やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第8版の序
 『臨床調理』は,1998年に初版が発刊されてから版を重ね,四半世紀にわたって続くロングセラーの専門書籍です.本書では,疾病の改善や重症化予防を目的に,疾病の種類や症状に合わせて,エネルギー量や特定の栄養素量の増減,摂食嚥下機能に対応する具体的な調理技能や考え方などを解説しています.さらに,食の喜びを味わえる食事を目標に,適切な食事計画の考え方や手法,時代に即した最新情報について丁寧に更新を重ねて提示していることも特徴です.発刊当初は,実務につく管理栄養士・栄養士の方々に治療食や疾病予防を目指すための基本的指針として活用いただくことを願って執筆され,現在では特に初任者にとってバイブル的な存在であり,さらに近年では,管理栄養士・栄養士養成のテキストとしても数多く採用いただいています.
 初版から長年本書の執筆・編集にご尽力くださいました玉川和子先生,口羽章子先生よりバトンを引き継ぎ,この第8版からは市川と小林で本書編集を担当させていただくこととなりました.先生方が,後進育成のために情熱をもって取り組まれた本書の理念やこころざしは,初版からと一切変わりなく今後も大切に引き継いでいく所存です.
 第8版では,上述の考え方のもと,目次や概要についてこれまでの内容をすべて踏襲しています.そのうえで各種診療ガイドラインなどを最新情報へ更新し,また日本人の食事摂取基準(2020年版)や日本食品標準成分表2020年版(八訂)に準拠し,すべての数値を見直しています.そして,「臨床調理の基本」の章の総論部分や,「臨床調理の実際」の章の「7.その他の栄養素と調理」の節では新しい情報を織り込んで再構築し,本文および図表を刷新しました.また,全体のビジュアルを新たにし,これまで以上にわかりやすくなるよう仕上げています.
 今後も,本書が管理栄養士・栄養士を目指す方々にとって,現場で実務につく方々にとって,お役に立つことができれば,望外の喜びであります.
 最後に,本書出版にあたり終始ご協力いただきました医歯薬出版編集部のみなさまに心から感謝申し上げます.
 2023年2月
 編者 市川菜々 小林ゆき子


初版の序
 今日,臨床栄養学関連の研究が進展し,人の健康と食との間に強い相関関係のあることが認められている.とくに疾病発症のメカニズムが解明されるにつれ,人の長いスパーンの食生活のありようが疾病の危険因子となりうることを,われわれは知るところとなった.
 このことは人が健康的に老いるためのQuality of Life実現のために,または疾病をもっている場合であっても,食生活のあり方が人にとっていかに重要であるかを物語っている.
 食生活は通常,食事計画,食品の選択,調理操作,食卓構成などの一連の工程を含む技術としてとらえられているが,それらは,人間の五感のすべての知覚との関わりによってはじめて好みにあったおいしい食べ物としての価値が生ずるものである.この一連の技術を科学的,文化的に追究する総合科学が広義の調理学の対象であることはすでに知られているところである.
 一方,臨床栄養の管理は,栄養成分別管理方式であろうと疾病別管理方式であろうと,栄養成分の量の増減や質の交換によって,食事計画やマニュアルがつくられている.
 本書は,栄養成分の増減について,各栄養成分別にコントロールする方法を具体的に示し,さらに減塩食,軟菜食,摂食障害時の食事についても,その基本を調理学の視点に立って編集した.また,食事計画の手順を各コントロール食別に解説し,さらに基本献立から各コントロール食への展開の方法を示すことにより,その特徴を理解しやすくするように努めた.
 食事計画は,栄養を食品に転換し,献立・調理というように一連の工程から成り立っている.本書ではこの工程のなかから各コントロール食の特徴をよく理解し,その上に立って,献立・調理を取り上げるようにしたものである.ややもすると治療食を栄養成分の増減にまかせがちになることから,この領域に重点を置くことにした.
 臨床調理は栄養・食品・調理形態や調味に制約があるので,一般の調理とは異なる特有の調理の理論があり,科学があるはずである.このことを十分に理解しなければおいしく食べることができないし,治療効果も上げることができない.食べる人の立場に立った治療食のノウハウを示したつもりである.
 このような視点に立って臨床時の食事の考え方を「臨床調理」と命名し,私どもは本書を構成することにした.
 計画から今日まで相当の月日を要したが,発刊の運びに至ってもまだ目的の入り口という感は免れない.どうか諸先輩,皆様方の率直なご指摘やご批判をお願いいたしたく,切に望むしだいである.
 おわりに,本書出版の機会を与えてくださった医歯薬出版株式会社および編集部の皆様に深甚の謝意を表したい.
 1997年12月
 筆者一同
臨床調理の基本
 1 臨床における栄養管理の考え方
   患者の栄養状態の改善はなぜ必要なのか?
   臨床における栄養管理とは
   患者に適した栄養補給法とは
 2 臨床調理がめざすもの
 3 臨床調理の考え方
   おいしさの基本条件
   食行動を左右する要因
 4 臨床調理の食事プラン
   献立の立て方
臨床調理の実際
 1 エネルギーコントロールのための調理
  エネルギーバランス食(基本食)
   考え方
   食品の選び方
   食事計画と献立の実際
  低エネルギー食
   考え方
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
   食事計画と献立の実際
 2 脂質コントロールのための調理
  低脂質食(脂質の量を減らす場合)
   考え方
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
   食事計画と献立の実際
  脂質の質のコントロール食
   考え方
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
   食事計画と献立の実際
 3 たんぱく質コントロールのための調理
  高たんぱく質食(たんぱく質を増やす場合)
   考え方
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
   食事計画と献立の実際
  低たんぱく質食(たんぱく質を減らす場合)
   考え方
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
   食事計画と献立の実際
 4 食塩を減らすための調理
   考え方
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
 5 軟菜食のための調理
   考え方
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
 6 嚥下調整食のための調理
   考え方
   食品の選び方と食形態
   調理上の注意と工夫
   料理例
 7 その他の栄養素と調理
  カルシウム
   カルシウムの働き
   カルシウムと疾患との関わり
   カルシウムの望ましい摂取量
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
   料理例
  鉄
   鉄の働き
   鉄と疾患との関わり
   鉄の望ましい摂取量
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
   料理例
  カリウム
   カリウムの働き
   カリウムと疾患との関わり
   食品の選び方および調理上の工夫
  食物繊維
   食物繊維の働き
   食物繊維と疾患との関わり
   食品の選び方
   調理上の注意と工夫
   料理例

 付表
  付表1 基本食(例1)の食品構成
  付表2 基本料理からの各コントロール食への展開
  付表3 料理の種類と配合調味例
  付表4 食品群別荷重平均成分表
  付表5 日本人の食事摂取基準(2020年版)による各栄養素量
 参考文献
 索引