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2025年版にあたって
 一般社団法人日本在宅ケア学会は,2022年に「エビデンスにもとづく在宅ケア実践ガイドライン2022」を策定・刊行しました.「エビデンスにもとづく在宅ケア実践ガイドライン2022」は,日本医療機能評価機構(Minds)によるAGREEII(The Appraisal of Guidelines for Research & Evaluation II,ガイドライン作成方法の厳密さと透明性を確保するためのツール)評価を受け,対象と目的,利害関係者の参加,作成の厳密さ,編集の独立性の領域の評価が高く,「さまざまな職種が関わる在宅ケアに関する重要な診療ガイドラインであり,他の診療ガイドラインの模範となる」という言葉をいただきました.
 ガイドラインは,作成時点におけるエビデンス(科学的根拠)や人びとの価値観,社会環境にもとづいて作成されています.エビデンスや人びとの考え,医療を取り巻く社会情勢によってその内容は変化しうるため,定期的に改訂し,最新の状態にしておく必要があります.2022年版のなかには,文献検索から5年以上経過しているものもあり,新しいエビデンスを探索し,時代の流れに沿ってガイドラインを改訂する必要がありました.
 「エビデンスにもとづく在宅ケア実践ガイドライン2025」は,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020」に従い,2022年版で取りあげた7項目の重要課題(在宅における食支援,訪問リハビリテーション支援,薬物管理,情報通信技術(ICT)を活用した支援,アドバンス・ケア・プランニング支援,家族支援,ケアマネジメント)についてエビデンスを更新してガイドラインを改訂すること,さらに在宅ケアにおける新たな重要課題として,包括的アセスメント,睡眠支援,認知症リハビリテーション支援の3項目を取りあげ,エビデンスを加えることとしました.
 計10項目の重要課題に対する臨床疑問(クリニカルクエスチョン)についての回答を得るために,網羅的に文献検索を行い,先行研究を収集しました.定められた手続きに従ってスクリーニングを行い,採択研究に対するシステマティックレビューとメタアナリシスを進め,在宅ケアに関するエビデンスをGRADEシステムを用いて評価し,推奨を作成しました.2022年版と同様に,日本在宅ケア学会理事会パネルによる投票を経て,市民の意見および日本在宅ケア学会会員の意見を収集し,最終化を行いました.
 文献検索の結果,ICT関連やポリファーマシー,アドバンス・ケア・プランニングなど,採択された研究数が増加しエビデンスを更新できた項目もありました.一方で,わが国で行われた在宅ケアに関するエビデンスレベルの高い研究は依然として非常に少ない状況でありました.今後,わが国からも質の高いエビデンスの発信が期待されます.利用者や家族の健康状態や生活状況が多様で個別性の大きい在宅ケアにおいて,本ガイドラインが,現場での判断や利用者・家族が望む在宅生活について一緒に考える際にご活用いただければ幸いです.
 最後に本ガイドラインの作成にあたり,文献検索にご協力をいただきました聖路加国際大学図書館司書の佐藤晋巨さん,佐山暁子さん,市民委員の坂川健さん,近藤和子さん,文献レビューにご尽力いただいたレビューチームメンバーの皆様,研究助成をいただいた一般社団法人看護系学会等社会保険連合様に厚く御礼申し上げます.
 2025年2月15日
 一般社団法人日本在宅ケア学会
 一般社団法人日本在宅ケア学会ガイドライン作成委員会
第1章 ガイドライン作成プロセス
 1.本ガイドラインの基本理念・概要
 2.システマティックレビューに関する事項
 3.推奨作成から最終化,公開までに関する事項
 4.ガイドライン作成体制に関する事項
 5.クリニカルクエスチョン(CQ)リスト
第2章 CQ別 在宅ケア実践一覧表
第3章 CQ1 在宅ケアにおける高齢者の包括的アセスメントの有用性
 1.在宅ケアにおけるアセスメントの目的
 2.在宅ケアにおけるアセスメント方法とケアの評価の視点
 3.包括的アセスメントの概要
  CQ1 在宅ケアにおける包括的アセスメントツールの活用は,高齢者の生活の質の向上に有用か?
   CQ1-1
第4章 CQ2 在宅高齢者への食支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.食支援の対象となる在宅高齢者の特徴
 2.食支援の対象となる在宅高齢者の介護者の特徴
 3.在宅高齢者への食支援の概要
  CQ2-1 身体機能低下を有する在宅高齢者への筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)とタンパク質強化型栄養療法による複合的介入は,骨格筋量,身体機能向上等に有用か?
   CQ2-1-1,CQ2-1-2,CQ2-1-3
  CQ2-2 在宅要介護高齢者を対象とした栄養に関する多職種介入のうち,栄養士による訪問栄養指導は,体重の増加,栄養摂取量の向上,身体機能の改善などに有用か?
   CQ2-2-1,CQ2-2-2,CQ2-2-3,CQ2-2-4,CQ2-2-5,CQ2-2-6
第5章 CQ3 睡眠支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.睡眠支援の対象となる在宅認知症高齢者の特徴
 2.睡眠支援の対象となる在宅認知症高齢者の介護者の特徴
 3.在宅認知症高齢者への睡眠支援の概要
  CQ3 認知機能低下のある高齢者を対象とした光介入は,夜間睡眠,睡眠・覚醒リズム,日中の覚醒の改善に有用か?
