やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦のことば
 多くの臨床医に親しまれてきた「外来医マニュアル」が,今回6年ぶりに改訂されて,新たに第5版として世に出されることとなった.
 外来診療のマニュアル本は他にも多々あるが,本書の特徴は,何と言ってもコンパクトで持ち歩きができる点にある.今回の改訂で新規項目がいくつか加えられたが,「白衣のポケットに入れて持ち歩ける大きさ」という当初の編集姿勢は頑として守られ,調べたいときにすぐに見ることができる.また,ページの余白に設けられたユニークなメモ欄もそのまま維持されており,書き込みを入れることにより,自分だけのオリジナルマニュアルを創りあげることができる.
 第1章 総論編,第2章 症候編,第3章 健診・検査異常への対応編,第4章 疾患編,第5章 小児編,第6章 資料編との構成は基本的に変わっていないが,私が以前から特に気に入っているのは第1章の総論編である.外来初診患者診療の心得から始まり,高齢者診療,女性診療,医療連携,慢性疾患の管理,精神科への紹介,予防接種,緩和ケア,在宅・往診・訪問診療,社会福祉制度・社会資源など,私たちが毎日外来で行っている多様な問題への対応の原則が明快に記されている.
 今回はこの総論編に,コロナ禍を経て「外来における感染対策」(及び第4章 疾患編に「COVID-19罹患後症状」)が加えられ,超高齢社会への対応として「ACP」が加えられた.多忙な診療の中,我流となりがちな場面の対処に関しても,ここに立ち返ることにより,自らの診療姿勢を正しく保つことができる.
 今回の改訂では,全項目に対して一通りの見直しが図られたが,特筆すべきは260項目を超える全体の膨大な項目のうち,60以上の項目で執筆者を入れ替え,内容の一新を図ったことである.前版の内容も秀逸であったが,慢性心不全や糖尿病に対する治療薬の選択など,日進月歩の勢いで進化する医学医療の実際に合わせ,最新のエビデンスに基づき,記載が新たに書き換えられた.
 メインとなる第4章と第5章の疾患編と小児編の基本的な構成は変わらないが,前版から踏襲されているこの本の最大の特徴は,その疾患の領域の専門医ではないプライマリ・ケアの現場の医師が現場で何を行うべきかが,明確に記載されていることである.必ず行うべきTo do list,鑑別疾患と対応,専門医へのコンサルトの適切なタイミング,フォローアップの外来での注意など,必要十分な情報がコンパクトにまとめられ,多彩な症候や多種の疾患に対応すべきプライマリ・ケアの外来において,極めて実践的なマニュアルとなっている.
 外来の机の上のブックスタンドに立てても良し,白衣のポケットの中に忍ばせても良し,必要な時にすぐに取り出し,書き込みを自在に加えて,自分だけのオリジナルなマニュアルとして,ボロボロになるまで可愛がっていただきたい.そうすることにより,この一冊は,間違えなくあなたのかけがえのない心強いパートナーとなるであろう.
 2024年6月
 大阪医科薬科大学総合診療医学教室
 鈴木富雄


第5版の序
 本書の前身である「プライマリケアマニュアル」が,外来診療におけるcommon diseaseへの実践的な対応にフォーカスして「当直医マニュアル」の姉妹版として発行されたのが1990年です.その後,2004年には新しい医師臨床研修制度が導入され,この分野は医師の必須条件として認知が進んできました.それに合わせ本書も2005年より「外来医マニュアル」としてリニューアルし,今版で第5版を迎えることとなりました.
 今回は6年ぶりの改訂にあたり,前版までの白衣のポケットに入るサイズ,可能なかぎりエビデンスに基づいた情報の記載,視認性の追求,研修制度に沿った項目設定の柱は踏襲したうえで,この間の医療情勢をふまえた項目の新設などを行いました.
 おもな改訂の要点は以下のとおりです.
