やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 リザ・ギブソンリザ・ギブソン記念基金創設者
 この本を手にする多くの人はまず驚くと思います.恐れを抱くというわけではなく,アルツハイマー病がどのような病気で,それは誰にでも起こりうるということに気づくからです.
 この,まるで凶悪なテロリストのような病気は,誰にでも起こりえますし,私たちの脳内に勝手に侵入し,私たちの生活を一変させてしまうのです.団塊の世代はそろそろ自分の死について考え始める頃ですが,誰も自分の弱さをさらけ出してしまうようなアルツハイマー病にはかかりたくないでしょう.
 幸いにも,私たちはその病気に対して何もできないわけではありません.
 私の祖母はアルツハイマー病によって亡くなりました.そして母もまた徐々に記憶力が障害されていきました.母は完全に記憶を失う前に,自分の病気の経過を教育のために役立つよう伝えるように私に頼みました.そのときには,むしろ疑問を抱いたものです.母は祖母の告別式で,自分にどんな運命が待っているかを考えながら,顔を覗き込んでいました.私は母を見て,不思議に思ったものです.私の子どもはどうなるのだろう?私の運命はどうなるのだろう?母の次は私が記憶を失うのだろうか?私の三人の子どもが,私が記憶をなくすかどうかを尋ねたとしたら,正直なところ私はわからないと答えると思います.
 本書の著者であるウィリアム・ロドマン・シャンクル博士とダニエル・エイメン博士のお陰で,自分の病気への危険性を理解しきちんと管理することができるということを知りました.あなたの家族にアルツハイマー病や認知症の方がいようがいまいが,目標は脳を強く健康に保つことにあります.
 この本には,大事な記憶を失うため,いつもの生活ができなくなってしまうアルツハイマー病を予防し,その発症を遅らせるためのすべての方法が記載されています.
 世の中には,あり余る情報や誤った情報があふれているため,多くの人が困惑しがちですし,この病気を知ろうとする私たちのような人にとっては失望する情報がたくさんあります.しかしこの本では,特定の栄養補助食品(サプリメント)やダイエットに至るまで,いくつかの予防法が紹介されています.さらに何をどの程度どの段階で摂取するべきかという情報が非常にわかりやすく書かれています.この病気についてよく耳にする質問に対し,簡潔で正確な答えが用意されているのです.
 私たちは十分な準備もできないまま時代の波に流されています.ロナルド・レーガン大統領の場合でさえそうだったように,家族のなかにアルツハイマー病をかかえた人たちは,金銭的にも精神的にも感情的にもかなり無理をして何とかしようとします.そして,この「もの忘れ病」の方が家族内にいることへの恥ずかしさは,依然として強いのです.このようにアルツハイマー病は,患者本人だけでなく家族全員を疲労困ぱいさせてしまいます.
 私がリザ・ギブソン記念基金を立ち上げたのは,このようなわけがあってのことです.私たちの家族は,母がアルツハイマー病と診断を受けたとき,その恐怖で全身から力が抜けたようになりました.当時,私たちが本当に必要とする助けやサポートを見出すことは困難で,「どうしたらいいか?」わからなかったものです.
 私たちは同じような状況の家族を手助けしたいと思いました.認知症として新たに診断された方やその家族のために,安心して入ることのできるコミュニティセンターである「リザプレイス」を,治療や介護を目的に創設したのです.それは苦悩のどん底にある家族に,病気について多くのことを知ってもらい,前向きに取り組む姿勢を喚起させる場となったのです.
 (訳注:「リザプレイス」は,アルツハイマー病とその類縁疾患の患者,家族のために設立されたコミュニティで,医療福祉活動は勿論,多くの正確な情報,社会的サポートを提供しています)
 そのような前向きなコミュニティでの生活のなかで,私は母の愛と彼女の精神力を垣間見て,ただただ感心したものです.彼女は,自分の生い立ちを私に尋ね,それを覚えようとしました.いつもリザプレイスでは他の家族の方に助けられ,私がどうすべきかを教えてもらったものです.母の病も今となっては末期となりましたが,母を見るといつも私は,母との約束を守るため,最善をつくそうと思うのです.
 リザプレイスでの私たちの信条は,早期診断をすることです.ここでは,ほんのささいな記憶障害を発見するため,基礎的読解力を評価する検査を行っています.伝統的な治療法に加え,その他の最新の治療法を伝えられると考えています.厄介な病気に,前向きに対処できると信じています.そして,診断を受けた患者とその家族の双方をサポートできると信じています.
 そのようなわけで,シャンクル博士とエイメン博士の仕事に感銘を受けました.彼らは,世界的に名高い科学者であると同時に,親切で心の優しい医師で,この病気に果敢に取り組み,家族とも親身に交わり,いつかは治すことができるという奇跡を信じています.この二人の博士は,筋の通らないことは口にせず,絶望という暗黒の世界に対し,希望を導こうとしています.
 母は,私が幼い頃,寝るときにはいつも背中をさすり子守唄を歌ってくれました.母の好きな歌は,『ケセラセラ』で,優しい歌声でした.今となっては,考えられないことですが.
