やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 『新版 日本食品大事典』を大幅に改訂した第2版を発行することになった.前版から5年が経過したが,この数年間にわれわれの日常生活や世界の様相は一変してしまったと言ってよいだろう.食生活においては,2019年12月に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって食品の生産,流通,消費に対する影響が深刻となり,さらに,本年2月24日に生じたヨーロッパでの紛争によって,ウクライナにおける小麦の減産,輸出量の減少による世界の飢餓人口の増大が懸念されている.
 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」には「(1)貧困をなくそう」「(2)飢餓をゼロに」が含まれている.本書の読者の中には,食や食品の観点から,世界のあるいはわが国の飢餓の問題に取り組んでいる方々もいらっしゃると思われる.一方,わが国では,食料自給率(37%,カロリー・ベース,2020年)の向上と,国民一人当たり年44kgにもなる食品ロス(522万トン,2020年)の低減を図ることが積年の課題となっている.
 本書と関係のある大きな事項としては,2020年12月に改訂された,文部科学省の「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」の公表がある.この改訂では,エネルギーの算出方法が変更になり,国際的に推奨されている計算方法を基にしたエネルギー値が収載されることとなった.すなわち,従来のたんぱく質に替わって,アミノ酸組成によるたんぱく質,従来の脂質に替わって,脂肪酸のトリアシルグリセロール当量,従来の(差引き法による)炭水化物に替わって,利用可能炭水化物,有機酸等が優先されて収載され,実際に摂取するエネルギーに近い値の提供ができるようになっている.
 本書は,(1)当該食品成分表に収載しているほぼ全ての食品について食品番号と食品名を網羅している,(2)新しい収載値に基づく記述をしている,(3)当該成分表には記述されていない試料や収載値に関する情報を記載している,などの特徴をもつ.本書の構成の多くは前版のものを踏襲しているが,分類学の新しい知見の導入,参考となる写真の入れ替え,統計情報に基づく記述の見直しなど,最新の情報に基づいた内容のものとなるよう努めている.
 本書は『日本食品事典』(1968年,第2版1975年)を起源とし,『新編 日本食品事典』(1982年),『日本食品大事典』(2003年,第2版2008年,第3版2013年),『新版 日本食品大事典』(2017年)と書名を変えながら,半世紀以上にわたって版を重ねてきた.今回の改訂を行い,改めて多くの読者の支持に支えられてきたことに感謝している.今後も本書が多くの読者にとって,何かの参考になることができれば,そして,本書が食や食品に携わる専門家・学生・医療従事者・教育者の方々をはじめ,食に関心をもつ幅広い読者の方々に役立てていただければ,これに勝る喜びはない.
 なお,本書の出版は多くの方々の多大なご尽力によるものである.今回,引用と参考にした旧版を執筆された先生方,ご多忙の中,新たな執筆をお引き受けくださった大学や研究機関などの先生方,また長期間の編集作業に携わった伊藤祐次氏をはじめとする医歯薬出版株式会社編集部の方々に対し厚く御礼を申し上げる.
 2022年8月
 平 宏和
 田島 眞
 安井明美
 安井 健