はじめに
広く知られているように,近代史の世界大戦を経ていわゆるcrush syndromeに伴う急性腎不全(ARF:acute renal failure)の病態がクローズアップされたが,この腎臓機能の破綻を主体とした生命の危機的状況に対して,明確な改善効果を有する治療法である血液浄化療法は目覚ましいスピードで発展を遂げた.その中でも集中治療領域で主に用いられている持続的腎代替療法(CRRT:continuous renal replacement therapy)は,日本と欧米とでは異なった様式で進化している部分がある.それはおそらく日本が繊維・機械技術に優れ,また一方では保健医療機関への診療報酬支払いの機構が各国と異なる状況が関与していると考えられる.このような背景の中で欧米とは独立して形成された日本のCRRTであるが,EBMが重視される時代が到来したのとは対照的に,expert opinionあるいはexperience based medicineに基づいた治療が主体であること,世界的に認知されうる日本発の臨床研究の少なさなどが,批判的に論じられることが多かった.
それでは,日本の標準的なCRRTをとりまく集中医療は,種々の診療報酬査定等の“縛り”のために欧米との比較で劣っているのであろうか?これに対して明確に回答できる臨床研究はこれまでなかった.しかし最近の取り組みで,わが国の包括医療費支払い制度方式(DPC)データベースを後ろ向きに解析することにより,おそらく日本の急性期医療は海外と遜色ないことがはじめて見いだされ,本書第二版において紹介することができた.同時に,日本の標準的なCRRTのプロトコルをわかりやすく普及することの意義は,一層深まったと感じている.
私は,日本の医療はCRRTにおいても,慢性血液透析と同様に欧米に遜色のない高い臨床力を示せていると思う.そして,日本のexpert opinionに反映されるseedは確実にあり,国内外に発信していくことが,医療と産業の醸成に必要であると考えている.
2015年1月
東京大学医学部附属病院
血液浄化療法部
野入英世
広く知られているように,近代史の世界大戦を経ていわゆるcrush syndromeに伴う急性腎不全(ARF:acute renal failure)の病態がクローズアップされたが,この腎臓機能の破綻を主体とした生命の危機的状況に対して,明確な改善効果を有する治療法である血液浄化療法は目覚ましいスピードで発展を遂げた.その中でも集中治療領域で主に用いられている持続的腎代替療法(CRRT:continuous renal replacement therapy)は,日本と欧米とでは異なった様式で進化している部分がある.それはおそらく日本が繊維・機械技術に優れ,また一方では保健医療機関への診療報酬支払いの機構が各国と異なる状況が関与していると考えられる.このような背景の中で欧米とは独立して形成された日本のCRRTであるが,EBMが重視される時代が到来したのとは対照的に,expert opinionあるいはexperience based medicineに基づいた治療が主体であること,世界的に認知されうる日本発の臨床研究の少なさなどが,批判的に論じられることが多かった.
それでは,日本の標準的なCRRTをとりまく集中医療は,種々の診療報酬査定等の“縛り”のために欧米との比較で劣っているのであろうか?これに対して明確に回答できる臨床研究はこれまでなかった.しかし最近の取り組みで,わが国の包括医療費支払い制度方式(DPC)データベースを後ろ向きに解析することにより,おそらく日本の急性期医療は海外と遜色ないことがはじめて見いだされ,本書第二版において紹介することができた.同時に,日本の標準的なCRRTのプロトコルをわかりやすく普及することの意義は,一層深まったと感じている.
私は,日本の医療はCRRTにおいても,慢性血液透析と同様に欧米に遜色のない高い臨床力を示せていると思う.そして,日本のexpert opinionに反映されるseedは確実にあり,国内外に発信していくことが,医療と産業の醸成に必要であると考えている.
