やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

ご挨拶
 このたび本書『患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック』をお届けすることができ,大変光栄に思います.
 乳房再建は,乳がん治療の重要な一環であり,多くの方々にとって新たな始まりを意味します.本書は,乳房再建を考える皆様への道標となることを目指し,最新の医学知識と豊富な臨床経験をもとに編集されました.
 本書のなかでは,乳房再建の各手法について詳細に解説しています.また,治療選択に当たってのご家族の方を含めた心の持ちようにも触れています.患者さん一人ひとりの状況に合わせた選択ができるよう,情報をわかりやすくご提供することを心掛けております.
 本ガイドブックが,皆様の乳房再建をお考えになる際の伴侶となり,ご家族や支援者の方々にとっても,理解と共感の手引きとなれば幸いです.
 最後に,本書の編集に尽力してくださった編集委員の皆様,そして本書の完成に向けてご協力いただいたすべての関係者に深く感謝申し上げます.
 皆様の健やかな未来への一歩を,心より応援しております.
 2024年7月
 一般社団法人 日本形成外科学会 理事長
 貴志和生


はじめに
 日本形成外科学会は,2015年から形成外科診療ガイドラインを作成して参りました.その中の23部門の一つに「乳房再建」があります.一方,『乳癌診療ガイドライン』は,2011年に初版が発刊されると,翌年には『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』が発刊され,現在第5版目(2023年版)が公開されています.数年前から形成外科でも,患者さん向けの診療ガイドブックを作成しようとの機運が上がって参りました.その中で特に患者さんに直接多くのメッセージを届ける必要があると認識されている「乳房再建」と「リンパ浮腫」が選ばれ,本書が生まれました.
 唐突ですが,千葉敦子さんのことをご存じでしょうか?彼女の強い生きざまに感動したことを今でもよく覚えています.彼女は30数年前に『乳ガンなんかに敗けられない』を執筆され,情報の乏しいなかで最後まで再発した乳がんと戦われました.しかし,今はまったく状況が異なります.多くの情報がネットやSNSにあふれています.それらの情報は,一方的な意見や間違って理解された事例も少なくありません.本ガイドブックは,患者さんからの素朴な疑問に対して,乳房再建を専門とする日本の形成外科医が中心となり,科学的な証拠に基づいて作成されています.さらに科学的な証拠だけでなく,生活面や社会面に関して精神的に寄り添ってコラムが追加されています.是非,ご一読いただければ幸いです.
 本書の執筆とイラスト作成に真摯に取り組んでいただいたガイドブックの班長・班員の皆様,評価委員の先生方,また外部よりご協力いただいた患者会代表者,乳腺外科医,放射線科医,ブレストケアナース,そして最後までタクトを振り続けていただいた佐武利彦先生に心から深謝申し上げます.さらに出版のイロハからお教えいただいた医歯薬出版株式会社の方々に感謝致します.
 最後に,本ガイドラインが「乳房再建」という希望の扉を開く一助となることを心より願っております.
 2024年7月
 日本形成外科学会 ガイドライン委員会 委員長
 鳥山和宏


