やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序
 平成18(2006)年4月に介護保険制度の大きな改正が行われた.これまでも平成12年4月からの制度施行以降,何度も見直しが行われてきたが,今回の改正は「介護予防」という新たな考えかたのもと,大きな変化をもたらした.
 しかし,改正について,詳細にご本人,ご家族,そして,現場でサービス提供を担っているすべての訪問介護員に対して,統一された制度説明や教育の機会はなかった.このような状況下において,訪問介護サービス提供責任者や介護支援専門員らが十分にその改正の方向性や理念をふまえず,形だけの説明に終始した場合,混乱はサービス提供場面に残されたままであったといわざるを得ない.
 とくに要介護度1や要介護度2と認定をされて,すでにサービス利用されていた方々にとって,「介護予防」という認定結果を受け取ったことで,自身の暮らしに変化がないのに,そのサービス利用のありかたが大きく変わることが混乱をもたらした.
 このようなときに,訪問介護サービス提供責任者として,誰にどのように関与すればよかったのだろうか.ご本人,ご家族に対して,介護支援専門員に対して,そして現場でサービス提供を行っている訪問介護員に対して,訪問介護サービス提供責任者は,具体的に何を伝えるのかについては,その実務の大きな割合を占めることを自覚する必要がある.
 また,平成18年に高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律が施行されたことで,訪問介護サービス提供責任者の訪問介護員への教育のありかたも,さらに重要な視点が加わったといえる.
 しかしながら,介護保険制度において,訪問介護が目指す考えかたは,その第一条 尊厳の保持に始まり,その運営基準に示されているように,それぞれのご本人の状態や暮らしにあった「自立」をできるかぎりその居宅において,支援することに変わりはない.
 今回改訂の機会をいただいたわけだが,今回も初版時からお伝えしたいことに変化はない.制度の改正にあわせ,一部事例を見直したが,訪問介護サービス提供責任者は,詳細に区分けされた介護度に振り回されず,サービス提供場面時のみに,着目するのではなく,制度全体のなかで,サービス提供責任者が何を行うのかについて,また介護支援専門員らとともにご本人の暮らしを支えるチームの専門家が,その理解をする一助になれば幸いである.

 2008年3月
 有限会社 たむらソーシャルネット

第2版の序
 2000年4月1日に始まった介護保険制度の見直しが,2003年4月1日に実施された.訪問介護に関する報酬の見直しも行われた.また,介護保険制度4年目を迎え,苦情受付のシステムもしだいに整えられつつある.そのなかで,「訪問介護」に関する苦情も数多く寄せられるようになってきた.それらの「苦情」は,いくつかに分類できる.
 (1) 「契約時」の説明に関するもの:たとえば,できること,できないことを利用者がきちんと理解しないままサービス提供が開始されたことに関する「苦情」.
 (2) サービス内容と「類型」との関係に関する説明:たとえば,利用者側が理解した内容や時間配分,自己負担額と実際が異なるという「苦情」.
 (3) 訪問介護員の言動に関する「苦情」:たとえば,訪問介護員の「言葉づかい」が乱暴で,利用者が不快に感じたという「苦情」.
 現実にはさまざまな「苦情」がまだまだ寄せられている.その「苦情」受付の形態も,「サービス提供事業所」に直接寄せられるものもあれば,「国民健康保険団体連合会」「行政担当課」「都道府県社会福祉協議会」へ寄せられるものもある.すでに報告書という形式で公表されているものも少なくない.
 これらの「苦情」を引き起こすかどうか,あるいは未然に防ぐことができるかどうかを担う位置にあるのが「サービス提供責任者」といえる.サービス提供事業所として,利用者や介護支援専門員に最初に出会う「サービス提供責任者」がどのような人材かが重要になってくる.なぜなら,「苦情」の多くが「相手が理解できるように説明」することで十分防ぐことができる内容のものが多く,その「説明」をする役割にある人が「サービス提供責任者」であるからだ.
 介護保険制度の見直しにより,「類型」とサービス内容の整理がされたといわれても,利用者の生活のなかに入ってサービス提供をする「訪問介護」の「できること」「できないこと」の線引きを,きちんと利用者が納得し理解するまで説明するためには,知識と技術が不可欠である.もちろん,訪問介護員の質に関する「苦情」もあるように,人材教育に関係した知識・技術も不可欠である.いずれにしても,一人ひとり異なる価値観のなかで生活されている利用者の生活を支援するという点において,専門職としての「職業倫理」が求められることはいうまでもない.
 今回,介護保険制度の見直しの時期にあたり,本書を改訂する機会をいただいたが,改訂の対象は,あくまで制度の見直しに関する箇所である.介護保険制度施行後の経過から,より具体的に紹介できるよう配慮をした.あらためて初心に戻り,「訪問介護サービス提供責任者」とは具体的に何をする人なのかを,サービス提供者自身,介護支援専門員,管理者ら周囲の関係者の皆様が,再確認するさいに役に立つ一冊になれば幸いである.

