やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 私は開業鍼灸師として,女性の健康と自己実現をサポートするために,長年にわたって鍼灸治療を行ってきました.
 妊娠中の鍼灸治療に対する私の活動は,1990年に都内の助産院で助産師と共同で始めた「安産のための東洋医学教室」から始まります.その後,さまざまな産院やクリニックでお灸教室や母親教室を担当させていただき,多くの妊娠中の女性とかかわることができました.その経験のなかで,「つぼ」を伝えるだけでなく,妊娠中の身体の使い方や過ごし方に関心が向くようになりました.
 近年の少子化・晩産化の進行から,妊産婦のケアにおいてもメンタルヘルスケアや異常を予防することの重要性が強調されています.東洋医学では,病気に至る原因は日常生活の過ごし方にあるととらえています.妊娠期は,身体と心の変化が顕著であり,胎児の身体の基礎をつくる大切な時期です.その過程で発生する精神的なストレスや過労は,母子の身体の免疫力を低下させ,自然治癒力を減退させてしまいます.
 「身心一如」の医学といわれ,未病を重視し,できるだけ薬を使わずに自然治癒力を高める東洋医学は,妊娠期から授乳期にかけてのこの大切な時期においても大きな力を発揮するものと考えています.自然治癒力は,自然に身につくものではありません.自然治癒力を養うため自ら積極的に働きかけ,養生やセルフケアに努めることによって獲得できるものであり,出産に向けた準備が必要であることは,昔も今も変わることはありません.
 本書初版の発行から11年が経過しました.この間に,助産にかかわるさまざまなガイドラインが策定・改訂され,最新のエビデンスに基づいた手技が紹介されています.また,統合医療に関する情報も増加しています.本改訂版では,妊産婦さんをとりまく環境や最新のガイドラインにあわせて内容を更新し,鍼灸のエビデンスの現状も紹介しながら,助産師の方々や妊産婦さんにとってより活用しやすい内容となるよう心がけました.
 本書には,妊産婦さんに伝えたい東洋医学の知恵を盛り込んでいます.妊産婦さんに具体的なアドバイスができるもっとも身近な医療者は助産師さんです.女性があるがままの自己を受け入れ,母親としての自信をもちながら成長していく過程で,助産師さんの専門知識と経験に基づくケア,そして温かいサポートは欠かせません.
 本書が助産師の皆さまのスキル向上と妊産婦さんの不調や不安の緩和に向けた手引き書となり,幸せな妊娠・出産・産後を支える一助となれば幸いです.
 2024年1月 辻内敬子


助産師の立場から
 私は30年来,鍼灸師・辻内敬子氏とかかわり,助産院で毎月お灸教室を開催し,多くの妊産婦がお世話になりました.東洋医学を取り入れた妊産婦へのアプローチの方法は具体的で,すぐ実践へと結びつけられることに感動しました.「目から鱗」という表現がありますが,まさにそれです.
 本書は,妊産婦が自分の身体を知り,自分自身で自然治癒力を養うことを基本としています.
 女性にとって妊娠は,今までの生活を見直す良いチャンス.快適な妊婦ライフを経て,元気にお産をして,母子ともに健やかに過ごしたい.この思いは昔も今も変わらず,いつわりのない願いです.
 最近は,痛みのない分娩(無痛分娩)を希望する方が多くなっていると聞きますが,陣痛のつらさを乗り越える力や出産を乗り越えた達成感を妊産婦にどのように伝えるのか,これも助産師の力のみせどころではないでしょうか.
 本書は,妊娠期の身体づくりの方法やマイナートラブル・陣痛などの緩和法,母乳トラブル対応,産後養生まで,東洋医学の知恵を取り入れた予防法やケアをきめ細やかに学ぶことができる内容となっています.助産師は,自分自身の身体と心の健康管理ができてはじめて生命の尊厳に向き合った魂の入った技を発揮できるのです.助産力を高める意味でも,本書の活用をぜひお勧めいたします.
