やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
わが国の介護福祉士の養成教育が始まって10年目の現在,介護福祉士は養成校卒業者と国家試験合格者とで間もなく100,000人となる.今後は毎年20,000人程度の有資格者が輩出されていくものと考えられる.
この介護福祉士の働く場は,従来の特別養護老人ホームや身体障害者療護施設などに加えて,近年は老人保健施設や介護力強化病院などの医療施設に広がりをみせている.また「新高齢者介護システム」では在宅介護の重視があげられ,公的な介護保険制度においては,介護福祉士は医療の専門職と協同しての働きが必要とされてきている.この数年来の経過から,介護福祉士に期待される働きかたや,求められる能力が明らかになってきているように考えられる.
先に報告のあった旧文部省の21世紀医学・医療懇談会では,医学・看護・福祉教育の相互交流を進め,「介護のわかる医師」「医療のわかる介護者」を育てることを,医学・福祉教育のねらいとしている.
また,わが国が高齢社会からまもなく超高齢社会に移行するなかで,介護を必要とする後期高齢者の増加は,介護者が医療職との連携を緊密にするなかでこそ,利用者の生活の質を高めるサービスが行なわれることを示唆している.
一方,近年,介護福祉士の養成校が卒業生に行なったアンケート調査によると,「医学一般」の科目は,在学中に力を入れなかった科目の上位であるにもかかわらず,就職後は必要な科目として上位を占めている.
以上いくつかの観点から,現在もそして今後も介護福祉士には,人間理解の基本として「医学一般」を学ぶことから,利用者の健康上のニーズを適切に把握すること,病気や障害が利用者の生活に及ぼす困難を観察し考察すること,これらへの“気づき”を早期に医療に連携することを通して,利用者に質の高い介護を提供し,利用者の生活の質を高めていくサービス提供者となることが期待されている.

本書は,医学の専門分野から,順天堂大学医学部の富野康日己教授に編者および執筆者として,順天堂大学医学部の長岡正範教授に執筆者としてお加わりいただき,医学・医療の記述の正確をはかった.
そして,現在介護福祉士養成教育に当たっている教員が,学生たちに「医学一般」をむずかしい科目ではなくわかりやすいものにと,また介護福祉士の実践と常に関連をもたせられるようにと,そして学ぶことが楽しみになるテキストをつくりたいとの真摯な願いで執筆に当たってきた.
介護福祉士が「医学一般」として基本的に理解しておかなければならないことを,わかりやすい言葉や図・表などを用いて的確に伝え,また頁の左欄にKey Wordsを付けて,できるかぎり辞書を使わなくても学べるように配慮した.
新しい試みとして,病気や障害の専門用語にはふりがなを付けて学習の効果をはかり,また,病気や障害の理解から,介護を実践する際の観察のポイント,介護のポイント,介護記録のポイントを載せることで,介護実践と関連づけながら学べるように工夫した.とくに,「第7章 高齢者の機能と生活に問題を起こす病気・障害の理解と介護福祉士のかかわり」に重点をおき,介護の現場で必要とされる専門的な視点と対応を解説した.このことは,現場実習での疑問を,このテキストによって解決していけるものにしたいと考えて工夫したものである.
本書の意図としたことは以上のとおりであるが,多くの視点を組み合わせることは大変むずかしく,不十分であることは否めない.諸先輩の皆様からご指摘ご助言をいただければ幸いである.
本書が介護福祉士の養成校で学ぶ皆さんに,また施設介護,在宅介護の実践現場で働く介護福祉士の諸氏に活用され,利用者の生活の質を高めるサービスに貢献できることを願っている.
 1997年9月

[追記] 2000年4月からの新カリキュラム実施にともない,一部補充してその対応版をこころがけた.

[増補版の追記] 第1版第1刷を発行してから10年経過した.この間にも増刷の度にその時点における最新の内容になるよう手を入れてきたが,10年を契機に全体を見直し,増補版とした.各章末には,過去に実施された国家試験問題を入れることで,まとめの演習問題とした.
 2007年3月

