やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者の序
 Davidson's Principles and Practice of Medicine(デビッドソン内科学)は1952年に初版が出て以来,2〜4年ごとに版を重ね,本書は第21版になる.これまでに英語以外の多くの言語(ギリシャ,フランス,ロシア,インド,トルコ,ポーランド,イタリア)に翻訳され,世界中の医師,医学生,医療専門職の内科学教科書として,200万部以上の売り上げを誇っているものである.
 デビッドソン内科学は,長年にわたって英国エディンバラ大学医学部内科学主任教授を務めたStanley Davidson卿(1894―1981)が自ら行った内科学系統講義の講義ノートに端を発するもので,当初から,堅実な内科診療(sound medical practice)を行うために必要な根幹部分(main element)の提供に主眼が置かれている.
 20回もの版を重ねる間に本書の体裁や内容は大きく変わり,今版では第1部「内科診療の基本」,第2部「内科診療の実践」という2部構成になっていて,第1部には総論的なテーマを扱う7つの章,第2部には臓器系統ないし疾患をテーマとする21の章が組み込まれている.どの章も,カラフルで分かりやすい図表が多用され,最新の医科学的知見が簡潔に記述されている.第2部の各章は,当該臓器系統・疾患に関する診察,機能解剖・生理学,臨床検査,症候,疾患各論が,そのような順序で記述されている.本書での特徴の一つが各章にちりばめられているEBMというコラムで,診療上しばしば話題となるトピックについて,最新のエビデンスがまとめられていて,大変有用である.
 本書は内科学教科書ではあるが,わが国で一般的に行われている内科診療とは扱う疾患などの幅の広さが微妙に異なる.その背景には,医療体制の違いがあるように思う.英国には,1948年に創設された国民保健サービス(National Health Service:NHS)があり,世界中のどの国にも完璧な医療体制が存在しえないなかで,英国民が誇りとする,優れた医療体制である.この先進的な医療提供体制のなかでは,狭い分野に特化した専門医でなければ扱うことのできない知識や技術を必要とする疾患や健康問題以外は,臓器系統にこだわらず,総合医(general practitioner:GP)が診ることになっている.したがって,学問分野としての臓器系統別専門性がほぼそのままの形で実地診療体制に反映されてきたわが国とは異なり,英国では,学問における医学専門分野と,医療の専門分化には一線が画されてきたように見える.そのような医療体制を堅持する英国で幅広い疾患や健康問題を扱うGPにとってコアとなる知識・技量のmain elementが本書に記載されているのである.
 わが国でも,2013年4月に厚生労働省においてまとめられた専門医のあり方に関する検討会報告書で,基本領域の19番目の専門医として,総合診療専門医が加えられている.近々,総合診療専門医がカバーする診療範囲と養成カリキュラムが作成される予定であるが,わが国で従来行われてきた内科診療よりも診療範囲が広くなることは確実であり,少なくとも本書に記載された内容のすべてが,新たな総合診療専門医に求められる臨床能力のコアとみなされるであろう.
 本書が,わが国の急激に変化する医療提供体制のなかで,幅広い内科診療・総合診療を堅実に行ううえで,多くの医師,医学生,医療専門職の皆さんに活用していただければ幸甚である.
 2014年3月
 聖路加国際病院
 福井次矢
 監訳者の序
 監訳者・翻訳者一覧
 翻訳分担一覧
 はじめに
 内容紹介
 謝辞

第1部 内科診療の基本
1章 適正な医療
 医療
 医療倫理
 自己啓発と専門的能力の開発
 補完代替医療
2章 治療学と適正処方
 優れた処方者とは?
