やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

訳者まえがき
 NICUで繰り広げられる生と死のドラマ
 新生児医療がマスメディアで注目される機会が多くなった.米国の雑誌THE NEW YORKER(October 24,2011)は,かつて“A Child in Time:New Frontiers in Treating Premature Babies”という特集を掲載したことがある.さらに最近,世界最大の週刊誌TIME(June 2,2014)の表紙を飾ったのは,新生児の写真と“Saving Preemies”の文字で,“A Preemie Revolution:Cutting-Edge Medicine and Dedicated Caregivers are Helping the Tiniest Babies Survive-and Thrive”という記事で,米国ウィスコンシン州にあるChildren's Hospital of WisconsinのNICU,すなわち新生児集中治療室で行われている最新の新生児医療が紹介された.テレビのドキュメンタリー番組や医療現場を舞台にしたドラマでもたびたび取り上げられている.日本でも人気のあった米国の医療ドラマER(『ER緊急救命室』)は1994年から2009年まで331回放映されたが,その第10シーズン第12話(通算213話)のタイトルは,ずばり“NICU”(「新生児ICU」)であった.そのドラマのなかで,新生児科部長のDr.Raabが,医学生のAbby LockhartとNeela Rasgotoraに向かって次のように話す場面がある.
 NICUの治療は,トレーニングなしのマラソンみたいなものよ.患者にとっても,家族にとっても,あなたたちにとっても,我慢比べだわ.食べられるときに食べて,寝られるときに寝て,帰れるときには飛んで帰りなさい.
 NICUという世界が,医療スタッフにとって,患者やその家族にとって,いかに過酷なものであるかを表している言葉だ.
 本書は,そのNICUを舞台にしたノンフィクションAlmost Home:Stories of Hope and the Human Spirit in the Neonatal ICUの全訳である.著者のChristine A.Gleasonは,米国ワシントン州にあるUniversity of Washington医学部小児科教授で,Seattle Children's Hospitalで新生児専門医を務めている.
 第1章からエピローグまでの各ストーリーでは,17人の赤ちゃんたちを軸に,その治療に関わる医療スタッフや患者の家族たちの姿が克明に描かれている.原書のタイトルAlmost Homeは,その赤ちゃんたちは一時的にNICUに入院しているのであって,元気になれば両親とともに,まもなくわが家へ帰っていけるということから付けられたものである.
 翻訳を進めるうえで,次の方たちに特にお世話になった.
 宮坂勝之先生(聖路加国際大学大学院周麻酔期看護学特任教授)には,医学専門分野に関わる場面を翻訳する際に多くの適切な助言をいただいた.先生のような日本を代表する偉大なドクターにご指導いただいたことに厚く感謝申し上げる.
 同僚の秦 幸吉先生(島根県立大学看護学部教授)には,産婦人科医の立場から貴重な助言をいただいた.また,長年の友人Ken Fitch氏のおかげで,日本人にとってやっかいなアメリカ英語の表現や背景文化を理解する手がかりを得ることができた.
 本書出版の意義にご理解を示してくださった医歯薬出版株式会社に敬意を表するとともに,『外科研レジデント修医 熱き混カオス沌』と『ドクターヘリ 救命飛フライト行』に引き続き,丹念に内容をチェックしながら原稿に目を通していただいた同社の遠山邦男氏には深く感謝申し上げる.遠山氏のご尽力があったからこそ,同社の海外医療ノンフィクションシリーズ第3弾となる本書を世に出すことができた.
 いつもながら,山田政美先生(島根大学名誉教授,島根県立大学名誉教授)には,心よりお礼を申し上げる.今なお学問への意欲をかき立ててくださる先生との出会いがなければ,英語の言語と文化を研究する道へ進むことはできなかった.
 最後に,いつも訳者を支えてくれる妻,2人の娘たち,そして2頭のジャック・ラッセル・テリアたちに感謝したい.
 2015年6月
 田中芳文
 訳者まえがき
 Prologue
第1章 Jimmy
第2章 Owen
第3章 Jazmine
第4章 Linda
第5章 Patrick
第6章 Hannah
第7章 Roxie
第8章 Emily
第9章 Travis
第10章 Joshua
第11章 Christopher
第12章 Erica
第13章 Anna
第14章 Harry
第15章 Baby X
 Epilogue MitchellとMichael

 謝辞