 適切な言葉はいつも私に力を与えてくれます.もちろん,将来,何が起こるかわからないし,未来がどんなものなのか予測なんて到底できるものではありません.
 この本を読むことによって,未来を変えるための明らかな方法があるわけではありません.ただ,以前より熱心に,重要なことは何かを考えることでしょう.人がゆっくりと年齢を重ねるということに気がつくことが大事なことなのです.年齢を重ねれば,筋肉,皮膚,記憶力ともに衰えますし,人生に終わりはつきものです.
 私たちは,大切にしてきたモノ,愛した追憶,訪れたところ,この地球上のどこかで自分の魂を永遠に置いておきたいと感じたモノ,そういったモノを心の奥にしまい込んでおきたいと感じているに違いないのです.そのようなことをしたいがゆえに,アルツハイマー病を解決しようとする底力を,この本から得られるかもしれません.
 執筆にあたり,ご尽力下さった,ダニエル・エイメン博士,ウィリアム・ロドマン・シャンクル博士に陳謝いたします.
 みなさま,読まれる際には,深呼吸をしてください.
 ・原著『PREVENTING ALZHEIMER'S』によせられた推奨のことば
 ・日本の読者へのメッセージ(原 淳子)
 ・序文(リザ・ギブソン)
第1章 認知症は予防ができる
 あなたができること
 最新の予防や治療には最新の情報が必要
第2章 脳の様々な機能
 神経細胞の活動
 それぞれの部位が担う役割
 前頭葉と前頭前野
 側頭葉
 頭頂葉
 後頭葉
 脳の健康維持には何が必要か
 脳神経細胞の誕生と死
 どのように疾患は脳機能を障害するのか
第3章 記憶を失う7つの原因
 どのように記憶障害が始まるのか?
 アルツハイマー病とその類縁疾患を早くみつけるには?
  パート1 脳変性疾患
  パート2 脳血管性認知症
  パート3 認知症の原因になりうる悪性腫瘍(がん)や抗がん剤
  パート4 頭部外傷による認知症
  パート5 感染や免疫が関与する認知機能障害
  パート6 アルコール関連認知症および他の毒素
  パート7 神経細胞の代謝に影響を与える疾患
第4章 自分自身の危険性を知ろう
 シャンクル-エイメン認知症早期発見質問表
 シャンクル-エイメン認知症早期発見質問表
第5章 認知症の危険性を減らす方法
 EBMレベル1:集団研究-最も信頼性が高い
 EBMレベル2:症例対象研究-2番目に信頼性が高い
 EBMレベル3:症例研究-3番目に信頼の置ける研究
 EBMレベル4:動物実験-4番目に信頼の置ける研究
 EBMレベル5:試験管内,細胞,組織での研究-最も信頼性が低い
 年齢・性別・遺伝的危険因子
 βAPP遺伝子,ダウン症候群とアルツハイマー病
 プレセレニン遺伝子(PS1とPS2)とアルツハイマー病
 環境的危険因子
 悪性腫瘍(がん)とその治療
 心血管病
 脳血管障害(脳の血管に異常がある人)
 教育と職業
 頭部外傷
 ホモシスチン
 ホルモン
 パーキンソン病
 てんかん,抗てんかん薬
 睡眠時無呼吸症候群
 喫煙
第6章 認知症を予防する方法
 アセチル-L-カルニチン
 アルコール
 αリポ酸
 アスピリン
 キャッツクロー
 コリン/レシチン
 コエンザイムQ10
 デヒドロエピアンドロステロン
 食習慣によるカロリー制限:オメガ3脂肪酸と抗酸化作用剤
 エストロゲン
 運動
 イチョウ葉エキス
 ヒト成長ホルモン
 メラトニン
 精神活動
 非ステロイド系抗炎症製剤
 ホスファチジルセリン
 スタチン
 ヴィンポセチン
 ビタミン
第7章 正確に診断する方法
 評価するに当たって
 薬物の問題
 身体所見
 検査
第8章 認知症の治療法
 早期の治療:一般的に推奨される事柄
 アルツハイマー病による軽症認知障害の治療
 脳血管性認知症に対する治療法
 軽度のレビー小体病を治療する
 軽度の前頭側頭型認知症の治療
 軽度の頭部外傷の治療
 うつ病による仮性認知症の治療
第9章 将来の治療法
 大網移植手術(2004年)
 シャント手術(2005年)
 遺伝子情報の今後(2005年)
 ワクチン(2008年)
 成長因子(2008年)
 神経新生(2009年)
第10章 介護者の方々へ
 まずは自分に酸素マスクを装着しましょう
 認知症の人を介護する
 団体,組織

 ・付録A:PreventAD.com
 ・付録B:必要な情報のみつけ方
 ・付録C:脳SPECT画像に関するよくある質問
 ・参考文献
 ・用語集
 ・予防・治療情報へのネットワーク
 ・予防に役立つ製品
 ・索引
 ・謝辞
 ・著者紹介
 ・訳者あとがき(石橋 哲)