監訳者の序
機能組織学とは,近年,進歩の著しい分子生物学によってもたらされた新たな分子や考え方を取り入れた融合学問,すなわち,機能面に立脚した組織学である.
著者のKerr博士によって単独で執筆された本書は,ほかの教科書にはない独特の理念とスタイルで貫かれている.
その特徴の1つは,学習者がどのような考え方で組織学を学べばよいのかについて,一種の物語的,小説的な流れに基づいて執筆されたテキストブックだということである.暗記を得意とする学生には向いていないような書き方に,違和感を覚える読者も多いかも知れない.各章にリズミカルに流れるような文体で記載されている文字の配列は,考える読者を意識したようにも思える.組織学を学ぶ「極意」といった原理原則を基軸に説明文は記載されている.
2つ目の特徴は,従来の紋切り型の組織学標本に加えて,新しい技術によって得られた標本を相当の数,加えていることである.組織標本を見ながら,分子機能の話をイメージしなければならなかった旧来型組織学では,組織の形態と,それを足場に繰り広げられている分子活動の動態とに乖離があった.組織は組織,分子は分子であるというのが従来の組織学テキストであったと言えよう.それを,このテキストは挑戦的に融合させるべく,蛍光写真を随所に取り込ませながら,分子機能と組織とを融和させているのである.したがって,従来の標本では見ることのできなかった,組織や細胞で繰り広げられている現象を,本書を見ることで,より進化した組織学が習得できるように企画されている.
単独の著者による,偏向した考え方や表現も数ヵ所認められるが,訳者の方々の努力によってその点は補われている.
現代はグローバルな時代である.英語が一般的な国際共通言語となされてきている昨今,日本語のみのテキストは,日本をいわば鎖国に追い込むことにもなりかねない.そのようなこともあって,本書においては基本的な英語はできるだけ残すようにした.
用語は,解剖学用語集を中心に採用したが,細胞生物学や分子生物学の領域で多用されているものも採用した.分子はカタカナ表記によっているため,従来の組織学の教科書に比べ,カタカナ部分が多いのは本書の性格による.
本書の翻訳にあたって,分担していただいた先生方に心から謝辞を申し上げる.本書によって日本の組織学を学ぶ,医学,歯学,薬学を専攻する学生に加え,生命科学を専門とする学生の若い頭脳が触発され,人体をはじめとする生き物の組織への理解が進めば,監訳者としてのこれ以上の喜びはない.
翻訳者を代表して
2012年12月10日
河田 光博
原著の序
本書第2版の改正・改訂作業では,生物医科学の最新の文献報告にみられる進展に基づき,組織・細胞生物学の分野における新たな知見を必要に応じて追加した.組織学は今もなお,医師やコメディカルの教育訓練における重要な要素の1つであるが,それは単独の教科として教えられるよりも,大きなカリキュラムに組み込まれていく状況が増えている.しかし,組織学的に重要な概念やその細部を教示することは,簡単に断片化したり組み立て直したりできるものではない.例えば,特定の症例研究や症例シナリオなどの学習教材には馴染まないものである.したがって,本書の各章では,基礎医学で用いられてきた伝統的なアプローチにならい,機能性の観点からみた組織学的知見を説明した後に,それを特定の組織や臓器系に関連づけていく手法をとる.
組織学の知識は,医学/歯学/獣医学の課程で病理を学ぶための土台となるが,組織学は生物医学領域の基礎研究に従事する学生や大学院生,そして博士研究員にとって,ますます重要なものになっている.健常な状態および実験的に変化を導入した状況において細胞や組織の表現型を同定することは,機能の解明にとって不可欠であり,出生前・出生後の発生について学ぶ上でも同等に重要である.本書の第2章は,こうした必要に応じることを意図している.
この新版は全体として,医療従事者にとって必要な生物科学の領域に興味をもつ人々,そして,ともに新たな発見を成し遂げ,細胞や組織の機能についての知識を進展させていく学術研究分野に身を置く人々のために作られている.必要に応じて,それぞれの生理学や生物化学との関連から臓器や器官系の生物学について考察を加え,その後に,それらを構成する個々の細胞や組織の役割についての情報を記した.
本書のような書籍を読むことは,組織学に習熟するための極意があるとすれば,ほんの一部にすぎない.顕微鏡で切片を調べたり,デジタル画像を研究したり,さらには観察対象が何でありどのように機能するのかを見つけたりするときにこそ,あなたの知識が真に試される.もし本書がそうした成果を挙げるために少しでもお役に立つのであれば,生物医学教育への貢献という本書の目標が成就するであろう.