 2024年1月 豊倉節子
 はじめに(辻内敬子)
 助産師の立場から(豊倉節子)
第1章 出産準備教室に活かそう! 東洋医学の知恵と考え方
 1 触れること・聴くことから始めてみよう
 2 東洋医学を取り入れた助産ケアのポイント
第2章 東洋医学の基礎知識
 1 東洋医学の考え方
  1 身心一如
  2 陰陽五行説
  3 臓腑・経絡説
 2 東洋医学における病のとらえ方
  1 「未病」の概念
  2 病気を引き起こす原因
  3 東洋医学における診断と治療
 3 東洋医学における妊娠・出産の考え方
  1 7年周期で考える女性のライフサイクル
  2 妊娠・出産に関係の深い臓腑・経絡
  3 妊婦さんの元気が赤ちゃんの元気になる
  4 出産力を培うための「養生」の重要性
第3章 出産力セルフチェック
 1 「冷え」のセルフチェック
  1 身体に触れてチェックしましょう
  2 セルフチェックの方法
 2 「歩き方」のセルフチェック
  1 普段の歩き方を意識しましょう
  2 セルフチェックの方法
  3 冷えを改善し姿勢を整える歩き方
 3 「姿勢」のセルフチェック
  1 姿勢を意識して筋力をつけましょう
  2 セルフチェックの方法
  3 正しい姿勢・筋緊張のほぐし方
 4 「下半身の力」のセルフチェック
  1 日常生活のなかに体力づくりを取り入れましょう
  2 セルフチェックの方法
 5 「お腹の硬さと張り」のチェック
  1 自分のお腹に触れて健康レベルをチェックしましょう
  2 セルフチェックの方法
  3 助産師さんによるお腹のチェック
 6 出産力チェックリスト
  1 身体のチェックリスト
  2 心のチェックリスト
  3 気・血・水のチェックリスト
  4 環境のチェックリスト
  5 生活のチェックリスト
第4章 心身を調える養生とセルフケア
 1 古典に学ぶ 自然のリズムに合わせた過ごし方
 2 地の気で命を養う「食養生」のすすめ
  1 食養生のポイント
  2 体質・症状に合わせた食養生とアドバイス
 3 自然治癒力を高めるセルフケア
  1 丹田呼吸法・経絡法
  2 肩・背中のタッチング
  3 つぼ指圧・マッサージ
  4 温熱療法
  5 お灸
第5章 妊産婦さんのトラブル・症状別ケア
 1 消化器系の症状
  1 つわり(嘔気・悪心・胸やけなど)
  2 下腹部痛・お腹の張り
  3 便秘
  4 下痢
  5 痔
 2 泌尿器・生殖器系の症状
  1 頻尿
  2 帯下の増加・変化
 3 関節・運動器系の症状
  1 肩こり
  2 腰背部痛・骨盤帯痛
  3 足のけいれん・こむら返り
  4 手足のしびれ・手首の痛み
 4 全身性・精神神経系の症状
  1 疲労
  2 不眠
  3 不安
 5 循環器・血管運動神経系の症状
  1 貧血
  2 動悸
  3 めまい・立ちくらみ
  4 冷え・のぼせ
  5 むくみ
  6 足の静脈瘤
  7 妊娠高血圧症候群
 6 皮膚・口腔・感覚器系の症状
  1 皮膚のかゆみ・トラブル
  2 毛髪のトラブル
  3 唾液分泌の増加
  4 耳鳴り・耳閉感
 7 お産に伴う痛み・症状
  1 恥骨・足の付け根の痛み
  2 産痛(陣痛)
  3 微弱陣痛
  4 胎盤娩出・後陣痛
第6章 育児に向けた養生とケア
 1 東洋医学を取り入れた母乳育児支援
  1 妊娠中から始める身体づくり
  2 母乳育児に向けたサポートとセルフケア
 2 乳房トラブルへの対応
  1 乳頭部の痛み
  2 乳房の緊満感・張り
  3 乳汁分泌の低下
  4 乳汁分泌過多
  5 乳腺炎症状
  6 乳管の詰まり
 3 産後の養生の基本
  1 「産後の肥立ち」の過ごし方
  2 産後の食養生
  3 産後の回復は焦らず・無理せず
 4 産後の痛み・不快症状へのケア
  1 後陣痛
  2 会陰部痛
  3 骨盤痛
  4 肩こり
  5 腰痛
  6 膝痛
  7 頭痛
  8 不眠・睡眠不足
  9 寝汗
  10 めまい
  11 冷え
  12 むくみ
  13 抜け毛
  14 目の疲れ
 5 お母さんと赤ちゃんのスキンシップ─ 触れ合いのベビーマッサージ
  1 ベビーマッサージとは
  2 ベビーマッサージの利点
  3 ベビーマッサージの心得
  4 ベビーマッサージの進め方とポイント

 本書で紹介した つぼ一覧