本ガイドブック発刊に際して
 本書『患者さんとご家族のための乳房再建ガイドブック(初版)』を,新たに皆様にお届けできることを,とてもうれしく思います.本書は2年以上の歳月をかけて完成しました.作成委員会として班長・班員46名,作成協力者として患者会2名,ブレストケアナース2名,乳腺外科医1名,放射線科医1名と総勢50名を超える多くの方々に参加していただきました.本書は評価委員,日本形成外科学会関係者による校閲後に,さらに日本乳癌学会,日本医学放射線学会,日本放射線腫瘍学会,日本乳がん看護研究会にも評価いただきました.ご協力いただきました皆様すべてに感謝いたします.
 乳房再建を専門とする形成外科医が中心となり,「乳房再建を考える乳がん患者さんのために役立つガイドブック」を新たに作成したいとの思いを長年温めておりました.診療ガイドライン委員長・鳥山和宏先生,前委員長・橋本一郎先生,担当理事・武田 啓先生からの強い後押しがあり,『乳房再建診療ガイドライン2021年版』を作成したメンバーが中心となり,2020年4月に本プロジェクトがスタートしました.
 本書は,まず外来診療や患者会などで「患者さんからいただいたご質問300」を分類整理し,PQ(Patient Question)とそれに対する回答A(Answer)を載せ,わかりやすく解説しました.また,「Shared Decision Making(SDM)」,「乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)」,「セクシュアリティ」などトピックス的な内容についてはコラムで詳しく取り上げました.一方で,乳房再建についてはじめて知る,学びたい患者さんやご家族のために,各章の冒頭に基礎事項をわかりやすくまとめたアウトラインを記載しました.さらに専門的な内容について知りたい患者さん向けに『乳房再建診療ガイドライン2021年版(日本形成外科学会編)』も参照できるようにしました.是非とも乳房再建を受ける際のガイドとして本書をご活用いただければ幸いです.
 乳がん患者さんが乳房再建により本来のご自身を取り戻され,心身ともに健やかな日常を過ごせるようにと願っています.患者さん,ご家族が元気でいてくださることが私たちの喜びでもあります.
 最後に,終始にわたり本ガイドブック作成に多大なご助力をいただきました医歯薬出版の稲尾史朗さん,加藤申命さんに心より感謝申し上げます.
 2024年7月
 日本形成外科学会 診療ガイドライン委員会
 乳房再建ガイドブック統括委員長
 佐武利彦
 ご挨拶
 はじめに
 本ガイドブック発刊に際して
 『患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック初版』作成委員一覧
 本書の活用法
乳房再建の実際
1章 乳房再建とは
 アウトライン 乳房再建
2章 乳がん治療と乳房再建
 PQ1 乳がんの進行状況によって再建法は異なりますか?
 PQ2 放射線治療は乳房再建にどのような影響がありますか?
 PQ3 抗がん剤やホルモン療法は乳房再建に影響を与えますか?
 PQ4 乳房の形や大きさによって再建法は変わりますか?
 PQ5 両側乳がんで再建する場合,片側の再建に比べて,異なることや気をつけることがありますか?
 PQ6 遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)では,通常の片側乳がん切除後の再建とは,どのような点が違うのでしょうか?
 PQ7 乳房部分切除術後はどのような再建法が適していますか?
 PQ8 乳房再建にはどのような合併症がありますか?
 PQ9 再建後の回復に必要な期間はどのくらいですか?
 PQ10 乳房再建後の痛みについて教えてください.
 PQ11 再建した乳房の感覚は戻りますか?
 PQ12 再建した乳房の検査は必要でしょうか?
 PQ13 妊娠・出産は乳房再建にどのように影響しますか?
 PQ14 どの医療施設でも同じ再建手術が受けられますか?
3章 インプラント再建
 アウトライン 乳房インプラントによる再建
 PQ15 乳房インプラントを用いた再建の流れについて教えて下さい.
 PQ16 基礎疾患や既往歴がある場合でも,インプラント再建はできますか?
 PQ17 エキスパンダーや乳房インプラントの合併症について教えてください.
 PQ18 インプラント再建の放射線治療の影響について教えてください.
 PQ19 エキスパンダー挿入術とはどのようなものか教えてください.
 PQ20 エキスパンダーを入れておく期間や,注入回数について教えてください.
 PQ21 エキスパンダーを入れています.日常生活でどのようなことに気をつけるとよいでしょうか?
 PQ22 エキスパンダーを入れた後の違和感や他の症状について教えてください.
 PQ23 乳房インプラントの選択はどのようにして決めますか?
 PQ24 乳房インプラントへの交換手術について教えてください.
 PQ25 乳房インプラントできれいな乳房をつくるために,どのような方法がありますか?
 PQ26 乳房インプラントを入れた後の違和感や他の症状について教えてください.
 PQ27 乳房インプラントへの入れ替え手術後の生活で気をつけることはありますか?
 PQ28 乳房インプラントの検診と将来の交換について教えてください.
 PQ29 人工物再建後に気になる箇所があります.修正手術は可能ですか?
 PQ30 インプラント再建で乳房形態を維持するためにすべきことや下着の選び方について教えてください.
4章 自家組織再建
 アウトライン 自家組織再建
 PQ31 腹部において筋皮弁と穿通枝皮弁との比較やメリット,デメリットについて教えてください.
 PQ32 自家組織再建後のキズあとの見え方について教えてください.
 PQ33 インプラント再建後に自家組織再建に変更できますか?
 PQ34 腹部に手術のキズあとがあっても腹部皮弁での再建はできますか? また,避ける場合はどのような選択肢がありますか?
 PQ35 今後妊娠を希望する場合でも腹部皮弁での再建はできますか?
 PQ36 広背筋皮弁の術後経過について教えてください.
 PQ37 大腿部(太もも),殿部(おしり)や腰部を使った再建について教えてください.
 PQ38 自家組織再建の手術のすぐ後にやってはいけないことを教えてください.
 PQ39 自家組織再建の術後に長い目で見て気をつけること,後遺症はありますか?
 PQ40 自家組織再建後,仕事復帰はいつ頃可能ですか?
 PQ41 自家組織再建乳房の左右差や採った場所のキズあとの修正手術は可能ですか?
 PQ42 乳房形態を維持するために積極的にすべきことはありますか? また,再建後の下着はどのように選んだらよいですか?
 PQ43 自家組織再建後,反対側に乳がんができたら再建はどうなりますか?
 PQ44 自家組織再建後はいつまで診察を受けたほうがよいですか?
5章 脂肪注入
 アウトライン 脂肪注入
 PQ45 脂肪注入のメリットやデメリットについて教えてください.
 PQ46 脂肪注入はどのような患者さんが適応になりますか?
 PQ47 脂肪注入の術後はどのような点に注意したらよいですか?
6章 乳頭乳輪再建
 アウトライン 乳頭乳輪再建
 PQ48 乳頭乳輪再建はいつからできますか?どのような患者さんに向いていますか?
 PQ49 乳頭乳輪の再建方法と適応,メリット・デメリットについて教えてください.
 PQ50 乳頭乳輪再建の術後について教えてください.

 コラム
  Shared Decision Making(SDM)とは
  根治性と整容性の両立を目指すOPBS
  乳房再建とセクシュアリティ
  乳房再建もチーム医療! 医療スタッフの役割
  BIA-ALCL(乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫)
  放射線治療後の皮膚について考える
  術後のキズあとケア
  脂肪組織由来幹細胞
 付録
  乳房再建の費用
  巻末Q&A
 あとがき
 索引