   CQ3-1,CQ3-2,CQ3-3
第6章 CQ4 訪問リハビリテーション支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.訪問リハビリテーションの対象となる在宅認知症高齢者・在宅脳卒中高齢者の特徴
 2.訪問リハビリテーションの対象となる在宅認知症高齢者の介護者の特徴
 3.在宅認知症高齢者・在宅脳卒中高齢者への訪問リハビリテーションの概要
  CQ4-1 在宅認知症高齢者を対象とした理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のいずれかによる訪問リハビリテーション介入は,日常生活活動(ADL)能力の向上,介護者の心理的側面の改善,認知症の行動心理症状(BPSD)の軽減に有用か?
   CQ4-1-1,CQ4-1-2,CQ4-1-3
  CQ4-2 在宅脳卒中高齢者を対象とした理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のいずれかによる訪問リハビリテーション介入は,身体機能の改善に有用か?
   CQ4-2-1
第7章 CQ5 通所施設における認知症リハビリテーション支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.認知症リハビリテーションの対象となる在宅認知症高齢者の特徴
 2.認知症リハビリテーションの対象となる在宅認知症高齢者の介護者の特徴
 3.在宅認知症高齢者への通所施設における認知症リハビリテーションの概要
  CQ5 在宅認知症高齢者を対象にした通所施設における認知症リハビリテーション介入は,認知機能,日常生活活動(ADL)能力の向上,認知症の行動心理症状(BPSD)の軽減,生活の質(QOL)の改善に有用か?
   CQ5-1,CQ5-2,CQ5-3
第8章 CQ6 多職種協働による薬物管理の臨床アウトカムへの有用性
 1.多職種による薬物管理の対象となる在宅高齢者の特徴
 2.多職種による薬物管理の対象となる在宅高齢者の介護者の特徴
 3.在宅高齢者への多職種による薬物管理の概要
  CQ6 地域在住高齢者を対象とした多職種による薬物管理の介入は,薬物処方数の減量,生活の質の改善,日常生活活動(ADL)能力の改善などに有用か?
   CQ6-1,CQ6-2,CQ6-3,CQ6-4,CQ6-5
第9章 CQ7 ICTを利用した支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.慢性閉塞性肺疾患,慢性心不全,糖尿病を有する在宅療養者の特徴
 2.慢性疾患を有する在宅療養者の介護者の特徴
 3.慢性疾患を有する在宅療養者へのICTを利用した支援の概要
  CQ7-1 在宅慢性閉塞性肺疾患(COPD)療養者を対象とした遠隔モニタリングと遠隔専門職支援で構成するテレヘルス(遠隔医療)は,定期診療などの通常ケアに比べて,ヘルスアウトカムの改善に有用か?
   CQ7-1-1,CQ7-1-2,CQ7-1-3,CQ7-1-4
  CQ7-2 在宅慢性心不全療養者を対象とした遠隔モニタリングと遠隔専門職支援で構成するテレヘルス(遠隔医療)は,定期診療などの通常ケアに比べて,ヘルスアウトカムの改善に有用か?
   CQ7-2-1,CQ7-2-2,CQ7-2-3,CQ7-2-4,CQ7-2-5
  CQ7-3 在宅2型糖尿病療養者を対象とした遠隔モニタリングと遠隔専門職支援で構成するテレヘルス(遠隔医療)は,定期診療などの通常ケアに比べて,ヘルスアウトカムの改善に有用か?
   CQ7-3-1,CQ7-3-2
第10章 CQ8 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の臨床アウトカムへの有用性
 1.アドバンス・ケア・プランニングを受ける在宅慢性疾患療養者の特徴
 2.アドバンス・ケア・プランニングを受ける在宅慢性疾患療養者の介護者の特徴
 3.在宅慢性疾患療養者へのアドバンス・ケア・プランニングの概要
  CQ8 在宅慢性疾患高齢者を対象とした専門職との討議によるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)は,終末期医療について主治医との討議の促進,事前指示書作成の促進に有用か?
   CQ8-1,CQ8-2
第11章 CQ9 家族支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.在宅認知症高齢者の行動心理症状の特徴
 2.行動心理症状を有する在宅認知症高齢者の介護者の特徴
 3.行動心理症状を有する在宅認知症高齢者と介護者への行動マネジメントの理解を促すことの概要
  CQ9 在宅認知症高齢者に生じる認知症の行動心理症状(BPSD)にあわせて,専門職が家族介護者に対応策や行動マネジメントについて理解を促すことは,在宅高齢者にとって有用か?
   CQ9-1,CQ9-2,CQ9-3
第12章 CQ10 ケアマネジメント支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.ケアマネジメントの対象となる在宅認知症高齢者の特徴
 2.ケアマネジメントの対象となる在宅認知症高齢者の家族介護者の特徴
 3.在宅認知症高齢者と家族介護者へのケアマネジメントの概要
  CQ10 在宅認知症高齢者と家族介護者を対象としたケアマネジメントは,生活の質(QOL)の向上,在宅療養の継続などに有用か?
   CQ10-1,CQ10-2,CQ10-3

 引用文献一覧
 巻末資料 市民版 根拠にもとづく在宅ケア実践ガイド2025