 処方に関連した薬学の原則
 薬物治療の利益と害のバランス
 薬物療法におけるEBM
 薬物の発見と開発
 実際の処方
 薬物の有害反応
 薬物相互作用
 薬物処方を書く
 薬剤の命名
 薬物治療のモニタリング
3章 疾患における分子的・遺伝的因子
 機能解剖学と生理学
 遺伝性疾患と継承
 遺伝性疾患の検索
 遺伝性疾患の症候
 遺伝性疾患の主要なカテゴリー
 遺伝相談
 よくみられる疾患の遺伝学
 分子医学における研究の最前線
4章 疾病の免疫学的側面
 免疫系の機能解剖学と生理学
 免疫不全
 炎症反応
 自己免疫疾患
 アレルギー
 臓器移植および移植片拒絶
5章 疾患における環境および栄養要因
 疾患における環境要因の基本的知識と検査
 環境病
 疾患における栄養因子の基本的知識と検査
 エネルギーバランスの変化による問題点
 ビタミンとミネラルの疾患
6章 感染症の基本原理
 感染性病原体
 正常細菌叢
 宿主-病原体間相互作用
 感染に関する検討
 感染の疫学
 感染症の制御と予防
 感染症の治療
7章 老化と疾患
 高齢者総合評価
 人口統計
 機能解剖学と生理学
 検査
 老年医学において発現する問題
 リハビリテーション
第2部 内科診療の実践
8章 重篤疾患
 重篤疾患患者の診察
 重篤疾患の生理学
 重篤疾患患者の認識と評価
 重篤疾患における臨床問題
 クリティカルケアマネジメントの一般原則
 主要な臓器不全のマネジメント
 ICUからの撤退
 ICUにおけるスコアリングシステム
 ICUのアウトカム
9章 中 毒
 中毒患者の包括的評価
 刺咬症患者の評価
 中毒患者への一般的なアプローチ
 特定医薬品による中毒
 乱用薬
 化学物質と農薬
 環境中毒と疾病
 過量服薬されることのまれな物質
 刺咬症
10章 内科領域の精神医学
 精神科的疾患の分類
 精神科的疾患の疫学
 精神科的疾患の病因
 精神科的疾患の診断
 精神疾患の症状
 精神科的疾患の治療
 精神医学的障害
 精神医療と法
11章 腫瘍学
 癌患者の診察
 機能解剖学と病態生理学
 癌の環境的および遺伝的決定因子
 検査
 腫瘍学において生じる問題点
 癌の緊急合併症
 転移性疾患
 腫瘍学における治療
 癌─各論
12章 疼痛マネジメントと緩和ケア
 疼痛
 緩和ケア
 死を迎えるとき
13章 感染症
 感染症患者の診察
 感染症における主要症候
 ウイルス感染
 プリオン病
 細菌感染
 原虫感染症
 蠕虫による感染症
 外部寄生虫
 真菌感染症
14章 HIV感染とAIDS
 HIV患者の診察
 HIVの疫学と生物学
 HIVの自然経過と病期分類
 HIVで問題となる疾患
 HIV患者のマネジメント
15章 性行為感染症
 男性患者の診察
 女性患者の診察
 性行為感染症の疑いのある患者へのアプローチ
 男性患者にみられる症状
 女性患者にみられる症状
 性行為感染症の予防
 細菌性性行為感染症
 ウイルス性性行為感染症
16章 臨床生化学と代謝
 生化学的検査
 統合的な水・電解質バランス
 ナトリウム(Na)バランスの異常
 水バランスの異常
 カリウム(K)バランスの異常
 酸塩基平衡の異常
 二価イオン代謝の障害
 アミノ酸代謝の異常
 炭水化物代謝の異常
 複合脂質の異常
 血中脂質とリポ蛋白の異常
 ヘム代謝異常─ポルフィリン症
17章 腎・尿路系疾患
 腎臓と尿路の診察
 機能解剖学と生理学
 腎と尿路系疾患の検査
 腎・泌尿器疾患におけるさまざまな症状
 腎代替療法
 腎血管障害