 2004年1月
 有限会社 たむらソーシャルネット

はじめに
 介護保険制度が始まり,多くの問題が見えてきた.訪問介護員(ホームヘルパー)にかかわる問題も少なくない.同時に制度の仕組みに対する理解は進みつつある.しかしながら,在宅生活を支えるサービスの要である訪問介護サービスの仕組みや内容は,いまだ十分に共通理解が得られたとはいいがたい.その仕組みや具体的なサービス内容について,まだまだ誤解や情報不足などがあるという事実は否定できない.
 今回,訪問介護サービス提供責任者に焦点をあて,その役割と実務をあらためて整理することに努めた.なぜなら,訪問介護サービスに関する要望が多いなか,その仕組みやサービス内容が,介護支援専門員(ケアマネジャー)はじめ関係機関からも,さらには利用者や住民からも十分な理解が得られているという状況に至っていない.その一方で,さまざまな分野から新規参入が行われ,あるいは撤退していく事業者も出現している.このようななかで,要介護者はじめ介護者は,十分に「良質な訪問介護サービス」を利用することができているとはいいがたい.
 いま,あらためて継続的に,地域のなかで「良質な訪問介護サービス」を提供し,選ばれる事業者を目指して,事業者の方向性を担っていくための要であるといわれている「訪問介護サービス提供責任者」の役割と現実の実務について,できるかぎり具体的に修得できるように努力をした.とくに後半では,現任の訪問介護サービス提供責任者が集まったグループワークのなかで,何が課題であるのかということについて議論したことについてもふれている.同時に介護支援専門員からの「居宅サービス計画書」を,いかに実践のための個別の計画化を行い,事業所内でよりよいサービス提供のための工夫を行っているかを,取り組みの実例で紹介してみた.
 訪問介護サービス提供者ご自身はもちろん,事業所管理者の方々,介護支援専門員はじめ関係者の皆様が,訪問介護サービス提供時に活用していただく一冊になれば幸いである.

 2001年6月
 企画編集 有限会社 たむらソーシャルネット
 第3版の序
 第2版の序
 はじめに
1章 訪問介護事業所サービス提供責任者の役割(杉村和子)
 介護保険事業の指定
 厚生労働省令に基づく訪問介護
 おわりに
2章 訪問介護事業所サービス提供責任者として把握すべきこと(田村満子)
 利用者との関係をどう結ぶべきか
 中立的かつ客観的な判断力に基づいた利用者とのかかわり
 訪問介護事業所管理者との関係
 利用者との関係
 訪問介護員との関係
 介護支援専門員との関係
 利用者への権利侵害に対する認識
 アセスメント力の重要性
 家族との関係
 周辺機関や地域との関係
 サービス提供責任者自身として
3章 訪問介護事業所サービス提供責任者の実務(末長秀教)
 介護支援専門員からのサービス提供依頼
 サービス提供の照会(打診)
 サービス提供依頼への対応
 サービス提供困難時の対応
 サービス担当者会議
 介護支援専門員との関係
 利用者への説明と理解の確認
 サービス提供の事前訪問
 訪問介護サービスについて利用者の認識の確認
 具体的でわかりやすい重要事項の説明と契約
 訪問介護計画(個別援助計画)の作成と説明
 訪問介護員との連絡調整
 担当訪問介護員の選択と利用者についての情報伝達
 担当訪問介護員からのモニタリング
 苦情受付
 介護保険給付管理業務
4章 システムを理解する─サービス提供責任者として知っておくべきこと(三木一雄)
 情報公開
 苦情対応システム
 介護保険制度下でのリスクマネジメント
 研修体制の確保
5章 訪問介護事業所サービス提供責任者の計画作成のための基本的事項と訪問介護事業における課題
 整理(新崎国広)
 個別援助計画を立てる前に知っておきたい
 ソーシャルワークの基本的事項
  個別化
  社会関係障害「3つの障害」の構造
  自立支援
  コミュニケーションの重要性
  よりよい援助を行うためになぜ援助原則が必要か
 具体的な研修の進めかた
 これからの研修のありかた
演習 『訪問介護事業所サービス提供責任者の計画作成』
 訪問介護事業所サービス提供責任者の役割
 ケアマネジメントの概要とその必要性
 ケアマネジメントにおける訪問介護員の役割
実践編 『訪問介護計画(個別援助計画)の展開』
 訪問介護サービス提供責任者の皆様へ
 ケアプランの策定からサービス実施まで
 新人訪問介護員研修カリキュラム
 計画作成からモニタリングまで
 訪問介護計画 書式例
 要支援1
 要支援2
 要介護1
 要介護2
 要介護3
 要介護4
 要介護5
資料編 『関係法規等』
 指定居宅サービス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準(抄)
 指定介護予防サービス等の事業の人員,設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準(抄)
 指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について(抄)
 福祉サービスの質の向上に関する基本方針
 モデル訪問介護サービス契約書(案)
 モデル重要事項説明書(案)
 「福祉サービスにおける第三者評価事業に関する報告書」について
 第三者評価基準
 利用者の認識の把握手法について
 「介護サービス情報の公表」制度の施行について
 改正介護保険制度の概要
 平成18年度介護報酬等の改定の概要