やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者まえがき
 近年,救急診療における画像診断は,単純X線だけでなく,CTやMRI,超音波検査など多種多様なものがある.しかしながら,これら全ての質の高い検査ができる施設は限られている.優先すべき検査として,今なお単純X線撮影は重要であり,その正確な読影は救急に携わる全ての医師にとって必要不可欠な知識である.読影にあたっては正常解剖を理解し,正常像がどのように見えるのかを把握していないと,異常像を見つけることは困難である.
 本書は,まず,正常解剖から始まり,X線の画像分析(撮影法や実際の解剖まで)を解説し,最後に実際の異常所見について論じられている.異常所見には,よくみられる外傷,まれではあるが重要な外傷など要点が絞られ,画像診断のポイントだけなく,多くの画像を提示されているので,実にわかりやすく,日々の臨床に役立つものばかりである.
 原著は,1995 年に第1 版が発行され,その質の高い内容が非常に高く評価され,2005 年には第2 版が発行された.そして2014 年に第3 版が発行されことに伴い,今回,われわれの監修のもと満を持して邦訳版が出版される運びとなった.本書は,全ての初期研修医にとって必需品になるであろうし,ぜひ救急診療に携わる前に熟読してほしい.また専門医,指導医にとっては,知識の整理に活用してほしい.
 整形外科医や放射線科医だけでなく,救急に携わる全ての医師が,ぜひ本書を熟読して明日からの救急診療に役立てていただきたい.
 2017 年1 月
 順天堂大学医学部整形外科学 教授
 金子 和夫

序文
 本書は,整形外科医向けの放射線医学の書籍ではない.救急部門で撮影された単純X線写真を正確に評価する助けとなることを目的として執筆された書籍である.2005 年に第2 版を発行して以来,著者らが行っている多数の教育コースからのフィードバックに加え,当院の救急部門で働くスタッフから多くの意見をいただいた.また,今日の放射線科研修医が単純X線写真の読影技術を必要としていることも認識している.そこで新たに,撮影された明確な画像を利用することにより,正常な骨格解剖を具体的に提示することに重点を置くことにした.本書では,日常的によくみられる損傷とそうでない損傷とを区別している.何よりもまず,本書の第一の目的にこだわった.その目的とは,救急部門でX線画像を読影し,「これらの画像は一見すると正常に見えるが,これらの画像を論理的かつ系統的な方法でチェックするにはどうすればよいのか」といった疑問を抱くすべての医療従事者の助けとなることである.
 旧版については,救急部門の医師,救急のナースプラクティショナー ,放射線科の研修医,検査結果を報告するX線技師,遠隔地で診療を行っている一般開業医などから役に立つとの評価をいただいている.第3 版では本文の内容,解剖学的な詳細事項,デザイン,レイアウトなどを改善したが,救急外来で単純X線写真の読影や報告,その正確な解釈を必要とするすべての医療従事者にとって,旧版と同様に役立つことを望んでいる.
 Nigel Raby,Laurence Berman,Simon Morley,Gerald de Lacey
 2014 年1 月

謝辞
 以下にあげる皆さんには,多大な感謝を述べなければならない.皆さんがいなければ,この第3 版の完成はなしえなかったと思われる.Claire Wanless氏には,新たなデザインを作成していただき,彼女が作成した編集方針は見事で,間違いなくかけがえのないものであった.Philip Wilson氏には,各章の重要な部分である秀逸な図を描いていただいた.Jeremy Weldon氏は,Northwick Park Hospitalの上級X線技師で,具体例の提示において助力をいただき,穿通性異物と異物誤嚥については実際の作業を行っていただいた.Denis Remedios医師は,Northwick Park Hospitalの上級放射線科医で,独創的な提案を数多く提供していただいた.Michael Houston氏は,Elsevier社の上級委任編集者で,この第3 版を発行する機会を作っていただき,著者らを激励し支援していただいた.
 また,著者らの教育コース(www.radiology-courses.comおよびwww.xraysurvivalguide.org)に参加していただき,建設的なフィードバックを通して,すべての章で多くの面(大きな面でも小さな面でも)を充実するよう励ましていただいた,医師,X線技師,放射線科研修医など,ここでは名をあげられない皆さんにも感謝を申し上げる.
 「これこそが科学の本質である:
 不適切な質問をすることを恐れてはならない ,適切な答えに向かう途中なのだから.
 (That is the essence of science:
 ask an impertinent question and you are on the way to a pertinent answer)」
 J.Bronowski,The Ascent of Man,1973.
 監訳者のまえがき
 監訳者・訳者一覧
 序文
1 重要な原則
 X線撮影の基礎/ 損傷の説明
2 小児患者における特別な考慮点
 小児の骨は別物である/ 骨折部位/ スポーツ損傷/ 胸部の救急疾患/ 小児虐待:骨損傷
3 小児の頭蓋骨:NAI(小児虐待)疑い例
 正常解剖/ 画像分析:縫合線の認識
4 成人の頭蓋骨
 解剖/ 画像分析:偽陽性の診断/ 画像分析:骨折の認識/ よくあるピットフォール
5 顔 面
 正常解剖:中顔面と眼窩/ 正常解剖:下顎骨/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる損傷/ ピットフォール
6 肩関節
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる骨折/ よくみられる脱臼/ まれであるが重要な損傷/ ピットフォール
7 小児の肘関節
 正常解剖/ 画像分析:回答すべき4 つの問い/ よくみられる損傷/ まれであるが重要な損傷/ ピットフォール
8 成人の肘関節
 正常解剖/ 画像分析:回答すべき3 つの問い/ よくみられる損傷/ まれであるが重要な損傷/ ピットフォール
9 手関節と前腕遠位部
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ 一般的な骨折/ 亜脱臼と脱臼/ まれであるが重要な損傷/ 解釈を誤る可能性のある正常変異
10 手と指
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる損傷/ まれであるが重要な損傷/ ピットフォール
11 頸 椎
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる損傷/ ピットフォール
12 胸椎および腰椎
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる損傷/ 頻度は高くないが重要な損傷/ ピットフォール
13 骨 盤
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる骨折(高エネルギー外傷)/ よくみられる骨折(低エネルギー外傷)/ スポーツ損傷/ ピットフォール
14 股関節と大腿骨近位部
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる損傷/ まれであるが重要な損傷/ ピットフォール
15 膝関節
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる骨折/ 膝関節周囲の小骨片/ 頻度は高くないが重要な損傷/ ピットフォール
16 足関節と後足部
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる骨折:靱帯断裂/ 靱帯損傷/ 頻度は高くないが重要な損傷/ ピットフォール
17 中足部と前足部
 正常解剖/ 画像分析:チェックリスト/ よくみられる骨折/ 頻度は低いが重要な骨折/ 脱臼・亜脱臼/ ピットフォール
18 胸 部
  正常解剖/ 画像分析:チェックリスト の臨床的な問題
19 腹痛および腹部外傷
 腹部X線撮影/ 画像分析:単純X線写真のチェックリスト/ よくみられる問題/ まれであるが重要な問題
20 穿通性異物
 単純X線写真の所見/ 異物が疑われる場合
21 異物誤飲
 最も頻度の高い異物/ 頻度は高くないが重要な異物
22 自己テスト
23 用語集

 【索 引】