 糸球体疾患
 尿細管間質性疾患
 集合管系と尿管の疾患
 下部尿生殖路疾患
 前立腺疾患
 腎と尿路の腫瘍
 全身性疾患における腎障害
 薬物と腎臓
18章 心血管疾患
 心血管系の診察
 機能解剖学と生理学
 心血管系の検査
 治療手技
 心血管疾患の症候
 脈拍,調律,伝導の異常
 動脈硬化症
 冠状動脈性心疾患
 血管疾患
 心臓弁膜症
 先天性心疾患
 心筋疾患
 心膜疾患
19章 呼吸器疾患
 呼吸器系の診察
 機能解剖学と生理学
 呼吸器疾患の検査
 呼吸器疾患の症候
 閉塞性肺疾患
 呼吸器感染症
 気管支と肺の腫瘍
 間質性・びまん性肺疾患
 肺血管疾患
 上気道の疾患
 胸膜,横隔膜と胸壁の疾患
20章 内分泌疾患
 内分泌疾患における診察
 内分泌学概要
 甲状腺
 生殖器系
 副甲状腺
 副腎
 膵内分泌部と消化管
 視床下部と下垂体
 複数の内分泌腺に影響を及ぼす疾患
21章 糖尿病
 糖尿病患者の診察
 機能解剖学と生理学
 検査
 糖尿病における症候
 糖尿病のマネジメント
 長期的な糖尿病合併症
22章 消化管と膵の疾患
 消化管疾患における診察
 機能解剖学と生理学
 消化管疾患の検査
 消化器疾患の臨床徴候
 口腔・唾液腺疾患
 食道疾患
 胃・十二指腸疾患
 小腸疾患
 膵疾患
 炎症性腸疾患
 過敏性腸症候群(IBS)
 虚血性腸管障害
 結腸と直腸の疾患
23章 肝・胆道系疾患
 肝・胆道疾患における診察
 機能解剖学と生理学
 肝・胆道疾患の検査
 肝疾患における臨床徴候
 肝硬変
 門脈圧亢進症
 感染症と肝臓
 アルコール性肝疾患
 非アルコール性脂肪性肝疾患
 薬物および毒素と肝臓
 先天性肝疾患
 自己免疫性肝炎
 肝内胆管疾患
 肝臓の腫瘍と限局性病変
 肝血管性病変
 妊娠と肝臓
 肝移植
 胆嚢・肝外胆道系疾患
24章 血液疾患
 血液疾患における診察
 機能解剖学と生理学
 血液疾患の検査
 血液疾患の臨床徴候
 血液製剤と輸血
 骨髄および末梢血幹細胞移植
 抗凝固療法と抗血栓療法
 貧血
 異常ヘモグロビン症
 造血器悪性腫瘍
 再生不良性貧血
 骨髄増殖性腫瘍
 出血性疾患
 血栓性疾患
25章 筋骨格系疾患
 筋骨格系の診察
 機能解剖学と生理学
 筋骨格系疾患の検査
 筋骨格系疾患の臨床徴候
 筋骨格系疾患のマネジメントの原則
 変形性関節症
 炎症性関節疾患
 線維筋痛症
 全身性結合組織病
 全身性血管炎
 骨疾患
 他の全身性疾患における筋骨格系の症候
 種々の疾患
26章 神経内科疾患
 神経系の診察
 機能解剖学と生理学
 神経疾患の検査
 神経内科疾患の症候
 頭痛症候群
 前庭疾患
 てんかん
 睡眠障害
 脳血管疾患
 炎症性疾患
 神経変性疾患
 神経系の感染症
 頭蓋内腫瘍と頭蓋内圧亢進
 脊椎と脊髄の疾患
 末梢神経疾患
 神経筋接合部の疾患
 筋肉疾患
27章 皮膚疾患
 皮膚疾患における診察
 機能解剖学と生理学
 検査と専門的検査
 皮膚疾患における症候
 皮膚疾患に対する外用療法
 皮膚外科
 湿疹
 乾癬と類縁疾患
 扁平苔癬と苔癬型反応
 蕁麻疹
 ざ瘡と酒
 一般的な皮膚感染症と外寄生
 水疱性疾患
 皮膚腫瘍
 一般内科でみられる皮膚病
 薬疹
 下腿潰瘍
 毛髪疾患
 爪疾患
28章 検査基準値
 国際単位(SI単位)について
 検査値

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 索引
  和文索引
  欧文索引