2009年 JB Kerr
謝辞
私が大いなる意欲をもって本書の改訂と刷新に取り組むことができたのは,研究助手や大学院生,博士研究員の諸君とともに日々研究に従事したことに加え,医学および科学を学ぶ学生たちを教える中で貴重な影響を受けたためだ.毎週誰かが常識をはるかに超える質問を投げかけてきた.この点で,彼らの探究心は,標準的な教科書を調べるだけでは見つからない,最新の文献の中に見出されるべき答えを探すための刺激の役割を果たした.答えは原著論文や最新のレビュー論文の中で見つかることもある.「今,目にしているものは何ですか」「この機能は何ですか」といった質問に答えようとするなら,十分に情報を得ておくことが求められるのだ.この意味で,私は上に挙げたすべての諸君に感謝したい.
多数の図版を同僚の研究者や科学者の方々が提供してくださった.惜しみなくご協力くださるとともに,図の出典をご教示くださったことに御礼申し上げたい.表紙の画像は,Olympus Australia社のRishi Raj氏から快くご提供いただいた.
第2版を出版する機会を与えてくださった出版社,Elsevier Australia社に御礼申し上げる.Helena Klijn氏と助手のCarol Natsis氏は不断の努力を発揮して,テキストと図版を整理し,見事なページデザインに仕上げてくださった.このことがどれほど助けになったかわからない.お力を貸していただいたことに感謝を申し上げたい.
最後になるが,家族の支えがなかったなら,本書の改訂作業は終わる見込みすら立たなかっただろう.マーリーンとジェイミーへ,忍耐と理解を示してくれたことへの感謝の気持ちを,ここに記す.
2009年 JB Kerr
機能組織学とは,近年,進歩の著しい分子生物学によってもたらされた新たな分子や考え方を取り入れた融合学問,すなわち,機能面に立脚した組織学である.
著者のKerr博士によって単独で執筆された本書は,ほかの教科書にはない独特の理念とスタイルで貫かれている.
その特徴の1つは,学習者がどのような考え方で組織学を学べばよいのかについて,一種の物語的,小説的な流れに基づいて執筆されたテキストブックだということである.暗記を得意とする学生には向いていないような書き方に,違和感を覚える読者も多いかも知れない.各章にリズミカルに流れるような文体で記載されている文字の配列は,考える読者を意識したようにも思える.組織学を学ぶ「極意」といった原理原則を基軸に説明文は記載されている.
2つ目の特徴は,従来の紋切り型の組織学標本に加えて,新しい技術によって得られた標本を相当の数,加えていることである.組織標本を見ながら,分子機能の話をイメージしなければならなかった旧来型組織学では,組織の形態と,それを足場に繰り広げられている分子活動の動態とに乖離があった.組織は組織,分子は分子であるというのが従来の組織学テキストであったと言えよう.それを,このテキストは挑戦的に融合させるべく,蛍光写真を随所に取り込ませながら,分子機能と組織とを融和させているのである.したがって,従来の標本では見ることのできなかった,組織や細胞で繰り広げられている現象を,本書を見ることで,より進化した組織学が習得できるように企画されている.
単独の著者による,偏向した考え方や表現も数ヵ所認められるが,訳者の方々の努力によってその点は補われている.
現代はグローバルな時代である.英語が一般的な国際共通言語となされてきている昨今,日本語のみのテキストは,日本をいわば鎖国に追い込むことにもなりかねない.そのようなこともあって,本書においては基本的な英語はできるだけ残すようにした.
用語は,解剖学用語集を中心に採用したが,細胞生物学や分子生物学の領域で多用されているものも採用した.分子はカタカナ表記によっているため,従来の組織学の教科書に比べ,カタカナ部分が多いのは本書の性格による.
本書の翻訳にあたって,分担していただいた先生方に心から謝辞を申し上げる.本書によって日本の組織学を学ぶ,医学,歯学,薬学を専攻する学生に加え,生命科学を専門とする学生の若い頭脳が触発され,人体をはじめとする生き物の組織への理解が進めば,監訳者としてのこれ以上の喜びはない.