 (1)第1章の総論編では超高齢化社会を背景に,最期まで患者本人の尊厳を尊重した生き方ができるよう,適切な医療・ケアが行われることを目的に「人生会議」を持つことは外来医の大きな役割の一つと考え,「ACP(Advance Care Planning)」の項目を新設いたしました.また,世界的流行となった新型コロナウイルス感染症の教訓を経て「外来における感染症対策」の項目も新設いたしました.
 (2)第4章の疾患編では最近話題になっており,対応が難しい「COVID-19罹患後症状(long COVID)」についての項目を新設いたしました.また,治療は専門医ですが初期の診断に関わったりする可能性のある「造血器腫瘍」の項目を新設し外来医に必要な知識をコンパクトにまとめました.
 (3)一般外来で行うべき初期検査,専門医への紹介のタイミング,一般外来でのフォローのポイントを今版でも分かりやすく簡潔にまとめ,キャッチフレーズにもあるように,このマニュアルが一般外来医と「専門医とのかけ橋」になり,スムーズな医療連携が日常診療の一助となればと考え本書を編集いたしました.
 多忙な外来診療の合間に本書を手に取っていただき,知りたい情報がすぐ分かるよう,章立てや各項目の見出し,図表などを工夫しました.常時携帯していただきご活用いただければ幸甚です.皆様からのご意見ご批判をいただき,さらに役立つマニュアルへと改訂を重ねて参りたいと思います.
 最後に出版に尽力頂きました医歯薬出版株式会社に深く感謝いたします.
 2024年6月
 編集代表 加藤なつ江(太田協立診療所)


『プライマリケアマニュアル』から『外来医マニュアル』への序
 新しい臨床研修制度が始まり,プライマリケアに対する意識が高まっています.プライマリケアは救急救命処置とcommon diseaseの管理の2本柱からなりますが,これらの能力は当直診療と外来診療を通じて飛躍的に高まるとされています.現在の卒後臨床研修においては,病棟での研修が中心となっていますが,先進的な研修病院では,当直や外来の研修にも力を入れています.私たちは,1988年に当直診療や急性疾患診療に対応した『当直医マニュアル』を,1990年に外来診療や慢性疾患診療に対応した『プライマリケアマニュアル』を出版し,以来改訂を重ねてきました.お陰様で多くの読者の支持を得ることができました.ここに感謝の意を表します.当直診療や外来診療に幅広く対応した医学書が少なかった中で,診療科を超えて幅広さを追求できたことと,白衣のポケットに入るコンパクトなサイズであったことが評価されたようです.
 『プライマリケアマニュアル』は外来診療で役立つようにと書かれたものですが,姉妹編『当直医マニュアル』とセットで使用することを想定していましたので,重複を避けるために,急性疾患のいくつかが項目から外されました.当初は,プライマリケアという言葉が新鮮味をもっていたため,プライマリケアの現場における外来診療のためのマニュアルという意味で,『プライマリケアマニュアル』と名づけたのですが,プライマリケアという言葉が多くの人々に使われるようになった現在,この書名と内容がそぐわないものとなってきた感があります.そこで,急性疾患についても外来診療で頻度の高いものは項目に加えるなど,大幅に増項目,増頁(30%強)するとともに,目的をより明確化するために,『外来医マニュアル』の名称で新たに出版することになりました.
 本書は外来診療において遭遇する頻度の高い疾患,病態に対して,診療科を超えて幅広く対応できるマニュアルを目指しました.構成は総論編,症候編,検査・健診編,疾患編,資料編の5部からなっています.臨床研修制度で求められる経験目標を可及的に網羅しました.また,外来診療において遭遇する機会の多い健診結果異常への対応も可能なように工夫しました.執筆者はプライマリケア,総合診療,家庭医療といったフィールドで働く第一線の医師たちです.実践ですぐに役立つ内容に富んだものに仕上がったのではないかと自負しております.常時携帯してご活用頂ければ幸いです.また,ご意見,ご批判を頂き,さらに役立つマニュアルへと育てていければと思っております.
 最後に,推薦の言葉をお書き頂いた吉田 修(奈良医大学長)先生,出版にご尽力くださった医歯薬出版株式会社に深く感謝申し上げます.