2015年1月
東京大学医学部附属病院
血液浄化療法部
野入英世
総論
I.すぐ治療開始するために
1.CRRTはだれに行うか?(花房規男)
Renal indicationとnon-renal indication/AKI患者におけるCRRTの選択まで(腎前性・腎後性の除外)
AKIにおける腎代替療法施行の選択/持続か間欠か/Non-renal indication
2.何を:モードの選択(浅田敏文)
モードの種類/透析と濾過/除去効率/血液濾過の弊害/特殊な病態に対するCRRT/海外におけるCRRT
3.どのように:処方の決め方(土井研人)
CRRTの処方とは/CRRT処方の実際
II.医療用器材
1.補充液・透析液(土井研人)
組成/安全性に配慮した製剤設計/血液透析用透析液の組成と補充液との比較/酢酸フリー透析液
2.ヘモフィルタの選択(片桐大輔)
膜素材/膜のサイズ/膜の材質/使用時,使用後の注意/そのほか考慮するべき点
3.バスキュラーアクセス(岡本好司)
CRRTにおける既存バスキュラーアクセスの位置づけ/カテーテルの種類/挿入箇所
挿入時トラブル/メンテナンストラブル
4.抗凝固剤の選択とモニタリング(虎戸寿浩)
抗凝固剤の必要性/CRRTで用いられる抗凝固剤の種類と特徴
5.CRRT装置に表示される数値(渡邊恭通)
各種測定値の概要/各種測定値の変化/各種設定値
III.トラブルシューティング
1.施行中のトラブルシューティング:機器操作(山本裕子)
アラーム発生時の基本/各種アラームとトラブルシューティング
2.合併症:血圧低下(野入英世)
血圧低下のメカニズムとCRRT/全身状態の把握/血圧低下と病態/治療上の注意
3.合併症:出血(古瀬 智)
出血の原因/出血を認める場合のCRRT
4.合併症:電解質異常(花房規男)
低下しやすい電解質/そのほか注意が必要な電解質/モニタリングの重要性
IV.よりよい理解のために
1.CRRTの原理(花房規男)
拡散と限外濾過/治療法/その他の治療法
2.CRRTの治療量の考え方(花房規男)
補液・透析液の流量を決める原則/物質の除去/体内からの物質の除去
疫学的・介入試験の結果による設定/保険診療上の問題点
3.CRRT終了のタイミング(土井研人)
間欠的治療への移行/RRTからの離脱
4.急性腎障害重症度分類(野入英世)
KDIGO分類について/重症度分類の運用
各論
V.CRRTの適応
1.腎疾患:AKIに対するCRRT(土井研人)
いつCRRTの適応と判断するのか?/CRRTか間欠的血液透析か?
2.腎疾患:ESRDに対するCRRT(小丸陽平・根岸康介)
背景/対象/CRRTのモダリティ選択/CRRT施行時のバスキュラーアクセス
CRRTからの離脱とIHDへの移行/ESRD症例でのCRRT施行時の留意点
3.循環器疾患:CCUでのCRRT(片桐大輔)
心不全に対するCRRT/心臓外科手術とCRRT/慢性腎不全,末期腎不全に対する治療
4.敗血症および高サイトカイン血症(土井研人)
サイトカイン,敗血症,non-renal indication/CRRTによるサイトカイン除去の理論
CRRTによるサイトカイン除去の実際
5.多臓器不全(中村謙介)
MOFとAKI/MOFにおける腎代替療法の開始基準/MOFにおける腎代替療法のモダリティ選択
MOFにおけるCRRTの浄化条件/MOFにおけるCRRTの離脱
6.急性肝不全・劇症肝炎(野入英世)
急性肝不全・劇症肝炎/患者状態の把握/治療上のポイント/治療の効果と目標
7.急性膵炎(中村元信)
急性膵炎の定義と診断/治療
8.ARDS(急性呼吸窮迫症候群)(比留間孝広)
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)/肺腎連関/ARDSとCRRT
ARDSに合併する呼吸性アシドーシスをCRRTで補正する場合の注意点
9.周術期のCRRT(山下徹志)
周術期のAKI/周術期のCRRT/抗凝固薬の選択
10.頭蓋内疾患(本田謙次郎)
頭蓋内疾患でCRRTを要する疾患/頭蓋内圧に関する病態生理
頭蓋内疾患と腎代替療法
11.その他:代謝障害,薬物中毒など(中村謙介)
代謝障害に対する血液浄化の適応/原因物質の除去が可能か
血液浄化法の選択(CRRTでよいのか?)/原因物質の除去を目的として血液浄化が適応となる中毒
12.小児・乳幼児のCRRT(和田尚弘)
適応となる病態/開始時期/CRRT施行の具体的条件
VI.CRRT施行中の検討項目
1.輸液(花房規男)
考え方/実際の輸液/維持期/術後/その他の電解質
2.栄養(深柄和彦)
栄養サポートチーム(NST)が遭遇する困難/腎不全患者へのエネルギー・蛋白質投与量
CRRTを必要とする病態の代謝の特徴/急性腎不全における栄養不良の発生
