やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 医療・ケアの現場では,倫理的問題が日常的に生じています.そこで働く人々は,治療の不開始・中止のように社会において広く取り上げられたものだけではなく,重症疾患の告知や身体拘束など,倫理をめぐるさまざまな問題に直面しているのです.こうした問題の解決に臨床倫理の知識が必要であるという認識は,すでに日本でも広く受け入れられてきました.そのため,倫理的問題に悩んだ医療・ケア従事者が参考にできる書籍も,ケースブックをはじめ,数多く出版されています.
 しかし,医療・ケアの現場で生じる倫理の問題は,それぞれ個別性が強く,型どおりに解決することが困難な場合が少なくありません.そのような場合に助けとなるのが,第三者の立場から,対話を通じて関係者による問題解決を支援する活動,すなわち倫理コンサルテーションです.この活動はアメリカで生まれたものですが,すでに日本でも一定数の病院において導入され,いくつかのガイドラインにおいてその必要性や重要性が指摘されてきました.
 それでは,どのように倫理コンサルテーションを導入すればよいのでしょうか.さらには,どのようにコンサルテーションを実践し,改善していけばよいのでしょうか.本書『倫理コンサルテーションハンドブック』は,これらの疑問に答えることを目的に,現場において倫理コンサルテーションを実践してきた医師および看護師と,医療の問題に取り組んできた法律家および倫理学者によって執筆されました.
 各章は,コンサルテーションの導入を考えている医療・ケア従事者が,病院の責任者や現場の医療・ケアスタッフの協力のもと,倫理コンサルテーションの導入・実施・評価を行えるように配慮した構成となっています.先行する海外の取り組みを参考にしながらも,日本の医療現場における経験や社会的状況を基本に書かれており,日本において倫理コンサルテーションを本格的に実施するために必要な知識を網羅したハンドブックとなっています.
 日本における倫理コンサルテーションの試みは,まだ始まったばかりです.そのため,本書で述べられていることの中には,今後改訂されるべきものも含まれているでしょう.本書を踏まえた実践のなかで問題と感じることがあれば,その問題点をぜひお知らせ下さい.本書を通じて,倫理コンサルテーションが広まると同時に,より望ましい倫理コンサルテーションのあり方をめぐる議論が活性化することを,私たちは願っています.
 2019 年3 月
 執筆者一同
1章 倫理コンサルテーションの基礎
 (1) 倫理とは何か
 (2) 生命・医療倫理の4 原則
 (3) コンサルテーションにおいて扱われる倫理的問題とは何か
 (4) 倫理的問題の解決にとってコンサルテーションはなぜ重要か
 (5) 倫理コンサルテーションの普及
 (6) 倫理コンサルテーションと法
2章 倫理コンサルテーションの設置
 (1) コンサルテーションのモデル
 (2) 倫理コンサルタントとして必要な知識・スキル・態度
 (3) 導入に必要な環境
 (4) 導入の具体的なステップ
3章 倫理コンサルテーションの進め方
 (1) 倫理コンサルテーションのアプローチ
 (2) 依頼の受付
 (3) 依頼の振り分け
 (4) 依頼直後の情報収集
 (5) コンサルテーション・ミーティング開催の判断
 (6) コンサルテーション・ミーティングの進め方
 (7) 検討結果の扱い
4章 倫理コンサルテーションの評価
 (1) 評価はなぜ重要なのか
 (2) 評価の種類
 (3) 評価基準の設定と評価の方法
5章 倫理コンサルテーションと関係した活動
 (1) 院内指針の作成・検討
 (2) 教育
6章 病院外の活動
 (1) 病院を超えたネットワーク
 (2) 院外倫理コンサルテーション
7章 参考資料
 (1) 判例
 (2) ガイドライン・指針
 (3) 書籍
 (4) 映像(DVD)教材
 (5) インターネット

 付録

 BOX & コラム一覧
  第1章
   BOX 1 二つの倫理コンサルテーション
   BOX 2 日本医療機能評価機構の評価項目における倫理コンサルテーション
   BOX 3 さまざまなガイドラインにみられる倫理コンサルテーション
   BOX 4 臨床倫理委員会と倫理コンサルテーション
   BOX 5 法体系とは
   COLUMN 価値を含んだ言葉にご用心
  第2章
   BOX 1 倫理コンサルテーション反対論
   BOX 2 組織における倫理コンサルテーションの位置づけ
   BOX 3 倫理コンサルテーション導入のフローチャート
   BOX 4 倫理コンサルテーション運営規則に入れるべき項目
   COLUMN 看護師の声を阻む壁?
  第3章
   BOX 1 依頼受付のさいに最低限必要な情報
   BOX 2 匿名の依頼
   BOX 3 臨床倫理委員会で扱うことが適切な問題の例
   BOX 4 意見を聞くべき「患者の関係者」とはだれか
   BOX 5 4 分割表を用いた情報整理
   BOX 6 主要な倫理的アプローチ法
   BOX 7 依頼者へ検討結果を通知する文書へ記載すべき事項
   COLUMN 何のためのカンファレンス?
   COLUMN 苦情の背後に倫理あり!?
  第4章
   BOX 1 倫理コンサルテーション実施記録に記載すべき事項
   BOX 2 依頼者の満足度を測るための質問項目
   BOX 3 評価をめぐる今後の課題
   COLUMN ミーティング参加者が発言しないのは感受性に欠けるから?
  第5章
   BOX 1 院内指針でとりあげられる可能性のあるテーマ
   BOX 2 指針を周知する方法
   BOX 3 勉強会で取りあげるトピック
   BOX 4 資格の認定・更新と医療倫理
   COLUMN 行政のガイドラインと学会のガイドライン,どちらを参考にすればいいの?
  第6章
   COLUMN 院外倫理コンサルテーションを行う場合の個人情報
  第7章
   COLUMN 判例はどのように調べるの?