世界最高の素材・部品を廉価に供給し少量多品種にも対応できる,ME産業に最適の高い製造技術があり,確かな物流網と世界一安いIP網がある.現在は国力に比し衰退しているといわざるをえない日本のME産業ではあるが,覇権を目指さぬわが国は,最先端医療機器産業を重要な基軸に据えるべきだ.
こういう社会的基礎知識が医療関係者に少なかったために,これまで医療費は安ければ安いほどよい,という一部の経済界やマスコミの主張を唯々諾々と受け入れてしまっていた.その結果が医療崩壊の危機である.せめてここに挙げた程度の常識はもっておきたい.
最後に,多忙な職務のなかで原稿を完成していただいた執筆者の先生方と,それを支援してくださった教科書編集委員会の先生方には,あらためて深く御礼を申し上げたい.また,この分野の先立つ諸先輩方の幾多の好著があったからこそ,この完成されたテキストがある.日本の医療機器・生体医工学分野の研究と,臨床現場の安全と教育を支えてこられた多くの先達にも深甚なる御礼を申し上げるものである.
2010年2月
石原 謙
本書は病院や診療所のみならず,医療に関連したすべての職場の臨床工学技士と,それを目指して学んでいる学生諸君に,もっとも信頼できる好著となったものと自信をもってお勧めする.お読みになればわかるように,執筆者が心血を注いで工夫してくださった詳細かつ理解しやすい解説は特筆ものである.もちろん,臨床工学技士のみならず,医師や看護師あるいは各種医療機器開発に取り組んでいる多くの研究者や学生諸君にもわかりやすいよいテキストとなったものと確信する.
さて医療関係者たるもの,日本の医療を守るために,経済を含む社会的基礎知識をもっておこう.わが国の医療水準は,すでにWHOがWorld Health Report 2000や同2003,同2009などで,あるいはOECDが毎年のHealth Dataで高く評価しているように,先進国のなかでも最高レベルの成果を達成しており,平均寿命や周産期死亡率は世界最高を更新し続けている.
しかも医療費はOECD平均値(GDP比で8.9%)よりもずっと低い8.1%で,30カ国中22位であり,アメリカの16%はさておき,日本と並んで高い評価を受けるフランスの11%と比してもあまりにも安い.1人当たりの医療費についても同様だ.さらに,日本人は外来診察頻度が欧米諸国の2倍ないし数倍も多く,入院期間も長いので,同じ医療行為あたりの医療費はきわて低廉である.
本川裕氏の「社会実情データ」(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1900.html)から,「医療費と高齢化率」のグラフをみると,医療費の伸びも諸外国と比べると著しく抑制されている.今は安くても,今後の医療費の伸びが産業の国際競争力を削ぐのが心配だから抑制すべきだ,という意見は,現実を無視していると同時に,高福祉ながらも国際競争力を最高度に保つ諸外国の現状をみると説得力をもたない.
安くてよい成果を上げている日本の医療ならばそれでよいではないか,と考える方も多かろうが,安すぎる医療費がサービス提供側に過剰な無理を強いている.職員にはサービス残業がまかり通り,勤務医の激務と集団退職・過労死問題を招き,医療機関のME機器は更新もままならず,これらは都市部も含めて地域医療の破綻に直結している.
行きすぎた医療費抑制の状態では,臨床工学技士がいくら養成されても,医療機関が臨床工学技士を適切に雇用できるわけもない.実際には,高度細分化が進む医療現場からは,最先端医療機器とその熟達した維持管理者が強く待ち望まれている.このニーズとシーズを正しく循環させなければならない.
本来,右肩下がりの少子高齢化する先進成熟国家において,もっとも強い実需があるのは医療と福祉であり,この領域は産業としても大きな成長を期待できる.多くの雇用創出効果と同時に,医用生体工学領域のME機器産業がその重要な柱であることはいうまでもない.
残念なことに,30年間続く行きすぎた医療費抑制政策のために,医療機関が新規医療機器の購入と更新に適切なコストを投入できず,ドル減らしのための大学病院などでの外国製医療機器購入の強制がダブルパンチとなって,わが国の医療機器メーカーの経営状況は惨憺たる状況に陥ってしまった.
さらに,医薬と同じ法的土俵での新ME技術の許認可には現場との不整合な部分があり,遅くかつ煩雑であるため,日本発の新しい医療機器を臨床現場に出す際のボトルネックとなって,この領域の三つ目の大きな障害となっている.
医療と医療機器周辺ビジネスは,無駄にならない内需としての性格も強いことを理解しよう.日本の公的医療保険は,亡国の制度ではなく,日本のあらゆる産業の輸出競争力を強力に下支えしているきわめて賢明な制度であることも知っていただきたい.混合診療という策を講じることなく,先進医療機器による最高の治療を速やかに公的医療保険に導入することは,すべての国民にほとんど負担を強いることなく実現できる安心な内需拡大政策であることは,数字を元に試算すればすぐにわかることでもある.
国家の維持と成長には摩擦なき輸出をも可能とする基幹産業が必要だ.幸い日本には,世界最高の素材・部品を廉価に供給し少量多品種にも対応できる,ME産業に最適の高い製造技術があり,確かな物流網と世界一安いIP網がある.現在は国力に比し衰退しているといわざるをえない日本のME産業ではあるが,覇権を目指さぬわが国は,最先端医療機器産業を重要な基軸に据えるべきだ.
こういう社会的基礎知識が医療関係者に少なかったために,これまで医療費は安ければ安いほどよい,という一部の経済界やマスコミの主張を唯々諾々と受け入れてしまっていた.その結果が医療崩壊の危機である.せめてここに挙げた程度の常識はもっておきたい.