CRRTに伴う体内の栄養素の変化/CRRT時の栄養療法
3.薬剤(山本武人・大野能之)
CRRT導入患者への薬物投与の問題点/CRRTによる薬剤除去の原則/CRRT導入患者に対する抗菌薬の投与量設計
CRRT導入患者に対する薬物の投与量調節のチェックポイント
4.人工腎臓の性能評価(小丸陽平・渡邊恭通)
背景/「血液浄化器の性能評価法2012」/集中治療分野における性能評価の実際
治療効率の指標としての濾過クリアランス
5.吸着型CRRT(土井研人)
吸着性能/フィルター寿命/吸着により除去される物質/物質除去と臨床的効果
6.バイオマーカーを用いたCRRT(野入英世)
血清クレアチニン値との比較/重症度の検出/バイオマーカーによるCRRTの考え方
7.海外大規模臨床研究,国内治療の現状と方向性(土井研人)
CRRTにおける至適な条件設定/今後のCRRTにおける臨床研究の方向性
8.院内クラウド化情報管理システム(ICMCI)を活用したCRRT施行中の情報管理(八反丸善裕)
遠隔モニタリングの必要性/ICMCIの概要/期待できる効果/今後の展望
9.国内治療の現状〜診療報酬データベースからの報告〜(岩上将夫・康永秀生)
Diagnosis Procedure Combination(DPC)/集中治療室におけるCRRTとIRRTの使い分けとその転帰
【参考資料】安全確認のためのチェックリスト(野入英世)
索引
サイドメモ目次
カテーテル開発の経緯から思うこと
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
海外における抗凝固剤の使用状況
心臓外科手術におけるAKIのバイオマーカー
血漿交換に必要な血漿量の求め方
劇症肝炎に対する肝移植適応基準
AKIに合併する肺障害の機序
脳浮腫
SLEED(sustained low efficiency daily dialysis)
循環動態の不安定な児に対する対応
CRRTによる薬物のクリアランス(CLCRRT)
分子量による篩係数の違い
薬物除去率(fd)
分布容積(Vd)
Pharmacokinetics/Pharmacodynamics(PK/PD)理論
人工腎臓の歴史
疫学データのLimitation
I.すぐ治療開始するために
1.CRRTはだれに行うか?(花房規男)
Renal indicationとnon-renal indication/AKI患者におけるCRRTの選択まで(腎前性・腎後性の除外)
AKIにおける腎代替療法施行の選択/持続か間欠か/Non-renal indication
2.何を:モードの選択(浅田敏文)
モードの種類/透析と濾過/除去効率/血液濾過の弊害/特殊な病態に対するCRRT/海外におけるCRRT
3.どのように:処方の決め方(土井研人)
CRRTの処方とは/CRRT処方の実際
II.医療用器材
1.補充液・透析液(土井研人)
組成/安全性に配慮した製剤設計/血液透析用透析液の組成と補充液との比較/酢酸フリー透析液
2.ヘモフィルタの選択(片桐大輔)
膜素材/膜のサイズ/膜の材質/使用時,使用後の注意/そのほか考慮するべき点
3.バスキュラーアクセス(岡本好司)
CRRTにおける既存バスキュラーアクセスの位置づけ/カテーテルの種類/挿入箇所
挿入時トラブル/メンテナンストラブル
4.抗凝固剤の選択とモニタリング(虎戸寿浩)
抗凝固剤の必要性/CRRTで用いられる抗凝固剤の種類と特徴
5.CRRT装置に表示される数値(渡邊恭通)
各種測定値の概要/各種測定値の変化/各種設定値
III.トラブルシューティング
1.施行中のトラブルシューティング:機器操作(山本裕子)
アラーム発生時の基本/各種アラームとトラブルシューティング
2.合併症:血圧低下(野入英世)
血圧低下のメカニズムとCRRT/全身状態の把握/血圧低下と病態/治療上の注意
3.合併症:出血(古瀬 智)
出血の原因/出血を認める場合のCRRT
4.合併症:電解質異常(花房規男)
低下しやすい電解質/そのほか注意が必要な電解質/モニタリングの重要性
IV.よりよい理解のために
1.CRRTの原理(花房規男)
拡散と限外濾過/治療法/その他の治療法
2.CRRTの治療量の考え方(花房規男)
補液・透析液の流量を決める原則/物質の除去/体内からの物質の除去
疫学的・介入試験の結果による設定/保険診療上の問題点
3.CRRT終了のタイミング(土井研人)
間欠的治療への移行/RRTからの離脱
4.急性腎障害重症度分類(野入英世)
KDIGO分類について/重症度分類の運用
各論
V.CRRTの適応
1.腎疾患:AKIに対するCRRT(土井研人)
いつCRRTの適応と判断するのか?/CRRTか間欠的血液透析か?