吉田節子
 はじめに 吉田節子
第1章 医学一般の基本的理解
 I.介護福祉と医学・医療
  介護福祉・介護福祉士とは
  「求められる介護福祉士像」
 II.医学・医療を学ぶ目的
  人間理解・利用者理解の基本
  医療との連携
 III.医学・医療の基礎知識
  医学とは
  医療とは
  医学・医療の歴史
 IV.健康と病気
  健康とは
  病気とは
 V.急性疾患と慢性疾患
  急性疾患とは
  慢性疾患とは
 VI.こころの問題
 VII.介護・看護・リハビリテーション
  介護とは
  看護とは
  介護と看護の関連
  リハビリテーションとは
第2章 人のからだの仕組みとはたらき
 I.人のからだの仕組みとはたらき
  脳神経系
  成り立ちとはたらき 病気とのかかわり
  循環器(血管)系
  成り立ちとはたらき 病気とのかかわり
  呼吸器系
  成り立ちとはたらき 病気とのかかわり
  消化器系
  成り立ちとはたらき 病気とのかかわり
  泌尿・生殖器系
  成り立ちとはたらき 病気とのかかわり
  内分泌系
  成り立ちとはたらき 病気とのかかわり
  皮膚・感覚器
  成り立ちとはたらき 病気とのかかわり
  骨と関節
  成り立ちとはたらき 病気とのかかわり
  国家試験問題から
 II.人のからだの病理学的特徴
  炎症とは
  変性とは
  腫瘍とは
  熱傷(火傷)とは
 III.人のからだの微生物学的特徴
  感染と感染症
  消毒法の基本
  感染予防の基本
 IV.男性と女性の特性
  男性の特性
  女性の特性
 V.ライフステージにおける心身の変容
 VI.老年期の生理的特徴
  生理的老化
  病的老化
  国家試験問題から
第3章 病気・障害とは何か
 I.病気・障害の発生
  健康と生活
  病気(疾患)・障害とは何か
  病気・障害の発生のメカニズム
 II.バイタルサイン
  脈拍
  呼吸
  体温
  血圧
  意識レベル
  国家試験問題から
 III.検査と診断の目的と方法
  血液検査(末梢血検査)
  尿検査
  血圧測定
  心電図
  画像診断
  国家試験問題から
 IV.治療の方法
  治療の定義・自然治癒能力 治療の原則 治療の種類
 V.疲労と休養・睡眠
 VI.食事と栄養
  量的な問題 質的な問題 食事のとりかた
第4章 子どもの病気・障害と生活の特徴
 I.病気・障害をもつ子どもの理解
  子どもの成長・発達に関する共通の観察のポイント
 II.病態・診断・治療と介護福祉
  脳性麻痺
  分類 原因 疫学 臨床病理 診断 合併症 治療とリハビリテーション 観察のポイント・介護のポイント
  筋ジストロフィー
  分類 症状 治療 観察のポイント・介護のポイント
  ダウン症候群
  染色体と疫学 症状 診断 治療・予後 観察のポイント・介護のポイント
  国家試験問題から
第5章 成人の病気・障害と生活の特徴
 I.病態・診断・治療
  脳血管障害
  分類 診断 症状 危険因子 治療 リハビリテーション
  筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  臨床症状 医学管理 リハビリテーション
  脊髄損傷
  診断 症状 治療 機能障害の尺度 合併症 リハビリテーション
  慢性腎不全
  症状 診断 治療
  大腸癌手術後(人工肛門造設後)
  塵肺症(酸素〔吸入〕療法)
  症状 診断 治療
  関節リウマチ(RA)
  症状 診断 治療 リハビリテーション
  国家試験問題から
 II.観察のポイント・介護のポイント
  観察のポイント
  日常生活力のアセスメント 社会生活のアセスメント 精神状態のアセスメント
  介護のポイント
  病気・障害別観察のポイント・介護のポイント
  高血圧症 がん 糖尿病 難病 中途障害(視覚障害・聴覚障害)
第6章 高齢者の病気・障害と生活の特徴
 I.病状・診断・治療と介護福祉
  脳血管障害(脳卒中)
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 リハビリテーション 観察のポイント・介護のポイント
  高血圧症
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  起立性低血圧症
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  パーキンソン病
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  心臓病(狭心症,心筋梗塞,心不全)
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  呼吸不全,救急医療
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  肺炎,嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  肺結核症
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 リハビリテーション
  血液病(貧血,白血病)
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  糖尿病と合併症
  主訴の表現と主な症状・経過 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  高脂血症
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  内分泌疾患(その1):肥満症
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法
  内分泌疾患(その2):甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  消化器病
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  慢性糸球体腎炎
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法
  慢性腎不全
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  痛風
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 観察のポイント・介護のポイント
  骨関節疾患:骨粗鬆症,骨折,リウマチ,拘縮
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査値のみかた 薬物療法 食事療法 リハビリテーション 観察のポイント・介護のポイント
  感覚器障害(視覚障害・聴覚障害,鼻出血)