翻訳者を代表して
2012年12月10日
河田 光博
原著の序
本書第2版の改正・改訂作業では,生物医科学の最新の文献報告にみられる進展に基づき,組織・細胞生物学の分野における新たな知見を必要に応じて追加した.組織学は今もなお,医師やコメディカルの教育訓練における重要な要素の1つであるが,それは単独の教科として教えられるよりも,大きなカリキュラムに組み込まれていく状況が増えている.しかし,組織学的に重要な概念やその細部を教示することは,簡単に断片化したり組み立て直したりできるものではない.例えば,特定の症例研究や症例シナリオなどの学習教材には馴染まないものである.したがって,本書の各章では,基礎医学で用いられてきた伝統的なアプローチにならい,機能性の観点からみた組織学的知見を説明した後に,それを特定の組織や臓器系に関連づけていく手法をとる.
組織学の知識は,医学/歯学/獣医学の課程で病理を学ぶための土台となるが,組織学は生物医学領域の基礎研究に従事する学生や大学院生,そして博士研究員にとって,ますます重要なものになっている.健常な状態および実験的に変化を導入した状況において細胞や組織の表現型を同定することは,機能の解明にとって不可欠であり,出生前・出生後の発生について学ぶ上でも同等に重要である.本書の第2章は,こうした必要に応じることを意図している.
この新版は全体として,医療従事者にとって必要な生物科学の領域に興味をもつ人々,そして,ともに新たな発見を成し遂げ,細胞や組織の機能についての知識を進展させていく学術研究分野に身を置く人々のために作られている.必要に応じて,それぞれの生理学や生物化学との関連から臓器や器官系の生物学について考察を加え,その後に,それらを構成する個々の細胞や組織の役割についての情報を記した.
本書のような書籍を読むことは,組織学に習熟するための極意があるとすれば,ほんの一部にすぎない.顕微鏡で切片を調べたり,デジタル画像を研究したり,さらには観察対象が何でありどのように機能するのかを見つけたりするときにこそ,あなたの知識が真に試される.もし本書がそうした成果を挙げるために少しでもお役に立つのであれば,生物医学教育への貢献という本書の目標が成就するであろう.
2009年 JB Kerr
謝辞
私が大いなる意欲をもって本書の改訂と刷新に取り組むことができたのは,研究助手や大学院生,博士研究員の諸君とともに日々研究に従事したことに加え,医学および科学を学ぶ学生たちを教える中で貴重な影響を受けたためだ.毎週誰かが常識をはるかに超える質問を投げかけてきた.この点で,彼らの探究心は,標準的な教科書を調べるだけでは見つからない,最新の文献の中に見出されるべき答えを探すための刺激の役割を果たした.答えは原著論文や最新のレビュー論文の中で見つかることもある.「今,目にしているものは何ですか」「この機能は何ですか」といった質問に答えようとするなら,十分に情報を得ておくことが求められるのだ.この意味で,私は上に挙げたすべての諸君に感謝したい.
多数の図版を同僚の研究者や科学者の方々が提供してくださった.惜しみなくご協力くださるとともに,図の出典をご教示くださったことに御礼申し上げたい.表紙の画像は,Olympus Australia社のRishi Raj氏から快くご提供いただいた.
第2版を出版する機会を与えてくださった出版社,Elsevier Australia社に御礼申し上げる.Helena Klijn氏と助手のCarol Natsis氏は不断の努力を発揮して,テキストと図版を整理し,見事なページデザインに仕上げてくださった.このことがどれほど助けになったかわからない.お力を貸していただいたことに感謝を申し上げたい.
最後になるが,家族の支えがなかったなら,本書の改訂作業は終わる見込みすら立たなかっただろう.マーリーンとジェイミーへ,忍耐と理解を示してくれたことへの感謝の気持ちを,ここに記す.
2009年 JB Kerr
監訳者の序
原著者の序
謝辞
1 細胞
2 様々な組織の起源
3 血液
4 上皮組織
5 結合組織
6 筋組織
7 神経組織
8 循環器系
9 皮膚
10 骨格系
11 免疫系
12 呼吸器系
13 口腔・歯と唾液腺
14 消化管
15 肝臓,胆嚢,膵臓
16 泌尿器系
17 内分泌系
18 女性生殖器系
19 男性生殖器系
20 特殊感覚
付録:染色
索引
監訳者略歴
原著者の序
謝辞
1 細胞
2 様々な組織の起源
3 血液
4 上皮組織
5 結合組織
6 筋組織
7 神経組織
8 循環器系
9 皮膚
10 骨格系
11 免疫系
12 呼吸器系
13 口腔・歯と唾液腺
14 消化管
15 肝臓,胆嚢,膵臓
16 泌尿器系
17 内分泌系
18 女性生殖器系
19 男性生殖器系
20 特殊感覚
付録:染色
索引
監訳者略歴