2.腎疾患:ESRDに対するCRRT(小丸陽平・根岸康介)
背景/対象/CRRTのモダリティ選択/CRRT施行時のバスキュラーアクセス
CRRTからの離脱とIHDへの移行/ESRD症例でのCRRT施行時の留意点
3.循環器疾患:CCUでのCRRT(片桐大輔)
心不全に対するCRRT/心臓外科手術とCRRT/慢性腎不全,末期腎不全に対する治療
4.敗血症および高サイトカイン血症(土井研人)
サイトカイン,敗血症,non-renal indication/CRRTによるサイトカイン除去の理論
CRRTによるサイトカイン除去の実際
5.多臓器不全(中村謙介)
MOFとAKI/MOFにおける腎代替療法の開始基準/MOFにおける腎代替療法のモダリティ選択
MOFにおけるCRRTの浄化条件/MOFにおけるCRRTの離脱
6.急性肝不全・劇症肝炎(野入英世)
急性肝不全・劇症肝炎/患者状態の把握/治療上のポイント/治療の効果と目標
7.急性膵炎(中村元信)
急性膵炎の定義と診断/治療
8.ARDS(急性呼吸窮迫症候群)(比留間孝広)
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)/肺腎連関/ARDSとCRRT
ARDSに合併する呼吸性アシドーシスをCRRTで補正する場合の注意点
9.周術期のCRRT(山下徹志)
周術期のAKI/周術期のCRRT/抗凝固薬の選択
10.頭蓋内疾患(本田謙次郎)
頭蓋内疾患でCRRTを要する疾患/頭蓋内圧に関する病態生理
頭蓋内疾患と腎代替療法
11.その他:代謝障害,薬物中毒など(中村謙介)
代謝障害に対する血液浄化の適応/原因物質の除去が可能か
血液浄化法の選択(CRRTでよいのか?)/原因物質の除去を目的として血液浄化が適応となる中毒
12.小児・乳幼児のCRRT(和田尚弘)
適応となる病態/開始時期/CRRT施行の具体的条件
VI.CRRT施行中の検討項目
1.輸液(花房規男)
考え方/実際の輸液/維持期/術後/その他の電解質
2.栄養(深柄和彦)
栄養サポートチーム(NST)が遭遇する困難/腎不全患者へのエネルギー・蛋白質投与量
CRRTを必要とする病態の代謝の特徴/急性腎不全における栄養不良の発生
CRRTに伴う体内の栄養素の変化/CRRT時の栄養療法
3.薬剤(山本武人・大野能之)
CRRT導入患者への薬物投与の問題点/CRRTによる薬剤除去の原則/CRRT導入患者に対する抗菌薬の投与量設計
CRRT導入患者に対する薬物の投与量調節のチェックポイント
4.人工腎臓の性能評価(小丸陽平・渡邊恭通)
背景/「血液浄化器の性能評価法2012」/集中治療分野における性能評価の実際
治療効率の指標としての濾過クリアランス
5.吸着型CRRT(土井研人)
吸着性能/フィルター寿命/吸着により除去される物質/物質除去と臨床的効果
6.バイオマーカーを用いたCRRT(野入英世)
血清クレアチニン値との比較/重症度の検出/バイオマーカーによるCRRTの考え方
7.海外大規模臨床研究,国内治療の現状と方向性(土井研人)
CRRTにおける至適な条件設定/今後のCRRTにおける臨床研究の方向性
8.院内クラウド化情報管理システム(ICMCI)を活用したCRRT施行中の情報管理(八反丸善裕)
遠隔モニタリングの必要性/ICMCIの概要/期待できる効果/今後の展望
9.国内治療の現状〜診療報酬データベースからの報告〜(岩上将夫・康永秀生)
Diagnosis Procedure Combination(DPC)/集中治療室におけるCRRTとIRRTの使い分けとその転帰
【参考資料】安全確認のためのチェックリスト(野入英世)
索引
サイドメモ目次
カテーテル開発の経緯から思うこと
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
海外における抗凝固剤の使用状況
心臓外科手術におけるAKIのバイオマーカー
血漿交換に必要な血漿量の求め方
劇症肝炎に対する肝移植適応基準
AKIに合併する肺障害の機序
脳浮腫
SLEED(sustained low efficiency daily dialysis)
循環動態の不安定な児に対する対応
CRRTによる薬物のクリアランス(CLCRRT)
分子量による篩係数の違い
薬物除去率(fd)
分布容積(Vd)
Pharmacokinetics/Pharmacodynamics(PK/PD)理論
人工腎臓の歴史
疫学データのLimitation