  精神疾患(躁うつ病,統合失調症,心身症)
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 精神疾患の薬物療法 観察のポイント 介護のポイント
  悪性腫瘍(がん)
  種類,主な症状,主な検査 観察のポイント・介護のポイント
  生活習慣病・メタボリックシンドロームとQOL
  生活習慣病・メタボリックシンドローム,高齢者のQOL
  国家試験問題から
 第7章 高齢者の機能と生活に問題を起こす病気・障害の理解と介護福祉士のかかわり
 I.呼吸・循環に問題を起こす病気・障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  うっ血性心不全 不整脈 慢性肺気腫 気管支拡張症 塵肺症
  呼吸器の病気・障害と介護福祉
  呼吸器障害に伴う問題点 観察のポイント・介護のポイント
  循環器の病気・障害と介護福祉
  循環器障害に伴う問題点 観察のポイント・介護のポイント 記録のポイント
  国家試験問題から
 II.意識障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  脳血管障害 髄膜炎 脳腫瘍 熱中症 脱水症
  意識障害と介護福祉
  観察のポイント・介護のポイント 記録のポイント
  国家試験問題から
 III.移動・歩行困難を誘発する病気・障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  骨折 拘縮 運動麻痺
  移動・歩行困難と介護福祉
  寝たきり−自力で体位変換が不可能な場合−の介助 観察のポイント・介護のポイント
  歩行介助
  観察のポイント・介護のポイント
  車椅子介助
  観察のポイント・介護および操作のポイント 記録のポイント
  国家試験問題から
 IV.食事・嚥下困難を誘発する病気・障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  口腔咽頭性嚥下困難 食道性嚥下困難
  摂食障害・嚥下困難と介護福祉
  摂食行為の障害 食事動作の困難および障害 摂食障害・嚥下困難
  国家試験問題から
 V.排泄に問題を起こす病気・障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  尿失禁 便失禁 人工肛門(造設術) 前立腺肥大 膀胱神経症
  排泄障害と介護福祉
  排泄行為の障害 排泄動作の困難および障害 排尿・排泄の困難
  国家試験問題から
 VI.感染を誘発する病気・障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  疥癬 頑癬(たむし) 肺炎(急性・慢性) 黄色ブドウ球菌性肺炎(MRSA) エイズ(後天性免疫不全症候群)
  感染と介護福祉
  国家試験問題から
 VII.視覚,聴覚,言語に問題を起こす病気・障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  白内障(白そこひ) 緑内障(青そこひ) 難聴 失語症 構音障害
  視覚,聴覚,言語の障害と介護福祉
  視覚の生理的変化と観察・記録・介護のポイント 聴覚・言語の生理的変化と観察・記録・介護のポイント
  国家試験問題から
 VIII.味覚,口腔に問題を起こす病気・障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  口内炎 舌炎 歯肉炎
  味覚,口腔の障害と介護福祉
 IX.痛みを伴う病気・障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  頭痛 胸痛 腹痛 関節痛
  痛みと介護福祉
  国家試験問題から
 X.体力・気力の減退と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  老衰 衰弱
  体力・気力の減退と介護福祉
  身体的影響 精神的影響 社会的影響 観察のポイント・記録のポイント 介護のポイント
 XI.認知症と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  主訴の表現と主な症状・経過 病気の特徴と原因 検査法
  認知症と介護福祉
  国家試験問題から
 XII.女性生殖器に問題を起こす病気・障害と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  カンジダ膣炎 子宮脱 帯下(こしけ,おりもの)
  女性生殖器に問題を起こす病気・障害と介護福祉
  観察のポイント・介護のポイント
  国家試験問題から
 XIII.褥瘡の予防・治療と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  褥瘡とは? 褥瘡性潰瘍 予防 治療
  褥瘡と介護福祉
  褥瘡発生の原因 褥瘡の好発部位 褥瘡の分類 褥瘡の予防に当たっての観察ポイント 介護ポイント 記録・報告のポイント
 XIV.清潔の維持と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  清潔の維持と介護福祉
  身体の清潔 衣服(寝衣)・寝具の清潔 生活環境の整備,清潔について
 XV.薬の使用と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  薬物性腎障害 薬物性肝障害 その他
  薬の使用と介護福祉
  各職種の責任と権限 高齢者と薬 服薬と管理 各種の服薬
 XVI.ターミナルケアと介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
  医学的基礎知識
  対症療法 治療の限界 死の定義
  ターミナルケアと介護福祉
  終末期に臨む介護福祉士の基本的姿勢 観察ポイント・記録のポイント 介護のポイント
第8章 公衆衛生・保健・医療・介護保険制度と介護福祉
  学習到達目標
  介護福祉の視点
 I.公衆衛生の基礎知識
  公衆衛生活動の流れと現状
  人口静態・人口動態
  人口構造 出生 死亡
  疾病と受療の状況
  健康状態 受療状況 在院機関
  国家試験問題から
 II.保健対策の動向と介護福祉
  保健対策の流れと現状
  母子保健 老人保健 障害児・者対策 精神保健 歯科保健
  疾病・障害対策の流れと現状
  感染症 難病 その他の疾病対策
  国家試験問題から
 III.医療対策の動向と介護福祉
  医療対策の流れと現状
  保健・医療に対する法律と医療関係者
  医療施設
 IV.介護保険制度と介護福祉
  介護保険制度導入の背景
  介護保険制度の仕組みと介護支援サービス
  介護保険の展開
  国家試験問題から

 索引
 おわりに 富野康日己