 2005年9月
 編者一同
第1章 総論編
  外来初診患者診療の心得
  ACP(Advance Care Planning)
  外来における感染対策
  高齢者診療の心得
  女性診療の心得
  妊娠中・授乳中の注意
  医療連携―紹介するとき・されるとき
  精神科への紹介の仕方
  メディカル・インタビュー
  インフォームド・コンセント
  診療ガイドライン総論
  慢性疾患の管理
  運動療法と運動処方指導
  禁煙指導・禁煙外来
  予防接種
  クリニカル・オンコロジー
  緩和ケア
  在宅・往診・訪問診療
  要介護者のマネジメント
  介護保険制度
  社会福祉制度・社会資源
第2章 症候編
  全身倦怠感
  発熱
  食思不振
  体重減少・体重増加
  浮腫(リンパ浮腫も含む)
  リンパ節腫脹
  黄疸
  掻痒感
  発疹
  出血傾向・紫斑
  潮紅
  発汗過剰・寝汗
  頭痛
  頸部痛
  咽頭痛
  めまい
  動悸
  意識障害
  失神
  ショック
  けいれん発作
  不随意運動
  四肢脱力
  歩行障害
  四肢のしびれ
  嚥下困難
  味覚障害
  嗄声
  呼吸困難・息切れ
  チアノーゼ
  胸痛
  咳・痰
  喀血・吐血
  腹部膨満
  腹痛
  胸焼け
  悪心・嘔吐
  下血・血便
  便通異常(下痢・便秘)
  尿量異常
  排尿障害
  血尿
  腰背部痛
  関節痛
  認知機能障害
  睡眠障害
  幻覚
  不安・抑うつ
  無月経
  結膜充血
  視力障害・視野狭窄・複視
  鼻汁
  鼻出血
  聴覚障害
第3章 健診・検査異常への対応
  検査・健診の見方(含・特定健診)
 <検体検査>
  血算(CBC)
  肝機能
  腎機能・尿検査異常
  血糖・尿糖(HbA1c含む)
  脂質(TG,HDL-C,LDL-C)
  尿酸
  ペプシノゲン
  高ガンマグロブリン血症
  腫瘍マーカー
  便潜血
  肝炎ウイルス検査
  HIV検査
  梅毒検査
 <生理機能検査>
  血圧
  心電図
  呼吸機能検査
 <画像検査>
  胸部Xp/CT
  腹部エコー
  心エコー図
  上部消化管検査
  頭部MRI・MRA
第4章 疾患編
 循環器疾患
  高血圧
  不整脈
  虚血性心疾患
  慢性心不全
  弁膜症
  心筋疾患
  胸・腹部大動脈瘤
  末梢動脈疾患(PAD)
  下肢静脈瘤
 呼吸器疾患
  かぜ症候群・急性気管支炎
  インフルエンザ
  市中肺炎(CAP)
  医療・介護関連肺炎(NHCAP)
  呼吸不全
  胸水・胸膜炎
  肺結核(Tb)
  非結核性抗酸菌症
  慢性咳嗽(咳喘息・アトピー性咳嗽)
  気管支喘息(BA)
  慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  びまん性肺疾患
  気管支拡張症
  肺癌
  睡眠時無呼吸症候群(SAS)
  COVID-19罹患後症状(long COVID)
 消化器疾患
  胃食道逆流症(GERD)
  食道癌
  慢性胃炎
  消化性潰瘍
  ヘリコバクター・ピロリ除菌療法
  機能性ディスペプシア
  胃癌
  胃切除後症侯群
  感染性胃腸炎
  虚血性腸炎
  特発性炎症性腸疾患(IBD)
  過敏性腸症侯群(IBS)
  腸閉塞(イレウス)
  大腸憩室
  大腸ポリープ
  大腸癌
  痔疾患
  人工肛門患者の管理
  急性肝炎
  慢性肝炎
  アルコール性肝障害
  MASLD・MASH
  薬物性肝障害
  肝硬変