最後に,多忙な職務のなかで原稿を完成していただいた執筆者の先生方と,それを支援してくださった教科書編集委員会の先生方には,あらためて深く御礼を申し上げたい.また,この分野の先立つ諸先輩方の幾多の好著があったからこそ,この完成されたテキストがある.日本の医療機器・生体医工学分野の研究と,臨床現場の安全と教育を支えてこられた多くの先達にも深甚なる御礼を申し上げるものである.
2010年2月
石原 謙
「臨床工学講座」の刊行にあたって
序
第1章 生体計測の基礎
1 計測論
1 単位と標準
2 信号と雑音
3 雑音の種類
4 計測誤差
2 生体情報の計測
1 生体信号とは
2 生体計測の特徴
3 生体信号計測装置の基本的構成
4 ノイズ対策と信号処理
第2章 生体電気・磁気計測
1 心臓循環器計測
1 心電図の医学的基礎
2 心電図の工学的基礎
3 その他の心電計
4 心磁図
2 脳・神経系の計測
1 脳波の計測
2 大脳誘発電位の計測
3 脳磁図
4 筋電図の計測
第3章 生体の物理・化学現象の計測
1 血圧・血流の計測
1 観血式血圧計
2 非観血式血圧計
3 血流計
4 心拍出量計
2 呼吸の計測
1 呼吸機能の計測
2 呼吸計測装置
3 呼吸モニタ
3 ガス分析計測
1 血液ガスの計測
4 体温計測
1 電子体温計
2 深部体温計
3 サーモグラフ
4 耳用赤外線体温計
第4章 画像診断法
1 超音波画像計測
1 医用超音波の基礎
2 超音波検査法の種類
3 Bモード法における超音波ビームの走査法
4 超音波診断装置の構成
5 超音波Bモード像の画質
6 超音波検査法の最新技術
7 超音波の安全性
8 超音波治療法
2 X線による画像計測
1 放射線と医学
2 X線発生回路
3 アナログX線写真
4 デジタルX線写真
5 デジタルサブトラクションアンギオグラフィ(DSA)
6 X線CTの概念
7 X線CT装置の基礎知識
8 CTを使った主な撮影法
9 X線CTのアーチファクト
10 手術への応用
11 X線CT撮影の留意点
12 X線CT装置の保守
3 ラジオアイソトープ(RI)による画像計測
1 ガンマカメラ
2 SPECT
3 PET
4 核磁気共鳴画像計測
1 MRI装置
2 MRIの原理
3 MRIの撮影技法
4 MRI装置の構造
5 安全のための知識
6 患者にとっての危険
7 MRI装置の日常点検
8 術中MRI
5 内視鏡
1 内視鏡の構造的分類
2 消化管内視鏡の開発の歴史
第5章 検体検査
1 自動分析化学検査装置
1 自動分析化学検査装置の目的
2 装置の構造
3 装置の構成
4 装置の測定原理
5 安全対策
6 トラブルシューティング
2 自動血液検査装置
1 自動血液検査装置の目的
2 装置の構成
3 装置の測定原理
4 安全対策
5 トラブルシューティング
付録
1 平成19年版 臨床工学技士国家試験出題基準(生体計測装置学)
索引
序
第1章 生体計測の基礎
1 計測論
1 単位と標準
2 信号と雑音
3 雑音の種類
4 計測誤差
2 生体情報の計測
1 生体信号とは
2 生体計測の特徴
3 生体信号計測装置の基本的構成
4 ノイズ対策と信号処理
第2章 生体電気・磁気計測
1 心臓循環器計測
1 心電図の医学的基礎
2 心電図の工学的基礎
3 その他の心電計
4 心磁図
2 脳・神経系の計測
1 脳波の計測
2 大脳誘発電位の計測
3 脳磁図
4 筋電図の計測
第3章 生体の物理・化学現象の計測
1 血圧・血流の計測
1 観血式血圧計
2 非観血式血圧計
3 血流計
4 心拍出量計
2 呼吸の計測
1 呼吸機能の計測
2 呼吸計測装置
3 呼吸モニタ
3 ガス分析計測
1 血液ガスの計測
4 体温計測
1 電子体温計
2 深部体温計
3 サーモグラフ
4 耳用赤外線体温計
第4章 画像診断法
1 超音波画像計測
1 医用超音波の基礎
2 超音波検査法の種類
3 Bモード法における超音波ビームの走査法
4 超音波診断装置の構成
5 超音波Bモード像の画質
6 超音波検査法の最新技術
7 超音波の安全性
8 超音波治療法
2 X線による画像計測
1 放射線と医学
2 X線発生回路
3 アナログX線写真
4 デジタルX線写真
5 デジタルサブトラクションアンギオグラフィ(DSA)
6 X線CTの概念
7 X線CT装置の基礎知識
8 CTを使った主な撮影法
9 X線CTのアーチファクト
10 手術への応用
11 X線CT撮影の留意点
12 X線CT装置の保守
3 ラジオアイソトープ(RI)による画像計測
1 ガンマカメラ
2 SPECT
3 PET
4 核磁気共鳴画像計測
1 MRI装置
2 MRIの原理
3 MRIの撮影技法
4 MRI装置の構造
5 安全のための知識
6 患者にとっての危険
7 MRI装置の日常点検
8 術中MRI
5 内視鏡
1 内視鏡の構造的分類
2 消化管内視鏡の開発の歴史
第5章 検体検査
1 自動分析化学検査装置
1 自動分析化学検査装置の目的
2 装置の構造
3 装置の構成
4 装置の測定原理
5 安全対策
6 トラブルシューティング
2 自動血液検査装置
1 自動血液検査装置の目的
2 装置の構成
3 装置の測定原理
4 安全対策
5 トラブルシューティング
付録
1 平成19年版 臨床工学技士国家試験出題基準(生体計測装置学)
索引








