やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 2022年から生殖補助医療が保険診療の対象となりました.この保険診療には体外受精などの各技術に対する保険点数が設定されましたが,実際にこれらの作業を担当しているのはエンブリオロジストです.そのため,今後はエンブリオロジストの存在が非常に注目を集めることが予想されます.
 日本臨床エンブリオロジスト学会は,1996年にエンブリオロジストの有志によって設立され,研究会を経て現在の学会として成立しました.現在でも学会の役員は全員が現役のエンブリオロジストであり,臨床現場で活動しています.日本臨床エンブリオロジスト学会では,年に夏と冬の2回,ワークショップを開催しており,これが名物となっています.このワークショップでは,学会の理事を含む経験豊富なエンブリオロジストから直接技術指導を受けることができます.毎年多くの参加者が集まります.特に冬のワークショップは学術大会と同時開催されるため,各講師の資料が抄録集に掲載されます.この抄録集は実技の手引書として非常に評判が良く,学会として出版することが提案され,本書の作成に至りました.
 近年,医療現場では技術の標準化が重要視されています.これは,医療分野のさまざまな技術やプロセスを一貫性のある基準に基づいて統一することを指します.現在,体外受精施設では独自の方法で胚培養を行っているところもあり,現時点ではエビデンスに基づいた医療(EBM)に基づいて体外受精技術の標準化を行うことは非常に困難です.しかし,将来的に体外受精技術の標準化が行われる際には,本書がその礎となることを期待しています.
 また,本書では体外受精を行うラボ内で必要な顕微鏡,マニピュレーター,インキュベーター,マイクロピペッターなどのメンテナンスについて,各社に協力を依頼し執筆していただきました.体外受精において,これらの機器は重要な要素であり,結果に大きく影響する可能性があります.したがって,各機器の日常的なメンテナンスはエンブリオロジストの仕事の一部と言えます.しかし,機器のメンテナンスについて知識が不足しているエンブリオロジストは多いのではないかと思われます.そのため,この本を通じて日々のメンテナンスの重要性を理解し,正しい操作で作業してもらいたいと考えています.
 本書の刊行にあたり,多忙な中執筆していただいた多くのエンブリオロジストの先生方に感謝申し上げます.また本書の出版に際し,日常の業務が忙しいなか編集に携わっていただいたエンブリオロジストの先生方,特に編集副主幹の菊地裕幸先生と日本臨床エンブリオロジスト学会理事長の家田祥子先生に感謝申し上げます.最後に本書の企画から出版まで,多大なるご協力を頂いた医歯薬出版の皆さまに感謝申し上げます.
 編集主幹 上野 智
Part 1 ラボワークの標準手順
 Section 1 精液検査
  1 精液検体の採取
  2 標準化法
  3 検査結果の扱い
  4 マクラーチャンバー法
  5 その他の検査法
  6 精度管理
  7 精液調整─良好ヒト精子の選別─
  8 精液の輸送
  9 精巣精子の回収と凍結
 Section 2 採卵・検卵
  1 採卵
  2 検卵
  3 準備
  4 方法
  5 トラブルシューティング
  6 指導方法
 Section 3 体外受精(c-IVF)
  1 c-IVFの適応
  2 準備
  3 方法
  4 受精確認
  5 トラブルシューティング
 Section 4 顕微授精(ICSI)
  1 ICSIの適応
  2 卵子の裸化
  3 Conventional ICSI(c-ICSI)
  4 PIEZO-ICSI
  5 強拡大顕微鏡による形態良好精子の選別
  6 精子の生理的特徴を用いた精子選別
 Section 5 卵子の人為的活性化
  1 準備・方法
  2 その他の卵子活性化法
 Section 6 胚の体外培養
  1 培養液の種類
  2 トラブルシューティング
  3 体外成熟培養(IVM)
  4 トラブルシューティング
 Section 7 胚の評価方法
  1 分割期胚の評価方法
  2 胚の発生動態による評価
  3 胚盤胞の評価方法
 Section 8 胚移植
  1 準備
  2 方法
  3 トラブルシューティング
 Section 9 卵子,胚凍結(急速凍結法)
  1 Cryotop法
  2 Rapid-i
  3 Vit Kit-NX
 Section 10 PGTにおける胚生検とチュービング
  1 適応
  2 準備・方法
  3 補足&トラブルシューティング
 Section 11 アシステッドハッチング(AHA)
  1 適応
  2 準備・方法
  3 トラブルシューティング
 Section 12 患者・検体の取り違え防止
  1 ヒューマンエラー
  2 患者取り違え防止システムの基本
  3 取り違え防止システムの運用方法
Part 2 ラボワークの管理
 Section 1 ARTラボ管理
  1 培養室の位置
  2 培養室内環境
  3 機器の配置
  4 液体窒素管理
  5 ラボの日常管理
  6 災害対策
 Section 2-1 倒立・実体・顕微鏡の調整方法とメンテナンス─エビデント社製─
  1 倒立顕微鏡の眼幅調整
  2 倒立顕微鏡の視度調整
  3 対物レンズの補正環調整
  4 倒立顕微鏡の光軸調整
  5 倒立顕微鏡のレリーフコントラスト光学調整
  6 実体顕微鏡のコントラスト調整
  7 実体顕微鏡のズーム同焦調整
  8 正立顕微鏡のコントラスト調整
  9 トラブルシューティング
 Section 2-2 倒立・実体・顕微鏡の調整方法とメンテナンス─ニコン社製─
  1 メンテンナンスに必要な道具
  2 レンズの拭き方の手順
  3 倒立顕微鏡の調整(眼幅調整・視度調整・補正環のチェック)と使い方
  4 実体顕微鏡の調整(斜光照明の調整)
  5 正立顕微鏡の調(光軸調整)
 Section 3 マニピュレーター,インジェクターの日々のメンテナンス─ナリシゲ社製─
  1 マニピュレーション機器の構成
  2 マニピュレーターのメンテナンス
  3 インジェクターのメンテナンス(空圧式)
  4 角度調整方法
  5 光軸に対しての設置位置調整方法
 Section 4 各種インキュベーターのメンテナンス,日常のお手入れ─アステック社製─
  1 インキュベーターの定期点検,考え方
  2 インキュベーターの日常点検,考え方
  3 インキュベーターのお手入れ,消毒,清掃方法
  4 よくある質問とその対処法
 Section 5 マイクロピペットのメンテナンス方法─エッペンドルフ社製─
  1 マイクロピペットのクリーニング方法
  2 オートクレーブ
  3 リークチェック(液漏れの確認)

 索引