  肝腫瘤性病変・肝癌
  胆石症
  胆嚢ポリープ
  胆嚢癌・胆管癌
  慢性膵炎
  膵腫瘍
 神経・精神疾患
  頭痛
  顔面神経麻痺(Bell麻痺)
  パーキンソン病・パーキンソン症侯群
  慢性期脳血管障害の管理
  認知症
  過労・疲労
  睡眠障害
  身体症状症(身体表現性障害)
  パニック障害
  うつ病
  アルコール依存症
 内分泌・代謝疾患
  糖尿病(DM)
  脂質異常症
  痛風・高尿酸血症
  甲状腺機能亢進症
  甲状腺機能低下症
  甲状腺腫
  メタボリック・シンドローム
  肥満
 膠原病とその類縁疾患
  関節リウマチ
  膠原病
 腎・泌尿器疾患
  CKD(慢性腎臓病)
  糸球体疾患
  ネフローゼ症候群
  尿路結石症
  尿路感染症・男性性器感染症
  下部尿路機能障害(排尿障害と蓄尿障害)
  泌尿器癌(腎,膀胱,前立腺)
  性行為感染症(STI)
 血液疾患
  貧血
  赤血球増加症(多血症)
  白血球減少
  白血球増多
  血小板減少症
  血小板増多症
  汎血球減少
  造血器腫瘍
 女性疾患
  女性診療の心得
  妊娠中・授乳中の注意
  異所性妊娠(子宮外妊娠)
  腟炎
  子宮頸管炎
  骨盤内炎症性疾患(PID)
  機能性月経困難症
  子宮内膜症
  更年期障害
  子宮筋腫
  子宮頸癌
  子宮体癌
  卵巣癌
  乳がん
  骨盤臓器脱
 運動器疾患
  頸椎症
  肩関節周囲炎(五十肩)
  急性腰痛/筋・筋膜性腰痛
  腰部脊柱管狭窄症
  変形性膝関節症
  骨粗鬆症
  ロコモティブ・シンドローム
 眼・耳鼻咽喉・皮膚疾患
  白内障
  緑内障
  耳鳴
  アレルギー性鼻炎・結膜炎
  鼻副鼻腔炎
  蕁麻疹
  湿疹
  あせも
  口内炎
  ざ瘡
  軟部組織感染症
  白癬・カンジタ症
  口唇ヘルペス
  帯状疱疹
  薬疹
  熱傷・化学熱傷・日焼け
  凍瘡(しもやけ)
  褥瘡
  皮膚がん
第5章 小児編
  小児診療の心得
  発熱
  咳嗽
  胸痛
  腹痛
  下痢
  嘔吐
  発疹・伝染性疾患
  かぜ症候群
  反復性耳下腺炎,扁桃炎
  クループ症侯群・急性喉頭蓋炎
  急性細気管支炎・肺炎
  気管支喘息(BA)
  川崎病(MCLS)
  熱性けいれん・てんかん
  IgA血管炎(アレルギー性紫斑病)
  免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)
  尿路感染症
  溶連菌感染後 急性(糸球体)腎炎
  ネフローゼ症侯群
  鼠径ヘルニア
  停留精巣
  皮膚疾患
  アトピー性皮膚炎
  食物アレルギー
  学校検尿異常所見者の扱い
  子どもの心臓病
  起立性調節障害(OD)
  小児の心身症
  よくある相談(ソフトサイン他)
第6章 資料編
  薬物血中濃度
  抗凝固療法(経口薬)
  ステロイド(経口薬)
  皮膚外用薬の使い方
  薬物相互作用
  経口抗菌薬の選択
  主要な経口抗菌薬
  届出が必要な感染症
  細菌学的検査
  感染症に関する各種迅速診断法
  腎不全に対する薬物投与
  症候から疑う薬剤副作用

 事項索引
 薬剤索引

 ミニコラム一覧
  たばこの種類について
  外科手術や全身状態の悪化に伴い絶食を要する時(パーキンソン病・パーキンソン症候群)
  無症候性脳梗塞に対して抗血小板療法は必要か?
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